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【セミナーレポート】データから紐解くVTuberビジネス ~ファンの実態と実践分析~

バルスでは、これまで培ってきたバーチャルコンテンツの知識と実績を活かし、エンタメコンテンツに特化したセミナーを“企画編”、“制作編”、“分析編”に分け、2023年6月から全3回で開催いたしました。
今回は“分析編”として、8月に現地&オンラインで開催した、株式会社矢野経済研究所でVTuber業界をテーマにした調査・研究を行っている土井輝美氏と、バルス株式会社で実際にファンデータを研究・分析している伊藤慎之介の2名による「データから紐解くVTuberビジネス 〜ファンの実態と実践分析〜」のセミナーについてレポート形式でご紹介いたします。




土井:今回セミナーの前半を担当させていただきます、矢野経済研究所の土井と申します。本日は、VTuberの市場全体像とマーケットの概観についてお話しできればと思います。

内容としては、
・VTuberについて
・VTuberのファンはどんな人?
・VTuberファンの熱量
・VTuberの市場について
以上のポイントについてお話ししていきたいと思います。

2023年、VTuberとはどのような存在か?

弊社、矢野経済研究所では、VTuber市場に関する調査資料を発行しております。
その中で、VTuberはYouTubeをはじめとする各種動画プラットフォーム上で配信を行う配信者で、
①演者がアニメルックなアバターを纏い、即興的なロールプレイを行うことで、演者でもアバターのキャラクターでもない新たなキャラクターが成立したもの
②かつ、そのキャラクターがインフルエンサー/IPの二つの特性を有するもの
と定義しています。

VTuberの定義に関しては、どこに注目するか、様々な立場から見て変わるかとは思います。
ここで重要なのは、VTuberというのはキャラクター・IPとして“人間離れ”した設定や見た目を持って親しみやすさを与えたり、多岐にわたるグッズ展開がしやすいなど、“架空性”の良さを持っていることです。

その反面、実際に活動している演者の方がおり、その演者自身の個性を活かして日々の活動をしています。リアルにいる、現実に生活している人間として共感が持ちやすかったり、「生の声」として商品を紹介・プロモーションすることもできる。そういった重要な特徴があるのが、VTuberという存在です。

では、どうしてここまで短期間のうちにVTuberがたくさんデビューできたのか?

それは、アニメやゲーム制作と比べて、VTuberのキャラクターは相対的に低コストかつスピーディに形成されるからです。
アニメのキャラクターですと、企画会議などを通してシナリオをつくり、声優さんを起用して声を吹き込み、アニメーション映像を制作して1クールかけて放映するという形になります。

絵師さんにキャラクターデザインを頼み、アバターができて使用できるようになれば、そのタイミングからVTuberとして活動をスタートすることが可能となります。

2018年の段階では、一部のオタク界隈・ネットカルチャーのなかでの流行でしたが、現在ではそれにとどまらず、コンテンツ事業の一角を担うレベルにまで成長しました。

弊社で調査したVTuberの市場規模は、毎年150%以上の成長率で推移しており、2023年度には約800億円規模となる見込みです。

土井:急に数字だけを出されても想像が難しいと思いますが、とらのあなさんやDLsiteさんなどの通販・ダウンロードなどを含めた同人誌の市場規模(2021年度)や、トレーディングカードの一次流通市場とほぼ同じ規模となっており、いちオタクコンテンツというだけではなく、大きな市場規模を持ったコンテンツ事業の一角といえます。

VTuberのファンはどんな人?現在のVTuberファン像とは?

次に、こういったVTuber市場を支えるファンの方はどんな人なのか。弊社で行ったアンケート調査をもとにお答えします。
こちらは2022年12月23日から25日に実施したインターネット上でのアンケート調査をもとにしています。

趣味40分野のうち、「VTuberに興味がある」と回答した方をVTuberファンとしました。サンプリング方法としては、15歳から39歳までの男女を5歳刻みで分け、サンプルを入れ込むような形となっています。

土井:全体回答者数23,356人のうち、「VTuberに興味がある」と答えた有効回答者数は894人。VTuber誕生から6年ほどで、3.8%もの方がVTuberのファンとなっています。

歴史の浅さから考えるとかなりすごいことなのですが、一部の方からするとまだまだニッチコンテンツに見えるかもしれません。

ですが、こちらを性年齢層別のセグメントごとに比較すると、Z世代・男性に高い出現率が出ています。

具体的には、男性15~19歳では9.9%、男性20~24歳では8.8%、女性15~19歳でも6.7%、女性20~24歳で5.8%といった比率となっています。いま中高生で40人クラスがあれば、1クラス3〜4人ほどはVTuberファンだということになります。

