見出し画像

【エッセー】待つ力

現代人から“待つ力”が失われている

加速しかしてこなかった時代と
ゼロ距離ネットワークに
感染し過ぎてしまったのだ

人類が
それに急いで適応せねばならなかったとはいえ
語弊を恐れずに言えば
コロナよりひどいものに
みな罹患してしまっている

なればこそ
「今ひとたびのスローライフ」などという
手垢言葉では言い尽くせぬ
“待つこと”
“待てること”の
尋常ではない心のスケールを
取り戻さねばならないのではなかろうか

海外のとある地域では
バスや電車が二、三時間遅れても当たり前

なんなら半日遅れることや
その日来ない、ということすらざらである
しかし
誰も怒らないという

端からそういうものだと知っており
待つことが生活の一部になっているのだろう
彼らは焦らず
本を読むなどして
悠々と“自分時間”にして過ごす

思うように事が運ばなかったくらいで
魂の充実を手放したりはしない
むしろそれを好機に
自分を見つめていく時間にしてしまう

また
とある荘厳な建築物の建造に携わる彫刻家一家は
親から代々受け継いだその仕事――
自分の代ですら完成しないことは
至極わかりきっているそれを
ただ莞爾と微笑み
潔く受け入れ
むしろ
その偉大なる魂の造形に関われた人生に感謝し
誇りを持ち
日々、自分に出来ることに打ち込んでは
完成する日を夢見て
孫やひ孫に連面と壮大なバトンを渡していく…

「生き馬の目を抜く社会」などという言葉も
もはや死語として埋もれてしまった感のある
何もかもが早すぎる現代社会

だからこそ
少しでいい
そのようなスケールの心で
私は生きていたいのだ

いや
生きねばならぬ
今だからこそ

有休より
悠久を

記:うたがわきしみ


この記事が参加している募集

スキしてみて

今こんな気分

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。