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コマ間移行分析_01 『パトレイバー』

マクラウド氏の『マンガ学』による閉合分類を用いて、日本のマンガのコマとコマの移行を分析してみました。

→第1弾の分析はこちら『ジャンプ連載作品のコマ間移行を分析する』
https://note.com/balloom/n/n231b8d2e98e3

今回は名作として名高い『機動警察パトレイバー』のコミックス第1巻収録の2話分。(初見です。)

パトレイバー1巻

88年の作品だからか、ロボットというマンガで扱われる設定としてあまり無いからなのか今の連載作と比べて、場面の転換が多いように思います。
しかし、転換時のコマ移行に工夫がみられ、非常に読みやすいというのが第一印象。

【結果と考察】

*前回の分析では、1話毎のコマ数平均も比較しましたが、単行本収録であることに加え、1話が非常に長く、話毎の平均を比較する意味は薄いと考えてページ毎のコマ数平均を比較しています。

*レーダーチャートでは、コマの絶対数ではなく、全体を占めるそれぞれの閉合の「割合」に基づいて描画しています。

Prolog(第0話)

*グラフ茶色
*主人公の登場や、場面説明、世界観描写が主の回。
*登場人物同士の人間関係や、関係する場所場所が主に描かれる。

画像3

第1話

*グラフ青色
*人型のロボットが戦闘を行うシーンがメインの回。
*ロボット同士の戦闘・アクションが多く描かれる。

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2話比較

画像4

・初見で読んでも非常にわかりやすく、読み淀むような箇所はない。

大きなコマを効果的に用いて、本作の特徴となるロボットなどを巧く表現している。

・30年以上前の作品だが、古さを感じさせないよう道具や言い回しに一定の配慮が見られ、今でも楽しめる。

・プロローグとなる0話は、登場人物紹介、設定の説明など一般的な導入のため、さほど特徴的な展開は見られなかった。

・警察、パイロット、エンジニアなど関連する人物が冒頭から多く登場するため、コマ間の移行は基本的に「3.対象から対象」によって進行する。

・1話で、主人公の乗るレイバー(と呼ばれる人型のロボット)が敵の同様の機体と戦闘を行うシーンが主要なテーマを占める。

・本作の特徴として、パイロットをサポートするため異なる場所から指揮を行う人間がおり、戦闘中に自機敵機指揮と3箇所(以上)の場面移行が頻繁に行われる。

・全体を通して場面転換は比較的多く、「4.場面から場面」への移行もそれに伴って多用される。

・場面展開の直後に、「5.局面から局面」へのコマをかなりのケースで描き、ストーリーの進行にうまく寄与している。

・これは意図的にこのコマを描くことで、移行した後の場面が、どういった状況にあるのかの理解を促すためではと考えられる。
→この技法はかなりうまく機能している。ストーリーに抑揚をつけながらテンポ良く進む。とても読みやすい。

【場面転換後の局面移行について】

05局面移行分析_5

とはいえ、この、場面転換後の局面移行については、「5.局面から局面」が分類が適切なのか、明確に判断できる根拠が無いといえば無いんです。

特徴的なシーンがあったので、左に『機動警察パトレイバー』内のコマを例に挙げました。

ここでは、ほぼ同時刻に全く異なる場面へ転換したことを示すために、建物の外観を上から下までかなり大きくコマを使って描いています。尚且つその全景を途中で断ち切るようにコマで割っています。

そのコマの流れと重なるようにセリフがこのコマの間に浮かびます。映画でいうと空を見ていたカメラが徐々に下に目線を下げながら、建物の全体像を見せていくような感じでしょうか。

この場合、空から建物へ「3.対象から対象」へコマが移行したとも言えそうです。。。とはいえ対象から対象に移行する場合、基本的には登場人物の明確な意志や意図を伴う事が多く、違和感があります。

悩んだ結果、この移行は「5.局面から局面」としてカウントしています。

参考にしたのは、『マンガ学』での「5.局面から局面」への例です。

(右下図)これは古い家屋を初めて訪れた登場人物のモノローグから始まります。建物の全景の次は、玄関ドア、その次は建物の中の台所のような場所、、、
明確に時間の流れは無く(描かれておらず)、状況を説明するためのカットが続くようなコマ移動を「5.局面から局面」としています。

今回のパトレイバーのコマについても、上記マンガ学の例と同様のコマ移行と捉え、「5.局面から局面」へカウントしました。

一方、コマに重ねて登場人物のセリフが描かれているため、時間の流れは明確に存在し、厳密な分類では無いかも知れません。

【おわりに】

マクラウドによるコマ移行の「閉合分類」はとても魅力的な方法で、なんとなく読んでいたそれぞれの作品の特長を、(ある程度)比較分析することができると思います。

一方で、この『マンガ学』が書かれた1980年代以降、マンガの表現形式は非常に複雑に進化しており、厳密に分類するのは難しいとも感じます。

場合によっては、この「閉合分類」をもとにもう少し細分化した分類が適切なのかもしれません。(とはいえ一旦この分類を用いて他の作品も分析していきたいと思います。)

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