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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.12】アンリ・マティス「オダリスク」シリーズ

今日はアンリ・マティスの「赤いキュロットのオダリスク」「グレーのズボンのオダリスク」「座るオダリスク」「座るオダリスク(2)」「オダリスクたち」


それぞれオランジュリー美術館、メトロポリタン美術館、ボルチモア美術館にあり、2点はおそらく個人蔵です。



マティスは近代フランスの画家で、ピカソとともに20世紀美術最大の巨匠と呼ばれています。「色彩の魔術師」とも呼ばれており、晩年はアトリエに鳥を300匹飼ってたり家が植物園状態で、癒しに満ちた緑の世界をたくさん描いた画家でもあります。



21歳の頃虫垂炎で療養中だったマティスは、暇潰しに母から「絵描いたら?」と進められたのをきっかけに、絵にのめり込みます。絵に出会った時の気持ちを『天国のようなものを発見した』と語っています。いいですね~運命や。


マティスと言えばフォーヴィスム(野獣派)のリーダー的存在ですが、たった3年だけのスタイルな上、本人はそう呼ばれることを嫌がっていたそうです。




フォーヴィスムとは原色を多用した強烈な色彩と、激しいタッチが特徴で、目に映る色彩ではなく、心が感じる色彩を表現しました。


ちょっと脱線しちゃうけど胸熱な話があるのですが、このフォーヴィスムを指導したの、実は「サロメ」で有名なギュスターヴ・モロー先生なんです。モロー先生、実はアカデミーが主催する美術学校の先生だったので本当は真面目に古典的な描き方を教えなきゃいけないのですが、生徒のマティスやルオーには伝統的様式を押し付けることなく、ひとりひとりの個性を自由に伸ばす美術教育をしたそうです。モロー先生やるやん…!!



とまぁそんなわけで、マティスは初期は激しいタッチと色使いでフォーヴィスムを切り開きましたが、1920年からは鮮やかな色彩を保ちながらもとっても柔らかい絵になっていきます。




では、1920年以降、フォーヴィスムから画風が変わったきっかけはなんだったのでしょう?



その答えは「旅」と「第一次世界大戦」にあります。


1906年にマティスはアルジェリアへ旅行し、アフリカのアートに影響を受けます。
1910年にはイスラム美術を学ぶため2ヶ月間スペインで過ごしました。
また、1912年と1913年にはモロッコを訪れています。
こうしてマティスは地中海とは別の、装飾的なアラベスクや自然の光に大いに感銘を受けて、ここで得たインスピレーションを作品に表すようになったのです。



そしてもうひとつ忘れてならないのが1914年から1918年に起きた第一次世界大戦です。


この戦争がもたらした深刻な被害と社会不安を受けて、世の中で秩序、安定、統一性の回復を願う精神風土が生まれます。


それによりマティス、ピカソ、アンドレ・ドランなど第一線で前衛的な美術の道を切り開いていた多くの芸術家たちが、創作の源泉を古典美術に求めるようになりました。これが「古典回帰」です。なるほど、戦争によって一時期人々が求める芸術の形も変わったのか…。


そのマティスの「古典回帰」時代の代表作品が、今回ご紹介するオリエンタルな雰囲気漂うオダリスクシリーズです。
この時マティスは『私は人々を癒す肘掛け椅子のような絵を描きたい』と話しています。優しい(涙)


「オダリスク」の描き方を見るに、ティツィアーノからはもちろん、アングルからも影響を受けていることがわかりますね。



さて、これらの絵はどうやって描いたかと言うと、アトリエの1室のくぼみ(アルコーブ)にモロッコで見た異国情緒溢れるインテリアを思い浮かべて、カウチ、鏡、パーテーション、オリエンタルな布、敷物、チェスボードなどを使って実際に空間を作り込んじゃいました。なんとかわいい。そのときの写真もあります。



マティスの描くオダリスクは、豊かでゆったりとしたポージングで艶かしさがありつつも、背景の装飾や、身に付けている鮮やかでエキゾチックな服装やアクセサリーがなんともおしゃれで、官能的というよりは、人間の本来の美しさが際立ちますね。綺麗。



この前「赤いキュロットのオダリスク」を見ましたが、とにかく色彩の鮮やかさ、色と柄のびっくりするような組み合わせ、それから盛り度100%な背景に感激しました。めっちゃ盛れてる♡


今回、他のオダリスクシリーズも見て(紹介したもの以外にもまだまだたくさんあります!)、マティス、プロップスタイリストやーん!って思ったし、旅に刺激されて創作意欲がわくのはマティスも同じなんだなぁと嬉しくなりました。わたしはモロッコの文化がめちゃくちゃ好きなのにまだ行ったことがないので、近いうちに行けたらいいなぁと思っています。


また、第一次世界大戦終焉で世の中の人々が求める芸術が一時期変わったことも今回初めて知ったので、今も時代が大きく変わっていく中で、みんなに寄り添える芸術の形を考えることも大切だなぁと思いました。
芸術や歴史から学ぶことはたくさんあるなぁ。

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