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『シャーロック・ホームズの事件簿』~ホームズなんて足湯小説だ、なんて言ってごめん⑩~

ミステリを勉強しようと思い、ホームズ月間を設けて順々に読んだ。読んでいくうち、訳者によってホームズたち登場人物の味わいや、そこから広がる作品全体の趣に差があることに興味が沸いた。新潮社版延原訳が神。

※大昔ホームズを読み進めていた頃の記録メモの⑨です。

・高名な依頼人
「ボール箱」にも、いつものホームズ紙芝居的に、
飲み込めないものがあってビビったけど、
この「高名な依頼人」にも、ある種の
生っぽい怖さを覚えてワクワクした♪

メルヴィル嬢というお嬢様が、実は非常にワルな、
グルーナー男爵というヤツの口車に乗せられ、
そいつと婚約することになるんだけど、
それじゃ困るってんで、恋は盲目になってるお嬢様の目を
さまさせてやってくれないか、という依頼話。

何が怖いって、グルーナー男爵は催眠術を使うのか、
まぁ、手段はともかく、相手をマインドコントロールして
どんな横槍も、すべて自分たちを別れさせるための
讒言に見えるよう、色眼鏡を仕掛けれるところが怖い!

いくらホームズが実際の被害者をつれてきて、
目の前で証言させても、聞く耳をもたないんだから。

なに言っても、「ずいぶん我慢してお話を
うかがっておりましたけれど、
私の気持ちははじめに申しあげておきました通り、
少しも変わりございません」だもん。

打つ手があるのか心配になったし、
ある意味最強の敵だと思った。

男爵の賢いところは、昔、悪いことをしてきたことを
お嬢様に告白していること。
全部じゃないだろうけどね。

それだって、
「ああ、自分には全てを打ち明けてくれて
すっかり生まれ変わっているんだわ」
って思わすための手口さ。

けど、お嬢様にかかると、
「せっかく改心して懺悔してやまない人を
未だに悪く言って貶めるなんて絶対に許せない。
人間は変わりえる、ということを信じられない、
可哀想な人たちだわ」

「グルーナーは確かに昔悪かった。
でも、今をその分、まっとうに生きようとしている。
そして、私を愛してくれている。ああ、グルーナー。
誰があなたを貶めても私だけは信じていてよ」ってな具合?

ホームズたち偉いよ!

・白面の兵士
負傷で戦地から退き、それがもとで
離れ離れになった戦友が、音信不通になっている

家を訪ねてみても、諸国漫遊の旅に出たとかほざいて、
ラチがあかない。

家を探ってみると、病的に顔面蒼白になった友らしき姿が!?

すけきよか(笑

これ、ホームズ視点で書かれてる。
読者サービスかな?って、延原さんは書いてたけど、
これは自分が飽きないように、工夫したんじゃないかなぁ。

実際に、友人が見つかったのかどうか?
そして白面男の謎は、ご一読あれ!

・マザリンの宝石
十万ポンドのマザリンの宝石を盗んだ犯人が、
直接アパートに乗り込んでくる。
空き家の事件のトリックを少しツイストさせて、
敵を油断させ、まんまとごっつぁんです。
三人称で書かれた滑稽な一話。

・三破風館
《三破風館》を中身まるごと全部合わせて、
高値で買うという男があらわれて、
疑念に思ったメーバリー夫人が
ホームズに調査を依頼。

裏には、さる金持ち女のスキャンダル隠しの陰謀が?

・吸血鬼
ワトスンの旧友の再婚相手が、
旧友と前妻との間にできた十五才の息子に
理由もなく打擲を加え、
自身の赤ん坊から血を吸っているところを目撃する!?
旧友は妻が吸血鬼になってしまったのかと疑うが。

これは途中で、内容を見抜けて気持ちよかった!

・三人ガリデブ
ガリデブ3人集めたら、一人当たり五百万ドルの
遺産を与えてもいいという遺言!?
そんなバカな。
「赤髪」の亜種だとすぐわかった。

・ソア橋
橋のたもとに、頭部に銃弾を受けた女の死体が。
金山王ギブスンの妻だ。
現場には凶器も、目撃者もいない。
捜査上、女家庭教師ダンバー嬢が容疑者として
逮捕されるが…。

これは、切なかった。
奥さんそこまでやるかってなもん。
ダンバーは、ギブスンの舵までとろうとしてて
偉い奴だった。

・這う男
高名な生理学者プレスベリー教授に異変が?
教授は最近、親子ほども歳の離れた
アリス嬢と婚約した。

彼女は非の打ちどころのない麗人。
彼女に夢中な教授だが、
問題は年齢の差だった…。

そんなある日、
教授はまるで人が変わったかのように、
深夜に床を這って屋敷内を徘徊するのだという!
いったい教授に何が起こったのか?

面白い! 這う教授が不気味!
頑張る気持ちもわかるけどね。

・獅子の鬣
これは、赤いミミズばれができて死んだことで、
最初から犯人が予想ついた(海育ちだからさ)。
あとはミスリードの情報をどう配置するかだけ。
ホームズ視点もの。

・覆面の下宿人
メリロウ夫人の下宿に、七年前に部屋を借りて以来、
ヴェールで顔を隠したまま過ごす不思議な女性がいた。
一瞬かいまみた顔は、醜く無残に切り裂かれていたという。

その女性が健康を害し、
もう長くない感じになったところで、
死ぬ前に告白をしたいと願いをもらす。

ホームズはロンダー夫人という名前と、
告白を聞き、当時、名の知れた猛獣使いだった
ロンダーとその妻が、飼っていたライオンに
襲われたという事件を思い出す。

そのロンダー夫人が、告白したこととは?

これはちょっと悲しい告白。
ある人が死んだからもう言える告白。
そして、死を思いとどまるラスト、好きだな。

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需要のなかったであろうこのシリーズも
これでとうとう最終回です。
翻訳というものの趣の重要さを噛みしめつつ、
途中からはもう延原版しか読まなくなりました(笑)
人間なんてそんなものですねえ。
御清聴ありがとうございました(笑)


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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。