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動画・音楽における違法ダウンロード逮捕は0件 静止画等への拡大は無意味な改正ではないのか?

現在、文化庁主導で、違法ダウンロードの刑事罰化が議論されている。

一旦、政権与党である自民党の総務会は議論不足として差し戻したものの、何かと問題点を指摘されている文化庁案に修正が加わるかは不透明だ。

動画・音楽における違法ダウンロード逮捕は0件

2012年、静止画等に先駆けて、動画や音楽の違法ダウンロードは刑事罰化されている。

著作権法
第八章 罰則

第百十九条 3 (前略)著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

著作権侵害事件をまとめている ACCS(一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会) によると、違法ダウンロードが刑事罰化された2012年以降の事例別件数は次のようになっている。

一目瞭然で、違法ダウンロードによる逮捕は0件だ。

著作権侵害の因果関係を考えれば、違法ダウンロードよりも違法アップロードの方が優先順位は高く、警察も違法アップロードの方に力を入れているのだろう。とはいえ、0件というのは、違法ダウンロードの刑事罰化は全く機能していないと言わざるを得ない。

違法ダウンロードの取り締まりが進まないことに関しては、その使い勝手の悪さを指摘する意見もある。

①著作権侵害は親告罪で、権利者による告訴なしには捜査を始められない
②ファイルが保存された経緯が不明で、違法ダウンロードの立証が困難

①については、権利者との意思疎通を密にできれば改善は可能かもしれない。しかし、②についてはハードルが高いように思える。

怪しいファイルを見つけたとしても、警察は、それが違法にダウンロードされたことを立証しなければならない。正規に手に入れたファイルなのか、それとも海賊版サイトからダウンロードしたものなのか、その判別は、すべてのファイルにトレーサビリティー情報が付いているような世界でなければ難しいように見える。

動画や音楽で成果を上げられていない違法ダウンロードの刑事罰化。刑事罰の対象を静止画等に拡大したとして、本当に意味はあるのだろうか?



ネットを学ぶ機会もなかったユーザーへの留意は?

違法ダウンロードは、ユーザーの規範意識の問題であると同時に、ネットを使いこなす能力の問題でもある。

違法ダウンロードの常習性が高いために証拠が残っていて、違法ダウンロード者が逮捕されるケースもあるだろう。しかし、ネットユーザーが爆発的に増えた現代には、「ネットって何でもできるんでしょう?」というリテラシーの低いまま、学ぶ機会もなくネットに接しているユーザーも多い。

前者は捕まえる意味もあるだろうが、後者にまで嫌疑をかけることに筆者は疑問を感じている。

後者は、ネットを使うことに精一杯で、規範意識を発揮する以前の段階にいる人々だ。こうした人たちは、目の前にあるファイルが違法にアップロードされたものなのか、正規にアップロードされたものなのか、確認することさえも難しい。

note の読者なら問題はないだろうが、違法ダウンロードの取り締まりをやるには、ネットを学ぶ機会に恵まれなかった人々への教育機会を設けなければアンフェアであるように筆者は思う。



違法DL取締りは、海賊版サイト運営者の致命から遠い

海賊版サイトの中には、日本語の説明書きがあり、いかにも日本人が運営していそうなサイトもある。しかし、英語の説明書きのみで、外国人ユーザーが多いと思われる海賊版サイトも存在している。

日本からの違法ダウンロードを取り締まれば、日本人ユーザーは、そうした海賊版サイトから離れていくかもしれない。

しかし、その海賊版サイトを支えているのは日本人だけなのだろうか? 日本人が居なくなったとしても、結局は、外国人ユーザーを相手にサイト運営を継続するだけではないのか?

