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Be inspired by Sustainable mobility!ーMaaS発祥の地フィンランドの公共交通と都市計画レポート②(ECOMM編)

2022年5月29日から6月5日までフィンランドのヘルシンキ(2日半)とトゥルク(4日間)に行ってきました。目的は、国際会議 ECOMM(European Conference on Mobility Management)への出席・発表です。今回、ECOMMでの自身の発表や他の方の発表をレポートします。

European Conference on Mobility Managementとは

ヨーロッパ中のモビリティ・マネジメントの実践者と専門家、研究者が集う3日間の会議です。都市視察、基調講演、展示会、50〜80のプレゼンテーションとワークショップ、そして交流や繋がりを作るための多くの機会があり、300〜400人が集まります。

ちなみに、発表するためには、加盟国から任命された専門家で構成される国際プログラム委員会(IPC)による審査をパスする必要があります。私もその審査を通っていますが、今回の発表者はアジアでは私だけでした。そもそも応募自体もそうなのかも。ヨーロッパではない、日本の小規模都市の事例発表がよく採択されたなと自分でも驚きました。笑

さて、2022年のECOMMのメインテーマは
Be inspired by... Sustainable mobility!

さらに次の5つのテーマがぶら下がって設定されていました。

Be Inspired by…..
1.Modal Share Growth of Public Transport(公共交通機関の分担率拡大に向けて)
2.Mobility Management & Economic Instruments(モビリティ・マネジメントと経済的手段)
3.The New Use of Urban Space(都市空間の新たな使い方)
4.Life as a Service: Connecting People and Services(Life as a Service:人とサービスをつなぐ)
5.The Use of Data in Mobility Management(モビリティ・マネジメントにおけるデータ活用)

各セッション・発表がそれぞれのテーマを横断的にカバーしている感じでした。特に印象的だったテーマ1、3、4での発表・議論内容を紹介します。

テーマ1.公共交通機関の分担率拡大に向けて:Modal Share Growth of Public Transport

移動にどのような手段が使われているかを、手段毎のシェアで示したものを交通機関分担率と言います。
どの国・都市でもクルマ社会にどう立ち向かうか、クルマの交通機関分担率を下げることに苦労していて、日本と同じ状況であることがよくわかりました。そしてヨーロッパでは政策評価で主にModal Share(交通機関分担率)を使うことを再認識。私も交通機関分担率は好きなのでよく使います。日本の小規模都市でも交通機関分担率がわかるようになればよいなといつも思っています。
事例として、フランスのストラスブールなどが紹介されていました。発表のなかで「車会社は一致団結しているのだから、公共交通側も自転車や徒歩を含めて関係者は一致団結すべきだ」と呼びかけがあり、その通り!と思いました。会場からも拍手!
発表に自転車関連も多かった。自転車は公共交通よりもエコですからね。そしてクロージングセッションのキーノートではフランスの行政担当者がフランスのモビリティ・マネジメント政策を紹介してくれました。ヨーロッパの中でもフランスは、公共交通分野で進んでいるんですよね。

プレゼン“Infrastructure is a prerequisite for vitality and competitiveness. Europe needs a vision for infrastructure development”(インフラは活力と競争力の必須条件である 。欧州はインフラ整備のためのビジョンを 必要としている)より

↑は、タンペレ大学の先生が発表していたものですが、めっちゃいいタイトルだと思います。そのまま日本にも言いたい。

テーマ3.都市空間の新たな使い方:The New Use of Urban Space

日本でいう、ウォーカブルなまちづくりがモビリティ・マネジメントのテーマに設定されていることに、感動しました。公共交通とウォーカブルは相性がいいことは、私も主張してきたところですが、会議のテーマになるとは!日本の会議(JCOMM)はまだその域まで達していません。
フランスのモビリティ・マネジメントの発表でセーヌ川沿い高速道路の歩行者天国化の事例が紹介されていました。
推測ですが、ヨーロッパ(ECOMM)では、街路空間再編をモビリティ(移動手段の変更)政策として捉えているのだと思います。日本は、空間整備政策っぽく捉えている節がありますよね。

会議では他にもヘルシンキやトゥルクの事例が発表されていました。先のレポート(トゥルク編)でも書きましたが、ウォーカブルなまちづくりは、ヨーロッパも現在進行中。良い空間整備という点では、日本の姫路大阪などは負けていないと思います。ただし日本は、ウォーカブルをモビリティ政策の一部と認識して、公共交通との連携をもっと強化してほしい!と思います。

プレゼン“Green is the New Black: The management of urban mobility in the context of climate challenges”(Green is the New Black。気候変動問題における都市モビリティのマネジメント)より

フランスセーヌ川歩行者天国のbofore、after。パリが自動車中心だった頃の貴重な資料。

プレゼン“Cities Are Books
 That You Read With Your Feet”(都市は本である
 足で読む本)より

ヘルシンキの歩行者天国のbofore、after。どの街でもクルマ優先の時代はあったのです。

テーマ4 :人とサービスをつなぐ:Life as a Service: Connecting People and Services

私、実は大学時代から住民参加を研究のサブテーマに置くほど、人や住民に興味を持っています。
何のためのモビリティサービスか、それは人のためです。そこにフォーカスしている、なんて素晴らしいテーマなのか。その中でも「Citizen-centric solutions in mobility(モビリティにおける市民参加策)」というセッションがありました。いかに住民の声をモビリティサービスに反映させるか、住民主体でどうやってモビリティサービスを構築するか、など事例が発表されていました。日本でいうデマンド型交通の事例なんかも紹介されていました。住民参加プロセスやサービス設計ついては日本のものと遜色はなく、むしろ日本の方が互助型モビリティ(有名なのはノッカル)なんかもあって、地域ごとの問題をいかに解決するか知恵を絞っていてバラエティに富んでいるのはないかとも思いました。

