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からゆきさんま煮

今や高級魚になった感がある秋刀魚。もう冬になるので、これが今年最後の秋刀魚かと思い、辛く煮ながら近代日本を陰から支えた存在と現在にも繋がる問題を妄想した記録。


材料

秋刀魚   3尾
生姜    一欠け
味噌    大匙3
豆板醤   小匙1
酒     大匙1
醤油    大匙1
胡麻油   適量
大根おろし 好きなだけ

明治維新を成し遂げ、近代化への道を歩み出した日本。
富国強兵のために産業を起こして、軍備を整えるには資金が必要。外貨稼ぎのために輸出された重要品目の一つが女でした。
海外へ出稼ぎに行けば、大金を手にして両親にも楽をさせてやれる。女衒の誘い文句に惹かれて主に西九州、天草や島原等の若い女性が東南アジア等へ渡航。
仕事の内容とは売春。


頭を落とした秋刀魚を四分割。

具体的な仕事内容を告げず、或いは騙して海外へ連れて行き、タイやフィリピン等の娼館で女性達は客を取らされる。港に船が入った時は書き入れ時時とばかりに一晩で50人近くの相手をさせられたといいます。
そうした実態は「サンダカン八番娼館」という小説、それを基にした映画に描かれています。こうした女性達がからゆきさんと呼ばれた存在。
からとは唐であり、元々は中国のことですが、広く外国をそう称するようになり、外国行きをからゆきと呼んだということ。
輸出出来る工業製品とか農産物が乏しい日本、使える資源とされたのが大和撫子という訳。


大根をおろす。

若い女を性奴隷として輸出することを明治天皇に進言したのは福沢諭吉。
実際に事業を請け負ったのは三菱。船を出したのが日本郵船。
壱萬円札の肖像ともなっている福沢諭吉ですが、そもそも何をした人?日本国にどういう貢献をしたのか?
この問いにどれだけの人が答えられるでしょうか?
「学問ノススメ」を書いた?それを読んだことありますか?私もないし、大多数の人が教科書で名前を見た程度でしょう。
慶應義塾大学の創設?それはあくまでも私学であり、そこを卒業した優秀な学生が政財界や文化面で日本に貢献したとは言える。でも直接の貢献ではなく、あくまでも間接的な貢献。
本当に日本国へ貢献したのは、この国家ぐるみの人身売買を献策したこと。


材料と調味料、細切りの生姜、被る位の水を入れて圧力鍋へ。

当時の日本政府は海外への移民を奨励。ハワイやブラジルの日系人はそうした方々の子孫。広義にはそうした人々もからゆきでしょうが、からゆきさんと言えば、主に売春婦として売られた女性を指すことが多い。
当のからゆきさん達ですが、たくましく生き抜いた人々も少なくなかった。
シンガポールに立ち寄った夏目漱石や森鴎外も、見聞したからゆきさんのことを書き遺しています。「皆、微塵も暗さがなく愚痴や泣き言は一切、言わない」と。
置かれた境遇を嘆いても仕方がない。そこで生き抜いてやると突き抜けた考えか?女は強い。稼いだ額の半分が娼婦の取り分。そこから渡航費や親に渡した借金の返済分として更にその半分が引かれる。それでも彼女達は日本に残る家族に送金。正に狙い通りの外貨獲得ということか。

日露戦争が起こると、ロシア人の客から聞き出した情報を日本に告げる密偵めいたことをした人、自分の稼ぎから戦費のたしにと寄付した人。
自分達を騙して売り飛ばした日本政府は兎も角、故郷に残る家族の安寧を願ってのことでしょうか。いじらしい。


7分程加圧。

こうした国家主導の人身売買は終戦まで続いたようです。からゆきさんとして売られた女性の数は30万人以上とか。
やがて、海外へ出た女性達が売春婦となっていることが国内にも聞こえるようになってくると、多くの人々は国家を弾劾するのではなく、からゆきさん達を蔑視するようになりました。
国の恥のように言われるようになったということ。
好むと好まざるとに関わらず、そうさざるを得ない立場に追い込まれた弱い女性達を更に蔑んだ。


大根おろしを乗せる。

こういうことは現代でも起こっています。
売春ということは本来、ない方がいいでしょう。しかし、そうせざるを得ない弱い立場の人達を蔑むだけで、何ら救済の手立てや根本的な問題解決には目を向けようとしない。
お体裁ばかりを大事にして、社会的な規範に合わない、見苦しいということで排斥する。
日本人からは寛容という精神が近代化と共にどんどん失われていっている。


からゆきさんま煮

辛い味噌味の煮物ですが、雪に見立てた大根おろしが辛みを程よく中和。辛いのが好きな人は大根おろし少な目に、辛いのが苦手な人は多めに。
大根おろしは消化を助ける。大根おろしに含まれるイソチオシアネートは抗酸化物質。老化の原因である活性酸素を除去してくれる。
秋刀魚からタンパク質、鉄分も頂ける。
生姜と豆板醤の辛みが体を温め、カプサイシンが脂肪燃焼といいことずくめの煮物。

昔の女衒は借金で女性をガンジガラメにして海外へ売った。
今でも様々な理由でそういう業界に足を踏み入れる女性はいる。
多様性とかダイバーシティとかいう言葉を都合がいい時だけ使って、上っ面の良さに合わない多様性は認めない風になっていないか。
性産業の人達に限らず、ホームレス、障碍者等、弱い立場の人達に知らず知らずの内に蔑視を向けていないか。時には自問してみる。

とりとめのない妄想をしながら、からゆきさんま煮をご馳走様でした。

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