くさかべあずき

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【短編小説】大人になった彼女にチーズスフレは似合わない

「またお越しくださいませ。」 日曜の午前9時、僕は新大阪駅構内のお土産売り場で、スフレチーズケーキを一つ買うと、新幹線の25番乗り場に続くエスカレーターに乗った。 茶色の紙袋の中には、行儀よく白い箱がしまわれている。この箱の中には、雑に扱えば崩れてしまいそうなほどふわりとしたスフレチーズケーキが、外に出るのを今かと待ちわびている。 新大阪駅には、このスフレチーズケーキを求め多くの人が買いにやってくる。お正月も過ぎたこの時期だが、旅行や出張で来たらしい大勢の人達が、売り場

    • たとえ私の言葉が誰にも届かなかったとしても

      そう思っては、とてつもない不安に襲われてしまうことが、時々ある。 幼い頃から、私は文章を書くのが大好きだった。大好き、というより、気付けば何かこそこそ紙に書いているような子供だったらしい。例えば、架空の人物を勝手に生み出し物語を書いては「まーた物語ばっかり書いてるの!」とよく母から怒られていたのを、思い出す。10歳そこそこにもなって一人娘がフィクションの世界にどっぷり浸かっていたら、親としてはそれは心配になるだろうな、と今では少し反省もする。だからと言って、悪いとは思ってい

      • 非日常を愛する貴方は、日常を必死に頑張っている

        12月31日って、 一番人生に絶望してしまう日かもしれない。 そんな事をふと冷静に思いながら、 私は今年の大晦日を過ごしている。 世間を見渡すと、年末年始ともなれば毎年すっかり祝賀ムードで「今日は人生に絶望してしまうんですよね」と口に出してしまえば、途端に批判の矢が沢山飛んできそうだ、と思う。 もちろん幼い頃から大晦日に絶望してきた訳ではなく、それなりに高揚とした気分で過ごしてきたはずなのだけれど、何でだろう、今年は特にその感情が強いように感じて、少し暗い気持ちで時間を

        • 「変わる」ことも「変わらない」ことも怖いけれど、そんな恐怖も全て抱きしめたいよと思った

          この2日間、どうしても感情が自分の中でまとまらなかった。でもこの衝動を誤魔化して「無かったもの」にしたくはなくて、私は言葉を使って何とか書き出すしか昇華させる手段は持ってなくて、だからこうして文章にして書いている。 ーーーーーーーー 数日前、М-1グランプリが開催された。 そして優勝を手にしたのは、 私がひそかに応援していた、好きな芸人さんであった。 しかも彼らは、歴代の王者を振り返ってもかなり若い。26歳の私より、3、4歳しか離れていない。その上吉本の養成所「NSC」

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        【短編小説】大人になった彼女にチーズスフレは似合わない

          自己紹介欄にポートフォリオ的なやつ(←かっこつけて言ってみたけど全然中身がない恥ずかしい)を追加しているので、良かったら暇な時でもちらっと見てってくださーい!

          自己紹介欄にポートフォリオ的なやつ(←かっこつけて言ってみたけど全然中身がない恥ずかしい)を追加しているので、良かったら暇な時でもちらっと見てってくださーい!

          私の孤独を救ってくれた コンビニ店員さんへ

          人間が本当にダメになってしまうのは、挫折した時でも、誰かに非難された時でもなく、心の底から「自分は孤独なんだ」と感じた時ではないかと、思う。 振り返ればこの3年半、孤独を感じる事ばかりだった。 大学卒業後の2020年4月、私の社会人生活はコロナと共に始まりを迎えた。こちら新入社員、直接友達と言い合いたい愚痴なんて死ぬ程ある。それすら、許されない。毎日顔を合わせるのは、2回り以上年の離れた職場の人達だけ。 お堅い業種だったので、端的に言えば「社員の使い捨て」的な社風にも、馴

          私の孤独を救ってくれた コンビニ店員さんへ

          もしもし わたしの世界

          数日前、左耳のワイヤレスイヤホンをこれでもかと言う程にリュックのポケットから大落下させてしまった私は、ただいま右耳だけイヤホンを繋げたまま、毎日通勤電車まで乗っている。 不思議なもので、イヤホンをつけて好きな音楽を聴いていると、その音が身体の中にすうすうと溶け込んでいって、自分だけの世界に飛び込んだような心地よさに浸ることができる。 目に見えるのは外のガヤガヤとした雑踏で、耳から聴こえてくるのは、自分だけの秘密の音。 この数日間、片耳だけイヤホンをつけていたことで、その

          もしもし わたしの世界

          右耳のイヤホン外し ありがとうで ぽっと幸せの音鳴る 

          右耳のイヤホン外し ありがとうで ぽっと幸せの音鳴る 

          【短編小説】ヨーデルを聴きながら

          「ヨーデルン、チロリアンの時と味変わった?」 「ヨーデルン」というのは、ふわりと柔らかなクリームをサクサクのクッキー生地でくるんと包んだ、大人の親指くらいの大きさの、福岡の銘菓だ。いちご、抹茶、チョコなど味のバラエティは様々で、そのしっかりとした甘さは、子供からお年寄りまで幅広い世代に愛される。1年ほど前まで「チロリアン」という名前で親しまれていたが、製造会社の事情で、製品はそのままで「ヨーデルン」という名前に改められたのだった。 ただでさえ口の中の水分の奪われやすいお