では「VTuberファンがどういった属性の人なのか?」。VTuberのファンが他にどういった領域に興味があるのかも調査しました。

アニメが好きと答えたのは80%以上となり、他にもコンピューターゲーム、漫画・ライトノベル、YouTuber、音楽鑑賞と高い親和性があることが分かりました。

すこしインドアな傾向があり、サブカルやオタクとも言われる趣味と親和性が高いことがアンケートから分かりました。

続いて、彼らVTuberファンが「どれほどの熱量を持っているのか?」という点について。

VTuberがブームとなったのは、新型コロナウイルスの世界的流行と時期が被っていたこともあり、巣ごもり需要の一時期的な人気に過ぎないのではないか?という仮説が立つかもしれません。

それに対し、「2021年12月から2022年12月のあいだでVTuberに関する動画や生配信の視聴が増えたか/減ったか」というアンケートを行いました。このアンケートによると、増加したと答えたのは55.9%、変わらないと答えたのは27.1%となりました。

2020年から2021年にかけてのコロナ禍に起こった一次的な流行ではなく、その後現在まで続くムーブメントになっているのが分かります。

加えて、VTuberのファンが「どれくらいの頻度で視聴しているか?」というアンケートをしました。結果、61.3%の視聴者が週3回以上「VTuber関連動画」を視聴していると回答しています。ファンのエンゲージメントは高く、生活の一部・習慣になっていると読み取れます。

これに対して、「VTuberは無料で見られるコンテンツが主であるので、テレビ番組の代替として“映像を流しておくだけ”ではないか?」という見方も出てくるかと思います。
ただ映像を流して漫然と楽しんでいるのか、それとも推しがいて主体的に楽しんでいるのか。「VTuberに推しがいますか?」というアンケートを取ってみました。

結果として、69.8%ものVTuberファンが「推しがいる」と回答しました。ここから、VTuberというコンテンツが、推しを作って主体的に楽しむコンテンツであると読み解けます。

基本的にVTuberは生配信が軸となりますので、さきほど話したように無料で楽しむコンテンツではあります。そういった中で、「どのくらいの人たちがお金を費やしているか」も調査しました。

公式グッズやコラボグッズ、ファンクラブなど様々な形でお金を使う経路があります。過去1年で1円以上費やした人の割合を調査しました。

土井:結果、公式グッズ(オフィシャルストアからの購入)には35%前後のファンが1円以上費やしたと回答しており、その他にもコラボグッズやコラボイベントなどにも2~3割のファンがお金を費やしたと回答しました。

特にVTuberの公式グッズは、アニメイトさんのようなアニメショップや販売店さんからではなく、所属事務所のオフィシャルストアやECショップから購入することが主体になっています。

また事務所さんやVTuberさんによって変わりますが、記念イベントが起こった際にはお祝いグッズなどを販売することが多く、ただ漫然とグッズを購入したのではなく、「こういうことが起こったから購入した」という目的意識やキッカケがあってグッズを購入するファンが非常に多い傾向にあります。
つまり、ただの35%というだけではなく、非常に意味のある35%であると捉えることができます。

彼らVTuberファンが「全体でどの程度の金額を費やしたか」というところも調査しており、1年間での支出額として公式グッズに対して平均5800円を使い、そのほかのセグメントでも平均約3000円から4000円ほどを使用していることが分かりました。

VTuberの市場とは?規模感とカスタマージャーニーについて

次に、VTuberの市場面から考えてみたいと思います。

2022年度のVTuber市場は約520億円と計算されています。市場の内訳としては、ライブストリーミング・イベント・グッズ・BtoB、この4つの売上によって構成されています。
 
それぞれを詳しく話すと、ライブストリーミングはYouTubeやTwitchからの売上です。広告費用・スーパーチャットなどの投げ銭・メンバーシップの登録などでの登録費になり、売上構成比としては26%ほどになっています。

イベントはイベントチケットの売上で、全体のなかでは7.7%ほどの構成比となっており、グッズはグッズ売上を指しており、全体の51.3%もの売上を占めています。

BtoBとは、いわゆる企業商品のPR案件などのプロモーション活動を通しての売上で、売上構成比でいえば15%ほどとなります。

土井:VTuber市場をこうしてみ見てみると、売上の半分を占めているのがグッズ売上になっています。

似た領域として、YouTuberとの売上を比べてみると、VTuberの会社であるANYCOLOR、カバー、YouTuberのマネジメント事務所であるUUUMと3社は、売上規模はほぼ同じなのですが、営業利益は10倍近く、VTuberの会社が高く差が開いています。その要因としてはグッズ売上でかなりの違いが出ているとのことで、「推しやすい」見た目・ルックスをしていること、IPとしての特徴を押し出しやすいことが要因ではないかと考えられます。

