マジこわ怪談「暴れる呻き声」
巻末に、ガチもんのオーブ動画の添付あり。本チャンです。見ても何も起きないけど、動画視聴は自己責任でね♬ 拙宅で深夜に飛び交うオーブちゃん
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今から23年ほど前のことになろうか。
某県のとある町の旅行会社に出張した時の話である。
確かT市という伝統工芸品の産地として有名な町にほど近い、小さな町の旅行会社だった。
私は挨拶を兼ねて、その旅行会社を訪ねるべく出張したのだが、取引旅行会社の部長さんがホテルを手配しておいてくれるというので、私はその言葉に甘え、手配をお任せしたのだが……。
町に到着後、くだんの旅行会社へと向かい、それぞれの営業さんたちはもとより社長さんや部長さんと一通りのご挨拶を終わらせ、引き続きよろしくお願いいたします~という話を終えると、部長さんが夕食の席を設けてあるので取り敢えずは時間までホテルで休んではどうかとなり、ホテルまで送ってくれるというのでお言葉に甘えさせていただくこととした。
「日本〇〇システムもどうやら撤退の方向らしいですね」
「だのさぁ~これで陸の孤島だってな。これから関西へも行きにくくなるわね。周辺の町も寂れるっけなぁ」40半ばと思しき部長との会話は、地元の観光業界を取り巻く難しさに終始した。
「ところで部長、ホテルはビジネスですか ?」
「そだ。ちっこい町だから、そったら立派なホテルもねくて、ビジネスは二軒くらいしかねんだわ。一軒は満室で、もう一軒もギリギリでとれたぐらいで」
【ビジネスか……せっかく温泉地としても有名なここに来て、温泉に泊まれないというのも何か切ないものがあるなぁ】口には出さなかったが私は残念な思いが心を埋め、自らホテルを手配しなかったことを悔やんだ。
ホテルは町からT市に向かう途中にあるビジネスホテルだった。国道から200m少し中に入ったところか。
何階建てだったろうか。
多分、10階建て_________いや、もう少しあったろうか。古いホテルであり、寧ろ都会であれば既に廃墟と化していても不思議はなく、夜な夜な若者たちの嬌声に彩られたとしても不思議は無いと思える佇まいをみせていた。
「どうしますか、何も予定がなければ後から迎えに来ますから、少しゆっくりしますか ? どこか寄っておきたいところがあればここで待ってますから、
荷物を置いてくればいいでしょうし」
私は一か所だけ寄っておきたいクライアントがあったので、部長さんにその旨を告げ、お願いすると快く送ってくれると仰っていただけた。
「では、恐縮ですが、チェックインして荷物を部屋に置いてきますね」
車をおり、ホテルの玄関前のコンクリート階段を上がる。くたびれた印象を湛えた田舎町のビジネスホテル。何の期待も出来なかろう。そう思った。
自動ドアを入ると、ジャージに身を包んだ女子学生がロビーにたむろしている。どうやらスポーツ関連の大会でもあり、このホテルを宿舎にしていたようだ。
【混雑の理由はこれか…… これじゃぁ部屋も足りなくなろうなぁ】そんなことを考えながら、フロントでチェックインを済まし、カギを受け取りエレベーターへと乗る。
ここがはっきりと思い出せない。大事なところでもあるのだが……
まぁ20年以上前のことであるからして、忘れてしまうのも無理はないのだが、あれほど恐ろしい思いをしたのに忘れてしまうということが自分でも解せない。
8階であったか、6階であったか・・・はたまた9階であったか。
エレベーターを降りて左に歩いた記憶と、左側の部屋だったことだけは覚えているつもりなのだが___________。
部屋のドアを開けようとしたがオートロックの鍵がかかっているのか、ドアはあかない。鍵を差し込もうと背広の内ポケットから鍵を取り出す。
鍵は昔ながらのシリンダー錠であり、持ち手のところは例によってアクリルの長細く四角い透明なキーホルダーが無用な重みを伴わせている例のあのスタイルだ。
鍵をさし、それを回すと一緒にドアが開くタイプのオートロック式。
ドアを開けるとムッとした黴臭いすえたにおいが私の顔を叩く。
埃くさ
「チッ……」
【自分で温泉を手配するべきだった……】後悔がよぎる。