ちなみに、2020年はMaaSの発表がとても多かったそうですが、今回は片手で数えるほどでした。ヨーロッパでのブームは去ったのか・・・という感じでした。そして、その数少ないMaaSの発表を聞いて、日本の取り組みとそんなに変わりなく、むしろ公共交通自体は日本の方が便利なんじゃないか・・・という感想を持ちました。

自分の発表

発表内容は、小山市のコミュニティバスおーバスの取組、セッションのトップバッターでした。概要は以下の通り。(似た発表をしたときの動画・論文をリンク先を載せます)

【参加セッション】
Flexibility in transforming mobility patterns(モビリティパターンを柔軟に変化させる)
【タイトル】
Effect of Low-Cost Policy Measures to Promote Public Transport Use: A Case Study of Oyama City, Japan(公共交通利用促進のための低コスト政策の効果〜小山市の事例〜)
【概要】
小山市では、公共交通利用促進の低コスト政策として、大幅な運賃値下げ(市内全線定期券最大70%off)とブランディングを用いて全市民への広報活動を行った。政策の結果、定期券保有者数は4.7倍、年間バス利用者数は1.1倍となり、バス事業による収入が維持されたことが確認された。広報活動により定期券の認知度が向上し、バスや街に愛着を持つ市民が増加した。
【他地域への応用】
市内の公共交通を定額で乗り放題にするサブスクリプション料金導入は、世界中の都市で試行が始まっている。地方の小規模都市で、公共交通の市内サブスクリプションを導入する際の工夫点や効果として参照する価値があると考えられる。

詳しく知りたい方は似た内容の動画や論文があるので以下のリンクからどうぞ。

【動画】
全市民対象バス利用促進 モビリティ・マネジメントにおけるブランディングとデザイン 〜小山市 コミュニティバスおーバス MMプロジェクト〜
【論文】
バス定期券の大幅値下・市内全線乗り放題化が運行収入・利用者に与えた影響分析
全市民対象のMMツール開発とその効果 -ブランディング及びコストダウンのプロセスに着目して-

発表風景:トップバッターで緊張しましたー。英語の読み原稿つくっていきました。汗
発表した大ホール(他に中・小ホールがある)pic:ecomm2022 Roni Lehti

発表への反応

結構大きな拍手をもらったので、それなりにウケたのではないかと思います。
でもらったコメントや質問は以下の通りです。

コメント1:公共交通機関に対するエモーショナルアプローチ(感情に訴えかける手法)は本当に重要だと思う。これは、自動車業界のクライアントがいつもやっていることです。

ブランディングを使った全市民への広報活動へのコメントです。この部分重点的にプレゼンしたので興味を持ってもらえて嬉しいです。そして日本の公共交通に足りていない、重要な視点だと思います。

質問1:プロジェクトに要したコストは?

回答1:定期券の値段下げは、収入が減らなかったので予算は不要でした。全市民への広報は、総額1800万円、住民一人当たり約1ユーロです。日本で普及している一般的なモビリティ・マネジメントと比較すると、10分の1程度になります。

タイトルに「低コスト」と入っているのに、発表でほとんどコストに言及していなかったので聞かれました・・・反省。

質問2:プロジェクトにはどのような人が関わりましたか?

回答2:交通を専門とする大学教授、広告のクリエイティブディレクター、デザイナー、バスの時刻表作成の専門家、交通政策の専門家などです。

質問は司会の方が予め予告してくれていたので、比較的スムーズに回答できました。笑

パネルディスカッション形式の質疑(冷や汗)

会議を活性化する仕掛け

ヨーロッパならではなのか、会議を活性化する仕掛けや催しが多くありました。

1つは、食事サービスと会場提供。朝、昼、夜(パーティー)の食事が会議参加費に含まれていて、そこで参加者同士の交流を促していました。私も拙い英語で何人かと意見交換をしました。ちなみに、私の発表セッションの司会者と、ここで打ち合わせして、事前に質問を伝えてもらえました。笑

会議会場横の食事場

2つ目は、出し物。会議の始まり、終わり、休憩中に音楽やダンスなどがあります。文化の違いなのでしょうか。楽しい気分になるので会議の雰囲気が柔らかくなります。

Closing sessionの音楽

最後に

とても楽しい時間でした。私は今年度博士課程に在学中で、その指導教員が同行してくれましたが、その先生からは毎年行こうと誘われました。毎回、日本人、というか東洋人が先生1人だけらしく寂しいそうです。来年の開催地”マルタ”に、はたして行くことができるのか。いやヨーロッパの公共交通の動向を知るためにも是非毎年行きたい!と思います。来年の職場事情が許すことを祈ってレポートを締めます。ちなみに研究よりも事例発表が多めなので実務者向きです。情報収集にはもってこいなので読んでくれた方で参加したいと思う方が現れたらとても嬉しいです。

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