『朝焼けになった君』

――毒々しいほど赤く
あでやかな朝焼けを見るたび
夜空を、殺してしまったことを思い出す
君を、永遠にしたかったわけじゃないのに

空の匂いをかぐとき
顎をつんと反らせて
瞳を閉じる君は
まるでそよ風に溶けるように
透明な顔になって
ボクを一人にする
(こんなに美しい白い喉をボクは見たことがない)

だから僕は空にメスを入れる
すっと線をひくようにスマートに
びらんとめくれあがった空の裏地は
恥ずかしいほど夜色で
星屑が蜜のように溢れだす

ボクがそうすると
君は一瞬眉を八の字に寄せ
瞳を開けてくれる

ほらね
これでまた君と繋がれる
純度の高い軽蔑で
絶望的な憐れみで
官能的な蔑みで
緊密に
濃密に
ボクを侵してくれる

だのに
空のやつ
めくれあがった裏地をまとって
星ひとつない夜空なんぞに
ドレスアップしようとするから
君がまた夜気の気配を嗅ごうと
顎をつんと反らせてしまった
(耳の下で綺麗に揃えられた
真夜中みたいに黒い髪が艶やかに揺れて
君の白い喉が見えた)

だからボクは地平線にメスを入れようとした
今度こそ
空から血の雨を降らせたくて

ううん、そうじゃない
地平線から生まれる前の太陽の卵――
(狂ったように黄色いひまわりに似てる)を取り上げて
君の気を引きたかっただけ……

けれど
メスはあまりに軽薄に
安い茶番を見せられているかのような赴きで
吸い寄せられるようにすうっと
(だって白い喉が見えたから)
ちょうど出来立ての瑞々しい豆腐に
包丁を入れるみたいにすうっと
ごく自然に、静かに入った
(スローモーションで)
ツ、ツツー…

――赤

――鮮血

――雨

――喉

――花火

空に吹き上がった赤は
油彩絵具のごとく幾重にも塗り込まれ
吹き上がるたび鮮やかに夜空を染め
やがてそれは
いまだかつて誰も見たことのない
美しい“朝焼け”になった


――毒々しいほど赤く
あでやかな朝焼けを見るたび
夜空を、殺してしまったことを思い出す
君を、永遠にしたかったわけじゃないのに

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。