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怒りに狂う妊婦を見て思ったこと


元会員さんが妊娠したというので、会いに行った。

ふだん、自分の担当した会員が成婚退会すると、その後の人生は追うことができない。幸せになったかどうかなんて知ったこっちゃない、じゃなくて知る由もない、ものなのだが、今回の会員Hちゃんとは、なんだかすごく気が合って、退会後も交流は続いていた。

この日は、Hちゃんと、Hちゃんの旦那、Hちゃんのお姉さん、私、の4人で食事をすることになった。ちなみに、お相手のHちゃんの旦那、Tさんも私が担当した会員さんだった。お姉さんは現在婚活中で、わたしに相談事があるらしかったので来ることになった。

正直、私には妊娠したからと言ってお祝いに駆けつけるような友達が少ない。というか友達自体が少ない。

でも今回のHちゃんの妊娠は素直に嬉しかった。めでたいと思った。5か月間のほんの一瞬でも、自分が関わったことだったから。
だから、妊娠の報告を受け、遊びに来てくださいと言われたので、のこのこと本当に遊びに行ってしまった。

見てみたかったのだ、自分が結婚させた人たちの行く末を。カフェでお喋りしているところじゃなくて、実際に生活している風景を見てみたかった。

この二人、大丈夫なんだろうか。二人を送り出す時に不安になることがたまーにある。自分だったら絶対に結婚しない、と思うモラハラ臭のする男を、よその相談所の女性と結婚させたときは、私の仕事って何だろう、と2日ぐらい考えて落ち込んだ。

結婚して一緒に暮らし始めてしばらく経った二人を見に行くのは、答え合わせのようだと思う。まぁでも、子どもを作るくらいなので仲が悪いはずもないので、特にドキドキすることなく安心して家にお邪魔した。

Hちゃんはあまり料理が好きじゃないタイプだったので、出前寿司を頼んで、持参したデパ地下のお惣菜を皆で食べた。

妊娠6か月の、もう大きくなったお腹を触らせてもらったら、胎動はなかったのだけれど、たしかに一人新しいメンバーがそこにいて、メンバー加入前の、はたまたユニットを組む前の二人を私は知っているから、なぜか照れ臭くなった。そして自分も生きててもいいのかもと思えた。

中盤、Hちゃんが職場の先輩からマタハラを受けているという話になって、「鉛筆で刺しそうになった、でも本当刺さなくてよかった。あのデブス!あいつだけはまじで無理。死んでほしい。」とずっと呪詛を吐いていた。

それを聞きながら旦那のTさんは、困ったような苦笑いをしながらも、口をへの字に歪ませながら、うんうんと頷く。聞き流している感じじゃなくて、腕を組み、ひどいよなぁと相槌を打っていた。

夫の横で呪詛を延々と吐いているHちゃんを見て、私はなぜか胸にぐっと来るのを感じた。

いつもの可愛らしくてトーンの高い声とは違う、それはもう別人のようなヤンキー調子の言葉がポンポン出てきていたのだけれど、面白かった。

笑顔で平らな会話を聞いているよりも、Hちゃんのあの、怒り狂った恐ろしい顔を見たら、Hちゃんには悪いけどなんだかぐっと来たし、ホッとしてしまった。

喧嘩とかするの?と聞いてみたら、一方的にHちゃんが怒り出すことはよくあるらしい。でもHちゃんは、そういう自分の特性でパートナーを傷つける恐れがあることはよく分かっていて、怒りが自分の天井を突き抜けたと気づいたら、いったん近くの喫茶店に自分で避難するそうだ。で、小一時間お茶を飲みながら、呼吸を整えて帰宅すると。

この夫婦は、ずいぶん楽しそうに幸せそうに見えたけど、お見合い的な関係から抜け出したようだった。
お見合いは素晴らしいシステムだと思う。けれど、いつまでもお見合い的な関係から抜け出すことができないと、なかなか苦しいものだ。

婚活中、Hちゃんは、わたしは一体、いつ本性出せばいいのでしょうか、と聞いて来たりしていたけど、そんな心配しなくともすべてひっくるめて愛されている。

というかそんなことで悩んでいた事自体がすごくかわいいし誠実だと思った。


おわり



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