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[短編] 【ほどかれて】

ゴロウ@読書垢

わたしの心は深くて冷たい、暗闇の中にいた。視界も、遮られて全く見えない、孤独な世界。
わたしにとって、こちらも、あちらの世界も、全てが同じである。
‘‘こえ’’、それだけがわたしのいのちの炎を灯してくれている。
母のこえ、わたしは、母が毎晩読み聞かせてくれた絵本の物語と一緒に鮮明に記憶している。

‘‘いのちのこえ’’

わたしは母のこえだけが、わたしの存在を支えてくれている、かけがえのない存在…。

母の顔は一度も見た事がない…。
でも、母の匂い、愛情の形だけはわたしの中で、死ぬまで消えることは決してない。



…また。

わたしの目に対して、愚弄する誰かのこえ…。

聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!!

最低な言葉が‘‘こえ’’として生まれ変わり、それがわたしの心を奥まで何度も、突き刺してゆく。

わたしは涙をこらえて、必死に耐え続けた。
言い返すことも、反撃することも出来ないわたしは本当に弱い人間だと感じた。

家に帰ると、それまで溜まっていた感情が一気に溢れだし、母の胸に飛び込み、わたしは号泣した。

頭の中が、めちゃくちゃになっていた。
母は、わたしが事情を話すこともなく、いつもすぐに理解してくれていた。
母は、「大丈夫、大丈夫だからね」と強く抱きしめわたしと一緒に号泣してくれた。


わたしは、母から貰った温かい愛情があるからこそ、今もこうして生きることが出来ているんだと思う。

わたしの手を力いっぱい握る息子の温もり。

わたしを一生、愛してくれると誓ってくれた夫の存在。

わたしが、わたしらしく生きていけているのも、全て母のおかげである。

去年、母は乳ガンの為、他界した。

母はこの世にはもう、いない…。

わたしには、わたしを生んでくれた、母からの歓喜に満ちた‘‘いのちのこえ’’が時々、聞こえてくる。

これからは、母として、夫と共にこの子を立派な大人に成長させる事がわたしの使命である。

息子と夫に握られ、わたしは新しい家に帰ってゆく。

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