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特撮とツインテール愛が溢れる変態的ラノベ「俺、ツインテールになります。」の話をしよう

ここしばらくはライトノベル界隈からもすっかり遠ざかって流行りのジャンルも分からないんですが、ずっと追いかけ続けている作品がありまして。『俺、ツインテールになります。』という小説なのですが。

地球を守るため、俺はツインテールになる!
観束総二は異常なほどツインテールを愛する普通の高校生。
 ある日、彼の前に異世界から来たという謎の美少女・トゥアールが現れる。それと時を同じくして、総二の住む町に怪物たちが出現! 
 「ふははははは! この世界のすべてのツインテールを我らの手にするのだ!」
 彼らは人々の精神エネルギー『属性力』を糧に生きる異世界人だった。トゥアールから、強力なツインテール属性で起動する空想装甲『テイルギア』を託された総二は、幼女のツインテール戦士・テイルレッドに変身!
 この日から、テイルレッドと変態たちとの常軌を逸した戦いが始まった!


要は主人公の男子高校生が宇宙から侵略してきた怪人に対抗するためツインテールの幼女に変身して戦うというTS(性転換)もの色物ノベル……に見せかけたガッチガチのニチアサオマージュ作品。主人公はテイル”レッド”なので当然テイルブルーやテイルイエローも登場するし、同じテクノロジーで変身する悪の幹部が立ちはだかるし、番組の中盤で追加戦士が加入するし、規格外サイズの怪人と戦う冬の劇場版回があるし、敵怪人の能力で人格が入れ替わっちゃう回があるし、劇場版限定フォームに変身する夏の劇場版回もある。もちろん最強フォーム回もあるぞ!

ちなみに作者の水沢ヒロ氏はSSSS.GRIDMANのノベライズも担当されており、特撮に関する造詣、ひいては愛がめちゃくちゃ深く、アクション、台詞、各フォームの能力の数々はパロディやネタに留まらない、特撮、ニチアサ、そしてツインテール愛に溢れた小説です。

主人公が病的にツインテール好き

この作品では髪を二房にまとめた髪型を総称していて広義の意味でのツインテールと呼んでいる(なのでおさげ髪もツインテールの一種として認識されている)のですが、この物語の主人公である観束総司二くん、第1巻の4ページあるプロローグの独白で18回もツインテールと連呼しているあたり筋金入りのガチで、ツインテールに触るためだけに幼女に変身するわツインテールで人の気配を察知するわツインテールのコンディションで体調を読み取れるわと、巻を追うごとにツインテール・スキルツリーが開拓されていく(当然変身後じゃなく生身の状態でだ)。

ラノベ主人公特有のヒロインからの好意に鈍感というポイントも「ツインテールが好きすぎて女性そのものに性的な関心が薄い」というこじらせっぷりで、そのせいでヒロインたちのモーションがどんどん過激になり、日常パートのはずなのに変態痴女のオンパレードが常態化している。どんな内容なのかは是非読んで確かめてほしいのですが、夜這いをかける者それを阻止する者で夜通しプロレスする、部屋に犬小屋を設置したうえで自ら首輪を嵌める、知らない間にクローゼットに潜んでいる上に脱いだパンツ穿かそうとしてくるとかそんな感じです。全然サービスシーンじゃない。怖い。あとみんな普通に脱衣する。どうして。

しかも「主人公の度を越えたツインテール愛が強大な力を及ぼす」という正気を疑う作劇上、「おまえはこのままじゃーーツインテールになっちまうかもしれねえ」という台詞がネタでも何でもなくガチでシリアスな状況でまかり通る始末。さらに「内なるツインテール(CV:池田秀一)」「ツインテールゴリラ」「究極のツインテール」「古代ツインテール文明」など、ツインテールに関するパワーワードがじわじわと頭を侵食する。なんてことだ。全てはツインテールだったのだ……。

人間よりも人間臭い変態怪人

申し訳ないがこの作品最大の魅力はかわいい系主人公でも変態痴女のヒロインでもなく、各巻ごとに立ちはだかる怪人(エレメリアン)、アルティメギルの面々である。ルックスはみんなバキバキのイケメン怪人でデザインがめちゃくちゃカッコいい。しかも組織そのものが武人体質なので正々堂々と勝負することを好み、卑劣な手段には一切出ない漢気溢れる集団だ。問題は内面である。

エレメリアンはそれぞれに属性を宿しており、例えば人形属性のリザドギルディは少女にお人形さんを持たせてふかふかのソファに座らせてあげることを至高の喜びとし、うなじ属性のクラブギルディは女子のうなじを見るために高速カニ移動に磨きをかけ、そしてツインテール属性である歴戦の武人ドラグギルディは数々の修羅場を潜り抜け全身に傷跡が刻まれていながら、背中には傷一つ負っていない……なぜならいつの日か至高のツインテール幼女に背を流してもらうためだ。

