無題の日#6

 もう六年、七年くらいになる友人と、横浜の中華街の占いに行った。ぼくは昔からあまり占いは信じないのだけど、占ってもらうのは楽しい。はじめて話す相手にあなたはこういうひとでしょといろいろな切り口でぼくのことを説明されて、それをあたってるとかあたってないとか友人と答え合わせをしてわいきゃい騒いで、いまぼくってこういう考え方なんだな、こういう性格なんだなって友人からみた意見を聞きながらじぶんの中で整理する一連のそれがとてつもなく楽しい。占ってもらった三十分間で聞いた内容はほとんど忘れてしまったけれど、その後に友人とあーだこーだ話す時間はやっぱりとても楽しかった。

 待ち合わせの前に少し時間ができたので、横浜駅のルミネで三十分の贅沢をした。これから中華街に行くというのにアイスコーヒーとチーズケーキを食べた、お店の人がおそらく仕入先に電話で欠点豆が多いことについて聴取をしていて、なんとなく現場をみた気持ちになりわくわくした。せっかくなので良い香りしてた方が楽しいかなと思って、香水のお店にふらっとはいった。思いがけずいつかのだれかの香りをいまさら見つけて、でももう時間が経ちすぎているのでいつのだれの香りなのかはきっと一生わからないけれど、好きな香りにはかわりないので悩むことなくそれに決めた。

 帰り道、ひとが倒れていて声をかけても反応しないので、人生ではじめて110番をした。なんだかんだこれまで出くわすことのなかった場面だったので110か119か迷ったのだけれど、なにもしないよりかはいいかと思って110番にしてみた。そういえば書いていて思い出したけど、119はかけたことがあった。結局その倒れていたひとは警察が到着する前にどこかに行ってしまって、途中から警察が来るのを一緒に待ってくれていた通りかかったご家族には災難だったねえと気遣われたけれど、生きてどっかに行っちゃった分には全然よくて、目の前でひとが死ななくて本当によかった。
 一緒に待ってくれた通りすがりのご家族は、そのうちの中学生くらいの男の子が、目の前でひとが倒れているのに見なかったことにすることはできないという雰囲気で、そのお母さんやお祖母ちゃんも男の子のその気持ちや行動を否定していなくて、とても素敵だなと思った。そうだね、目の前でひとが倒れているのに見なかったことになんかできないよね、この子はきっと強くなるんだろうなと思った。
 家に着いてから、帰り道こんなことがあったと彼にLINEを送った。そうか、頑張ったねと返信がきた。気付かなかったけど、そっか、ぼくは頑張ったんだね。彼のことがまたちょっと好きになった。

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