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まるであたたかくふりそそぐ陽の光のように

「これまで行った中で一番好きだった国はどこ?」

たくさんの国を旅していることを話すと、そう聞かれる機会が必然的に多くなる。
ご飯が美味しかった国、景色がきれいだった国、人が優しかった国、それぞれ一番は別の国だから、全部の「一番」を決めるのはわたしのとっては少し難しいのだけれども、その中でももし一番を決めるとなると、きっとわたしはイタリアだと答えるだろう。

 

ドイツに留学していた当時。
ヨーロッパにいるうちにといろいろな国を訪れていたためか、半年もたったころには旅は珍しくなくなってしまって、日常の一部になっていた。
そんな留学の終盤。数か月後に日本に帰るにあたって、そろそろ日本に帰る航空券を探したり、日本に帰ってからの予定を立てないといけないなという時期に訪れたのがイタリアだった。

にぎやかで観光客にあふれているイメージのある国だから、友達と行こうと、旅が日常に溶け込むほどになるまで予定を先延ばしにしていたけれども、本当はヨーロッパに来たら一番に行きたい国だった。
理由は簡単、パスタが大好きだから。

「どこの国が好き?」と同じぐらい難易度が高い「どの食べ物が好き?」という質問に、「パスタ」と即答するほどに大好きな料理の故郷を訪れずないままには日本に帰れない、とすら思っていた。

 

そんなちょこっと不純な動機で訪れたイタリア。
そこでのできごとがわたしのイタリア旅を大きく印象に残るものにしてくれた。

1週間ちょっとでローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアの3つの都市を訪れるタイトなスケジュールだったわたしは、最後のヴェネツィアを訪れるころには少し疲れてしまっていた。それでも実は一番楽しみにしていたヴェネツィア。カメラを持って町へと出かけた。

 

最初は二人旅だったけれども、友達は先にドイツに帰ってしまい、一人でヴェネツィアを散策していた時、休憩がてらふと見つけたレストランに入った。

注文をしてテーブルで料理を待つ。店内を見まわしていると、ふと隣にお母さんと男の子が座った。日本人で言うところのまだ小学校に挙がっていないぐらいだろうか、一生懸命にお母さんとどれを食べるか選んでいるところが印象的だった。

そんなこんなしているうちに、頼んでいた料理が運ばれてきた。
旅先ではつい料理の写真を撮ってしまうわたし。その時もまるで習慣のように自然とシャッターを切っていた。3~4枚写真を撮ったとき、それとなく視線を感じて親子が座っていたテーブルを見てみると、男の子がちょっと恥ずかしそうににこっとしながら「Bon appétit!(召し上がれ)」と声をかけてくれた。

おそらく料理の写真を撮っていた観光客が珍しかったのだろう。でもそのたった一言がわたしの食事を彩ってくれたのは間違いない。

 

翌日。わたしは「ブラーノ島」というカラフルな家で有名な観光地へ出かけていた。日がさんさんと照る中、陽の光をうけてカラフルに光る家たちはどこか楽しそうで、家の間を吹く風に揺られる洗濯物はこの島での「日常」を感じさせてくれていた。

カラフルに光るその光景は、決して普通ではない景色なはずなのに、島に散りばめられた「日常」のかけらたちが、この島の日常を語り掛けてくれる。

そんな不思議な街を歩いているとき、ふと一件のアクセサリー屋さんが目に留まった。外観や店頭で売られている商品が特段がわたしを惹きつけたわけではなかったけれども、気づいたらなぜかお店に入っていた。

レース細工やガラス細工でも知られているこの島には、それを活かしたお土産がたくさん売られている。目に留まったお店もその一つだった。

 

店内に入るとレースを使ったピアスや、この島らしいカラフルな色遣いのガラスのピアスがたくさん並んでいる。ガラスのピアスは手作りなためか、ひとつひとつ柄が違い、同じ色合いでも雰囲気が全然違う。

選ぶのに時間がかかってしまったけれども、なんとか自分へのお土産と友達絵のお土産を選ぶことができた。

「~~ユーロだよ」と、私の母よりも少し年上ぐらいの年齢のお母さんがお会計をしてくれる。ドイツも通貨がユーロなので、わたしも手慣れた手つきで小銭を探す。細かな金額は覚えていなかったけれども、13ユーロだとか、18ユーロだとか、ちょっと中途半端な数字だったのは覚えている。
ちょうどがなかった私は15ユーロだか20ユーロだか、その金額をちょっと上回る金額をお母さんに渡した。

するとお母さんが、「ちょうどは持ってないの?そしたら端数はいいよ」といってくれたのだ。わたしがびっくりして「そんな、大丈夫だよ」と伝えると、お母さんは「いいのいいの、今日はラッキーだね」とちょっといたずらっぽく笑って商品を渡してくれた。

もしかしたらいくつかまとめて買ったからおまけをしてくれただけなのかもしれないけれども、「おまけだよ」といわれるよりもはるかに嬉しくて、そして心があったかくなった。

 

観光大国とも言われているイタリア。実際に世界遺産の数は世界でも一番多い。
パスタが大好きでこの国を訪れたわたしのように、ガイドブックに載っているような観光スポットを目当てにこの国に訪れる人はたくさんいるかもしれないけれども、きっとこの国の魅力はそれだけじゃない。

この国に住む人はちょっとはずかしがり屋で、ユーモアにあふれていて、そしてとてもあたたかくて優しい。
カラフルで、エネルギッシュで、魅力にあふれているこの国に住む人は、あたたかく、そして優しく訪れた人を包み込んでくれる。

ガイドブックには載っていないこの国の魅力は、映像や写真ではなかなか伝わらない代わりに、訪れた人たちをきっとこの国にくぎ付けにしてしまう。

もちろんわたしもその一人だ。

 

きっともしなにかに行き詰ったり、ちょっと息抜きをしたくなったら、またこの国を訪れるだろう。

きっとこの国の人は、次もあたたかくわたしを迎えてくれるような気がしている。

まるであたたかくふりそそぐ陽の光のように。

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