ツインテイルズの変態痴女ライフで脳を焼かれた後、「一方その頃アルティメギル秘密基地では!」というエンブレムターンのノリで場面転換したかと思うと、画面に映るのは打倒テイルレッドのためにこれまでの戦闘映像を分析する名目でテイルレッド鑑賞会を始めたり(当然身内が爆発四散しているところも映っている)、テイルレッド食玩フィギュアを買い集めたり(この世界ではテイルレッドはスーパーヒーローでありアイドル存在だ)、テイルレッドの同人誌を描いたり(コミケで一大ジャンルになっている)と、本当にどうしようもない(テイルレッドは根は真面目なのでエレメリアンたちの特殊過ぎる性癖にも一定の理解を示してくれるため彼らの間では女神様扱いであり、そんな彼女と剣を交え戦って死ぬことは最大の誉れなのだ)。

つまるところ、アルティメギルとは変態怪人集団なのだ。人知が及ぶところでないレベルで。

アルティメギルの目的は地球に存在する属性力を全て手中にすること。彼らは人間を直接手にかけることは決してしない。しかし属性力を奪われた人間は、例を挙げると、ツインテール属性を奪われた少女は今後一切ツインテールを結ぶことができなくなる。人間を人間たらしめる心の豊かさの剥奪!精神の土壌の喪失!属性を奪われるイクォール、人間性の一部を永遠に奪うことになるのだ。そしてエレメリアン達から地球を守るためテイルレッドらツインテイルズは戦い続ける。

そんなアルティメギルサイドの内訳はというと、ドラグギルディ率いる地球侵略軍先鋒部隊に始まり、昆虫型怪人が集う美の四心(ビー・テイフル・ハート)、植物をモチーフとした女性怪人愚連隊貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)、恐竜の姿を形取る戦闘集団死の二菱(ダー・イノ・ランヴァス)、そして全てが謎に包まれた神話伝説の幻獣を由来とした神の一剣(ゴー・ディア・ソード)など、組織内派閥とも言うべき軍団が存在し、それぞれが確執、畏敬、友情、思慕、対立の念を抱いている。そして反逆者の処刑を請け負うダークグラスパーなる存在が示すように、敵も一枚岩では無いのだ。そして中盤に差し掛かるとはぐれ者怪人やマッドサイエンティスト怪人も登場し、事態は一層の混迷を深める……。そう、敵組織内部でも謀反や裏切りが発生する近年の特撮メソッド!人間サイドよりも人間臭いドラマが繰り広げられてゆく。

まずは1巻から読んでみよう

この世の古今東西あらゆるコンテンツが「まずは○○巻まで」「とりあえず〇話まで観て」「最初の5分だけでいいから」というような布教方法があるように、「俺ツイ」もとりあえず1巻を読んでもらえば良い。ツインテール、特撮、変態……俺ツイを俺ツイたらしめるエッセンスがここに詰まっている。

アニメ版も存在するが、残念ながら原作の途中のところで終わってしまっているうえ、放送当時は作画がちょっとアレだったり原作改変があったりもしたが、1巻の内容を映像化した内容は素晴らしいクオリティなのでそちらも良かったら是非。何よりアニメ化したことによるヤバさはキャラクターボイスが付いたこと。当然怪人サイドの方のことだ。

記念すべき初怪人であるリザドギルディのCVが玄田哲章さんであることを皮切りに、フォクスギルディ(CV:関俊彦)、スパロウギルディ(CV:チョー)、ドラグギルディ(CV:稲田徹)と特撮番組常連が担当しているのがヤバい。もう一度言うがドラグギルディ(CV:稲田徹)である。もうこれだけでアニメ化の元を取っている。すげえ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ここまで読んでもらえた方は「結局これはギャグなの?何の小説なの?」と思うだろう。だが、どいつもこいつも目がマジなのだ。ネタでやっているのではない。この場にいる全員がシリアスな表情でダラダラ汗を流しながらクソ真面目に変態的奇行を行っている。大マジな顔で。

正直なところ、万人にお勧めできる作品ではないことは確かだ。でもこの小説には凄まじい特撮とツインテールの熱量が込められている。「おれはこれが好きだ! おれはこれが楽しいと感じる! だからおれはこれを書いている! これでも喰らえ!」そういった作者の声がキャラクターの台詞、展開、演出隅々から聞こえてくるのだ。私がこの小説を追い掛け続けられたのもこの作品にかける情熱があってこそで、刺さる人にはとことんブッ刺さるエッジさを秘めている。

そして2012年に1巻が世に出てから8年。2月18日に19巻が発売される。そしてこれが最終巻だ。特撮番組たっぷり4クール分を詰め込んだ物語に幕が降ろされることになるのだろう。ついに真の姿を現したアルティメギル首領の圧倒的な力になすすべもなく敗北したツインテイルズ。一体ここからどうやって逆転するのか。私は今必死にテレビにかじりつくニチアサキッズのように、特撮とツインテール愛に溢れるこの作品の顛末を今か今かと待ち望んでいるのだ。


(終わりです)


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