          【短編小説】ヨーデルを聴きながら

          美大を諦めた、高校生の自分へ伝えたいこと

          なんてものが、あるらしい。 世間で所謂"成功者"と呼ばれている人は、「26歳」という年齢で何らかの「転機」を迎えていることが多い、という。 そんな希望とも呪いとも言える言葉に、私は高校生の時に出会ってしまった。 それ以降、心のどこかで「26歳」の自分に期待を抱く私がいた。 「10年後、どんな輝かしい未来を送っているだろうか」と。 行きたい大学に合格して、学業にバイトに順風満帆な大学生活を送って、特に大きな挫折もせず卒業して、そのまま好きな仕事に就いてバリバリ働いて、

          美大を諦めた、高校生の自分へ伝えたいこと

          胃をさすってまで頑張ろうとするあなたへ

          お休みのある日、私は急に胃のあたりが強く痛み出した。 ご飯を食べると、まるで胃が拒否反応を起こしているかのようにズキズキとうずく。お腹はぐうぐうと空いているのに、痛くて食べることができない。むしろ、食べてしまうとむかむかと吐き気を催してくる。 ただ、横になっておさまるのを待つことしかできなかった。 こうなってしまう前兆は、沢山あった。原因として考えられることも、いくらでもあった。ありすぎて、一つに絞れないくらいだった。 仕事での慣れない業務。ドライな人間関係の職場。近

          胃をさすってまで頑張ろうとするあなたへ

          自分を嫌いになってまで、何かを守る必要なんてないから

          私たちは、過ごしている「環境」に、良くも悪くも影響を受ける。 皆が笑顔で溢れている空間なら、自然と自分の心も軽くなる。何となく楽しくて、暖かくほっこりとした気持ちでいられる。 でも反対に、どこか冷たい雰囲気が流れていたり、誰かが悪口や陰口を言い続けていたりする空間だと、やっぱり自分の心もいつの間にか荒んでいく。心が柔らかで、他人の意見を聞き入れやすい素直な人ほど、知らず知らずのうちに、その棘を全身で受け止めてしまう。 「浴びる言葉」って、とても大切だ。 優しい言葉に触

          自分を嫌いになってまで、何かを守る必要なんてないから

          こんにちは、私の初めてのカメラさん

          先日、私は初めて「カメラ」を買った。 それも唐突に。 おもちゃみたいなインスタントカメラではなく、レンズの取り外しができる「ミラーレス」タイプの本格的なやつ。 と、言っても実は「ミラーレス」と「一眼」の違いもよく分かっていない。 私は、それくらい「カメラ初心者」なのだ。カメラ好きから見れば、とんだアホ野郎だと笑われるかもしれない。 カメラ自体には、ずっと憧れは持っていた。私だけのカメラを手に持って、色々な場所を撮って歩くのは楽しいだろうなあと、ずっと思っていた。

          こんにちは、私の初めてのカメラさん

          「優しい人」って「諦めた人」

          先日、こんなツイートを目にした。 「本当にその通りだなあ」なんて、私は思ってしまった。 私が仲良くしている周りの人には「優しい人」が多い。 「優しい」という言葉には色々な意味合いがあるけれど、ここでは「相手の話に耳を傾けられる」とか「感受性・共感性が高い」っていう、意味合いだ。 自分の意見を主張するよりも、相手の意見を尊重しようとする。時には本音をぐっと飲みこんでまで、自分の心を犠牲にしてまでその場の「空気」を守ろうとする。 だから、他人から見たらとっても「優しい人

          「優しい人」って「諦めた人」

          あなたと食べるご飯は世界で一番美味しい

          私は、人前でご飯を食べるのが大の苦手だった。 誰かと一緒にご飯を食べると、どうしても味がしない。とっても美味しい物を食べているはずなのに「食べた感じ」がしない。お腹いっぱいになったのに、なぜか心は満たされない。 「今度ご飯に行こうよ!」と誘われると、内心「どうしよう」と冷や汗をかいてしまう。誘ってくれること自体はとても嬉しいし、その気持ちに応えたいと思う。でも、食事の光景を想像すると、とてつもない不安に襲われる。 私が一番落ち着くのは、誰にも見られない場所で、たった一人

          あなたと食べるご飯は世界で一番美味しい

          【短編小説】貴族も食べられない最高のパスタをあなたに

          「新築マンション、興味ないですか~。」 道行く人達は、僕が差し出した右手に見向きもせずに、つかつかと雑踏の中へ去っていく。まるで、僕が透明人間になったかのように。 営業所の前で一人立つ僕の左腕の中では、今日も大量のビラがしぶとく居座り続けている。 僕は、不動産会社で営業として働いている。もう新卒で入社して2年が経とうとしているのに、ろくにノルマも達成できない。うちの会社はベンチャーに近く「ここは結果を残した者が全てだから」と上司から散々言われていた。 今月も残り5日だ

          【短編小説】貴族も食べられない最高のパスタをあなたに