国境線が引かれているわけではないネット世界において、日本人ユーザーへの締め付けだけで得られる効果には疑問が残る。

著作権を侵害する違法ファイルの流通対策として、海賊版サイトにやって来るユーザーを取り締まるというのはあまりに遠回りな方法だ。そこではなく、海賊版サイトの運営者本人を直接に取り締まる工夫こそ、確実な成果が見込める対策だろう。



DLを伴わないストリーミング型の海賊版サイト

今はなき漫画村に代表されるストリーミング型の海賊版サイトでは、そもそもユーザーはダウンロードをしない。違法ダウンロードを刑事罰化しても、ストリーミング型のサイトには意味がない点は指摘しておく必要がある。

漫画村の運営者が、どういう判断でストリーミング型を選んだのかは分からない。しかし、自分のサイトで扱う物とそれを欲しがるユーザーの動きをよく掴んでいたと筆者は思っている。

①ユーザーにとって雑誌は一度読んだら終わり
何度も読み返すような作品は後で単行本を買う訳で、雑誌は一度読んだら読み捨てるものだ。ユーザーが、雑誌を持っておくことに執着しないのであれば、別にダウンロードさせる必要はないのである。

②ダウンロードは、ユーザー側の保存容量もバカにならない
某海賊版サイトによると週刊少年誌は 150MB 程度のファイルサイズになるようだが、1年間ではこれが52冊になり、複数誌を追いかければ必要容量は掛け算されていく。しかしストリーミングであれば、ユーザーはその保存容量を気にしなくて済む。

③ユーザーはタブレットやスマホも使う
パソコンであれば後からHDDを追加していくことも容易だが、タブレットやスマホではそうもいかない。ネット閲覧に使うデバイスが多様化した以上、タブレットやスマホでの使い易さも考える必要がある。

④海賊版サイトが欲しいのは閲覧数と滞在時間
ネット広告で収入を得たり、ネット検索で上位をとったりするために必要なのは、ユーザーの閲覧数と滞在時間だ。ダウンロード型ではダウンロードだけされて他のページへ移動される可能性も高くなるが、ストリーミングで漫画を見せればユーザーは読み終わるまでページから離れずに居る。

海賊版サイトがユーザーのことを考え、サイト運営者とユーザーの間で悪い win-win 関係を築けるストリーミングサイトを作り出した中、文化庁は違法ダウンロードの刑事罰化にこだわっている。

文化庁がやっていることは、周回遅れの発想なのではないだろうか?



違法ファイルへ誘導するリーチサイトは、現行法の延長で可能では?

リーチサイトとは、リンクを使ってユーザーの誘導を行うサイトだ。ユーザーのサイト閲覧によって広告収入などを得て、ユーザーを違法アップロードされたファイルがあるページ等へ誘導する仕組みになっている。

リーチサイトの大手だった「はるか夢の址」は2017年10月に運営者が逮捕され、2019年1月に有罪判決が出ている。

しかし、有罪に持っていった筋道は少し複雑で、サイト運営者と違法アップロードをしていた者との間に共謀関係が認められたことが大きいようだ。

つまり、違法アップロードに関わりがないリーチサイト運営者の場合は、まだどうなるか不明という状態にある。

リーチサイトと典型的な海賊版サイトの違い
そもそもリーチサイト運営者に必要なのは、違法ファイルをダウンロードできるページの URL のみだ。

リーチサイト運営者にとって、ユーザーに見せたいファイルを、どこの誰がアップロードしているのかは関係がない。目的のファイルが上がっているページの URL さえ分かっていれば、後は、自分が運営するサイトからリンクを貼るだけで用が足りてしまう。

リーチサイト運営者自身は、必ずしも違法アップロードに関与するわけではないのが、典型的な海賊版サイトと異なる点である。

現行法の延長で取り締まりを考える方が素直だろう
リーチサイト運営者は、確かに違法アップロードへ直接関与していないかもしれない。

しかし、違法アップロードされたファイルの所在情報を拡散することで、著作権侵害を拡大させていることは明白だ。

であれば、著作権法において、違法アップロードを行った者を正犯、リーチサイトのように情報を拡散した者を幇助犯として扱えるようにすれば済むように見える。

また、リーチサイト運営者が、当該ファイルを違法アップロードされたものと認識できる場合、そこには正規の流通を妨げる故意が存在する。ならば、リーチサイトからリンクを貼った行為をもって、著作権侵害の正犯と考えてよいのではないだろうか?

