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贅沢な葛藤|恋人とのこと

朝、キッチンから聞こえてくる食器の音で目が覚める。恋人が、私と自分のお弁当を準備している音だ。

ガチャン、ガチャガチャ。
バタバタバタバタ。

(……はぁ)

一度目が覚めると、もう恋人が家を出るまで寝ていられない。そこからはもうずっと、玄関の扉がバタン!と勢いよく閉まるその時を今か今かと待ち侘びている。全身を耳にする勢いで、恋人の一挙手一投足に全ての意識を集中させて。

ドタドタドタ!バタン!

(……はぁ、やっと出ていった……)

心から安堵している自分に気付き、私はなんて酷い人間なんだろう、と思う。

自分より1時間も早く家を出る彼が、さらに早起きしてお弁当を作ってくれるなんて、こんな素晴らしいこと、本当はもっと喜ばなければいけないのに。

お弁当について聞かれて、このことを話すと大抵「いいなぁ〜!素晴らしい彼ですね!」というコメントが返ってくる。
ほんとにそう。本当に素敵な人。
そう思う一方で、素直に喜べない自分がいる。

どうしても、申し訳ない気持ちが勝ってしまう。朝、聞こえてくる食器の音に耳を澄ませながら、度々聞こえてくる「はぁ〜」という恋人のため息に、心が揺れる。

そして、「本当は自分がやるべきなのに」と、
罪悪感や情けない気持ちでひたひたになりながら朝を迎えるのだ。

だったら自分が作れよって話なのは分かっている。けれど、私は体質の関係で早起きを続けられない。以前それで失敗して、恋人にも迷惑をかけた。私はお弁当にこだわりがないから、毎日コンビニ飯で構わないと恋人に伝えたけれど、その提案は却下された。夜にある程度詰めておく案も伝えたがダメらしい。


ごめんね。と思いながらも、
じゃあどうすればいいのだ。とも思う。

自分が放棄したい権利を放棄させてもらえない。
ため息をつきながら作るくらいなら、ほっといてくれればいいのに。

柔らかい綿で首を絞められているみたいだ。
優しさと思いやりに疑心暗鬼になって、苦しい。

いっそ、心からの悪意ならいくらでも振り払うことができるのに。

これも慣れなんだろうか、
なんとも思わない日が来るのだろうか。
それはそれで、人として大丈夫なのかな。

あぁ、自分の部屋が欲しい。
自分の部屋があれば、こんなにキッチンの音が聞こえてくることもないだろう。自分が設定したアラームに起こされて、納得した気持ちで朝を迎えられる。

1LDKだからこその悩みだよなぁ。
やっぱり2LDKがいいなぁ。

恋人がいて、その恋人が素敵な人で、これ以上ないくらい贅沢な悩みだと分かっているけれど、清々しい朝が迎えられない。


なんだかなぁ〜。

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