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「新人世の資本論」脱成長論批判「自由と成長の経済学」

「自由と成長の経済学・人新世と脱成長コミュニズムの罠」柿埜慎吾著・PHP新書2121年8月発行

著者は1987年生まれ、高崎経済大学非常勤講師。「フリードマンの日本経済論」PHP新書の著書がある。

本書はフリードリヒ・ハイエク信者による斎藤幸平著「人新世の資本論」に対する批判。批判はあまり論理的ではない。経済成長の成果を挙げるも、屁理屈に近い。

一方的な資本主義に対する賛歌である。著者は言う。
「資本主義と経済成長」は封建社会を打破し、自由と民主的な繁栄の社会をもたらした。社会主義は資本主義以前の閉鎖的な社会へ逆流させる反動思想である。

「脱成長コミュニズム」は環境保護を名目とするマルクス主義思想と断言する。環境問題を克服する手段は資本主義と経済成長しか存在しない。

共産主義はマイノリティー差別の拡大、国際紛争の拡大をもたらし、共産主義は国民生活全体を必然的に隷属させる。社会主義とファッシズムは同じ道を歩む。

脱成長主義者の理論は、資本主義の経済成長信仰がゼロサムゲームを招き、資本の自己増殖機能がすべてに優先するため、環境破壊が必須となる理論である。

これに対し、著者は共産主義こそゼロサムゲームであり、資本主義は市場と消費者の存在がゼロサムゲーム化を防止すると言う。
まさにフリードリッヒ・ハイエクの「隷属への道」と同じ理屈、理論構成である。

斎藤幸平は共産主義を目指しているわけではない。「コモン」即ち、資源の共有意識、公共性を重視する社会を展望する。
そのうえで斎藤幸平は、私的所有が経済成長を至上目的化し、環境問題の解決を遅らせ、地球温暖化を促進させると主張する。

著者は環境問題と資本主義とは全く別物で、外部性の問題であると反論する。そして外部性の問題も経済成長が結果的に解決すると言う。
その証拠にコロナ危機のワクチンも、革新企業と資本主義のグローバルサプライチェーンで解決したと著者は主張する。

外部経済を資本主義の内部問題と最初に指摘したのは宇沢弘文である。だが温暖化問題は規模、内容から見ても、もっと深刻である。
個人主義、自由主義の重要性は言うまでもない。しかしケインズが言うように、全ての政策を放任させると、最終的に大きな絶望と危機をもたらすと。

もう少し、中身のある批判と思い期待して、読んだが、落胆と失望の多い結果だった。同じハイエク信者のミルトン・フリードマンの方がまだ論理的である。

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