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エネルギーを放つ絵~クリムト<ベートーヴェン=フリーズ>

 上野・東京美術館で開催中のクリムト展で、印象に残ったこと。

 その一つは、やはりこの<ベートーヴェン=フリーズ>だ。

 三つの画面から成るこの壁画大作が、複製とはいえ、東京都美術館で、コの字型の配置も含めて再現されている。なかなかお目にかかれないイベントだ。

 画集では、「ふうん」と横目で見ていた作品が、これほどのエネルギーを放射するものであったとは、思いもよらなかった。

 左端には、沸き立つ波に、身をくねらせる、芸術の女神たち。

 中央には、花を手に整列し、「歓喜の歌」を合唱する天使たち。

 そして彼らの祝福を受け、抱き合い、口づけを交わす男女。

 画面にふんだんに使われた金のせいだけではない。

 特に、絵のモチーフとなったベートーヴェンの<交響曲第九番>(<第九>)を流しながら、絵に相対する時、絵はその真価を発揮する。

 中央に並んだ同じ顔の天使たちの歌。それに呼応して、身をくねらせる女神たち。そして、抱き合う男女と、彼らを取り囲む炎のようなオーラ。

 それらがまさに息を吹き込まれる。画面全体が輝き、金色のオーラが波となって、見る者の上に覆いかぶさってくる。

 まさに音楽と絵が、呼応し合い、高みへと登って行く。


 この作品は、もともと第十四回分離派展のためだけに制作されたもので、会期が終われば取り壊されるはずのものだった。だが、コレクターに買い取られ、展示作品の中で今でもみられるのは、この壁画大作だけだ。

 クリムトとしては、本意ではないだろうが、だが、こうして彼の目指した「総合芸術」の一端なりとも触れられる。それはとても興味深く、心躍る経験であることは間違いない。

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