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[短編]【心象風景】

ゴロウ@読書垢

太陽の輝かぬところに光が射す

太陽の輝かぬところに光が射す。
海の流れぬところに、心の水は潮流となって押し寄せる。
そして、頭に螢をつけたひしゃげた精霊
あの光ものたちは
肉が骨を飾らぬところを肉を抜けて進む。

『世界詩人全集 オーデン スペンダー トマス詩集』
(トマス詩集 松田幸雄 訳 P.194から引用)


なびかれながら、私の脳裏を過るのは無数の欲動によるものだった。
ページをめくり、拡散される波紋は感覚を刺激させていく。
心象による、表現は温もりを帯びたり、冷たさを帯びたり、形を変えゆく存在として、私の潜在意識に呼び掛ける。
草木の香りや雲雀のさえずりなど、形状を持ち合わせていないものまでもが、具現化されるこの刹那ー。
アイロニーなニュアンスを含む、形式的な言葉の羅列ですら、愛らしく感じてしまう。
まさに、エデンの園といってもいいぐらいな無形的な世界に私は躍動感を覚える。
彼は、私に問い掛けた。
「何、読んでるの?」私の髪を撫でながら、珍しそうに本を覗き込む彼の素朴な表情は可愛らしい。
「ディラン・トマス詩集。ウェールズの詩人よ」
そう言うと、彼は不思議そうに首を傾げた。
「誰、それ。全然、知らないけど、スゴい人なの?」
「ええ、偉大な詩人よ。詩は文学を越えた、素晴らしいものなのよ」
彼はふーん、と納得したような感じを装い私の頬にキスをして私を抱きしめた。
読み掛けの詩集に栞をはさみ、肉体はトマスの韻文と彼の愛欲が混ざりあった情愛が優しく、私を包み込んでいった。

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