おそらく、違法ダウンロードの話を考えなくとも、リーチサイトを排除していくことは可能だろう。


まとめ

過去に「違法ダウンロードの刑事罰化によって、2013年のアニメDVDの売上が伸びた」という発言もあったようだが、都合のいい箇所の抜き出しを統計分析とは呼ばない。

日本映像ソフト協会や日本レコード協会が公表しているグラフを見るかぎり、2012年以降、動画も音楽も違法ダウンロードの刑事罰化が要因と思われる売上改善はない。

ちなみに、2013年にアニメDVDが伸びたのは、黒子のバスケ2nd SEASON や進撃の巨人、Free!といった人気作品が集中した年だったという根拠を示すことが可能である。

このように、動画でも音楽でも成果のなかった違法ダウンロードの刑事罰化が、静止画で成果を上げられるかどうかは疑問だ。

しかも、ストリーミング型の海賊版サイトに対しては無力であり、リーチサイトを閉鎖に追い込むのにも時間のかかる手法である。

筆者は、クリエイターの法益保護に繋がるかどうかも怪しく、国民を威圧するだけの法規制ならば、存在価値は無いと考えている。



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刑事罰へのこだわりが、国際的な取り組みを阻害している可能性

クリエイターがより多くの作品を生み出すには、正当な対価を得ることで生活を安定させる必要がある訳で、著作権は保護される必要がある。これは大前提だ。

しかし筆者は、著作権侵害を刑事罰にすることは、著作権保護に関する各国の足並みを乱す要因になっているのではないかと考えている。

容疑者に対する処遇は、国によって異なる
ある罪を犯した容疑者に刑事罰を科すには、捜査や逮捕拘束、証拠品押収など、その刑罰が確定する前から人権に制限がかかる。

逃走や証拠隠滅を防ぐために必要な措置であるものの、容疑者に対する処遇は国によって異なる。日本の場合、米国の場合、中国の場合、サウジアラビアの場合…。取り調べのやり方や弁護士の有無、通訳の扱いなど、容疑者の扱いにはかなり差があるだろう。

国境を超えて犯行がなされた場合、容疑者の引き渡し等で揉めるのは、容疑者の扱いについて国家間で信用がないからだ。身柄を要求してきた相手国で自国民がどう扱われるのか、国家としては慎重にならざるを得ない。

ネット社会での著作権侵害は容易に国境を超える
ネット上で行われる違法アップロードや違法ダウンロードは、往々にして国境を超える。著作権を保護しようとすると、必然として、国際的な取り組みを考えることになる。

しかし、国ごとに刑事事件の実務は違っている。このような状況にあって、各国はどこまで足並みを揃えることが可能なのだろうか?

あるクリエイターが作った著作物を、他人が勝手にばら撒いて収入を得るのは盗品で商売をする話であり、処罰感情が生まれるのは当然のことだ。

しかし、処罰感情が先走って権利者の利益に繋がってないとしたら、それは本末転倒なのではないだろうか?


民事的解決を考えた方が、権利者の収益につながる可能性

デジタルファイルは、手軽に、どのデバイスでも、劣化すること無く、無限にコピーを作れるという特性がある。この特性を考慮して、物品とは異なる扱い方をしても良いのではないだろうか?

具体的には、他人が著作権を持つファイルを違法にアップロードした者は、
当該ファイルのダウンロード数または閲覧数に応じて、権利者に対する仕入債務を負えば良いと筆者は考えている。

本の場合、書店は販売価格の80%程度で本を仕入れているため、違法アップロードされた漫画にも同額の仕入債務を認めてよいだろう。

身柄拘束などを伴う刑事事件にしてしまうからこそ、各国は自国民の保護を考えて慎重にならざるを得なくなるのではないか? しかし、著作権の権利者と違法アップロードをした者との間に生じた金銭債務の問題であれば、わざわざ国家が間に入る理由はないだろう。

違法アップロードされたことに腹は立つだろうが、仕入債務の回収が出来るなら権利者としては収益を確保できる。違法アップロードをした者は、債務を返済すれば逮捕を免れる。国は捜査などのコストを払わずに済む。

というように、民事的解決を図る方が権利者の利益に繋がるのではないかと、筆者は考えている。


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