カーテンが締まっているのか、部屋の中は真っ暗である。
部屋のドアを開けたまま左側の壁沿いに"あるはず"の電気のスイッチを探した。
「それにしても_________暗すぎるだろう……室内灯のスイッチはどこだ ?」
しかし、スイッチはない。
ドアを開けたままの廊下から流れ込む薄明かりが部屋の中を朧気に浮かびあがらせた。
薄明りを頼りに、部屋の中にあるはずのスイッチを探すことを試みようと部屋の中を見やる。
左に壁とトイレ・浴室だろうか、ドアが一枚。
その先にベッドの足元が2台のぞいている。
壁伝いに数歩、部屋の中に歩みを進めた瞬間、なんの拍子か部屋の扉が閉まり、部屋は真っ暗になった。
眼が暗闇に馴染む前に、手探りで壁伝いにスイッチを探す。
折れ曲がった壁の位置、電気のスイッチらしき突起を指が探り当てた。
スイッチを入れると、薄暗いダウンライトが一つ。ベッドの頭のうえあたりで灯った。
幾分のタイムラグのあと、ベッド脇に設えられたナイトテーブル上、古めかしいスタンドが2つ明かりをともした。スタンドは昔ながらのスタイルで、赤い布にプリーツを施し、裸電球の上に針金で固定された風を思わせるデザインだ。
まるで昔のモーテル"連れ込み"のような風情だった。
異様に暗い。本当に暗かった。
【この暗さを喜ぶのは碧眼、緑眼、の欧米系の人種か幽霊ぐらいだろ】
私は荷物を手から手放すことが出来ずにいた。部屋をまじまじと眺め、なにやら嫌な感じを覚えたのだろう。荷物を置いて部屋を出ることが出来ないまま、部屋を呆然と眺めていた。
「くせぇなぁ。黴臭いし埃くさい。ここに泊まんのかよ…… 」
そう口にした瞬間__________
「ぐゔぅぅぁ~ぁあぁぐぁぁぁぁぁぁあ・・・」
窓際に設えられたベッドのナイトテーブルの下、この世のものとは思えない「うめき」、「断末魔」の咆哮が上がった!!
「ゔぁ~ぁあぁぐぁぁぁぁぁぁあ・・・」
瞬時に体中の毛穴が開く。後にも先にも、あんな声を聴いたことはない。
これはヤバイ、ありえない。絶対にこの世のものではない___________。
怨霊・怨念というものがあるとすれば、まさにこれがその類であろう。
いま、思い出しながらこうして書いているだけでも寒気が止まらない。毛穴が開く。そして、右肩がズーンと重くなってくる。
私は文字通り、部屋から転げ出るように荷物を持って部屋を後にした。
無理だぁ___________!! ここには絶対に泊まれない。ここに泊まったら絶対に無事では済まない。私の第六感はそう警報を鳴らした。第5レベルの避難指示。Tアラートだ。
ロビーにおり、フロントへ雪崩を打って転がり込む。
「すみませんが、部屋を変えてください!!」
フロントに掛け合うと「生憎今日は満室なんです、なにかありましたか?」
この瞬間に私はあのただならぬものの存在を確信したし、私の部屋は本来は最後まで客を取らない部屋であることを確信した。
「あの部屋はどういう部屋ですか? なにかあった部屋ですよね?」
私はフロントに告げた。
「はい、実は・・・」そんな言葉を期待できないこととはわかっていた____________。
「いえ、別に何もないと思いますけど・・・」これがフロントの回答だった。
「すみませんが、あの部屋には泊まれないので、申し訳ないですがキャンセルします」
そう告げると私は外で待つ部長の車に戻り、別の旅館を探し、泊まることにしたのである。
不思議なことに、ホテルの従業員が私に文句を言うことは無かった。何事もない……自信をもって貸出しできる部屋であれば「お客様、困りますね。では、キャンセル料を頂戴しますね~」これがホテルというサービス業の宿泊約款記載事項だ。
出るのである。あそこは間違いなく。
筆舌に尽くしがたい怖い思いはあと2度ほど別な場面で遭遇したが、今日はここまで♬
お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
すずしくなったかな?
ホラーも難しいねwww
深夜の拙宅で飛び交い遊ぶオーブちゃん
~了~
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