またVTuber企業各社にヒアリングしたところ、市場に関してはグッズ・BtoBは今後も大きく伸びると見込んでいるとの回答をいただきました。

これに対して、YouTubeやTwitchからのライブストリーミングからの売上に関しては、各サイトの方針によって売上がかなり変わってしまうため、依存度を下げたいという考えを持っており、ライブイベントの売上に関しては、準備工数がかなり掛かってしまうことがネックと捉えられており、伸ばせるのであれば伸ばしたいが簡単にライブイベントを増やせるような流れではない、このように企業からは回答をいただいています。

では、グッズやBtoBなど特定のセグメントだけを重視すれば良いのか?というお話になりそうですが、決してそうではないです。

ライブイベントに関係した記念グッズを制作・販売することで、グッズ売上に大きく貢献することもあり、この施策を通じてファンのロイヤリティを向上することもできます。他のセグメントとの繋がりを考えれば、無視することはできないのです。

こういう風に捉えると、それぞれの4つの領域・セグメントは独立したものではなく、連関したもの、カスタマージャーニー(ユーザー体験)として捉えられます。

VTuberのカルチャーのなかには、ユーザーさんが制作した切り抜き動画というものがあります。ライブ配信の面白いところを上手く編集した動画のことで、VTuberさんを知らない人でも短時間でコスパ良く楽しむことができ、実際のライブ配信を見てみようというキッカケにもなります。

ユーザーがライブ配信を視聴することで、投げ銭やグッズ購入までハマり、ライブイベントに足を運ぶことでより多くのファンとの出会いにも繋がる。

そういったファンの大きな熱気が伝わって企業広告にも起用されるようになり、その商品広告を見たVTuberを知らない方が、切り抜き動画からVTuberを知り…こういったカスタマージャーニー・ユーザー体験全体を設計していくことで、相互に各項目の売り上げが伸長させていくことになります。

切り抜き動画はユーザーさんの二次創作であることが多いので、各事務所から制作にまつわるガイドラインを示して、問題の無い二次創作・切り抜き動画の制作を促したり、配信やイベントでのコラボレーションを積極的に行うことでファン同士の好感・認知を高めるということもあるなど、取材でも伺っています。

土井:VTuberの市場全体像とマーケットの概観についてお話ししてきましたが、総括としては

  • VTuberはIPであり、インフルエンサーでもある点が特徴。

  • VTuberのファンは15-39歳の3.8%を占め、Z世代・男性に人気

  • VTuberファンの熱量は高く、積極的に支出を行うファンも多い

  • VTuber市場の売上構成比では、グッズの比率が最も大きく、利益率が高い。

  • 売上を構成する各要素は相互関連しているため、カスタマージャーニー全体を把握することが不可欠

こういった特徴・要素があげられます。


VTuber×データ分析 そこから見えるVTuberの特性とは?

伊藤:バルス株式会社の伊藤と申します。
ここまでは土井様より市場全体像、マーケットの話をメインにお話をさせていただきましたが、私からは事業運営に必要なデータ分析の理論と実践ということで、VTuberビジネスにおいてどのような考え方でデータ分析をしていくのかを掘り下げてお話しいたします。

私は日々たくさんのデータを見させてもらい、データ分析の仕事をしていますが、データ分析の世界において“正解”というものはないと感じています。

ですので、「こういうデータ分析をすれば何かの示唆が出る」というヒントや手法の話ではなく、VTuberビジネスやエンタメビジネスを進めていく上でどういう心構えや考えを持つべきなのか?というお話を中心にできればと思っています。

導入としてですが、VTuberの特性から考えた場合、データ分析は非常に有効であるという話をしていきましょう。

VTuberの特性は大きく2つあります。
まず1つ目、VTuberは元々オンラインでの活動が中心となっており、さらに最近ではオフライン施策も含めてあらゆるファンとの接点を持っているため、ファンの行動を知るためのデータがたくさん存在します。
つまりファンとの接点から取得したデータを、うまくビジネスに活用するのに大きな余地がある、これが特性の1つ目です。

特性の2つ目として、VTuberという活動形態がファンとの相互コミュニケーションを通じて成長していく点です。
一般的なマス向けのアーティストは、アーティストからファンに向けての一方通行なコミュニケーションが前提ですが、VTuberはファンアートや切り抜き動画などファンから始まるコミュニケーションがあり、VTuberとファンが一緒になってコミュニティを盛り上げていく独自の特性があります。
言い換えれば、“ファンとの対話”を通じてVTuber自身も成長しますし、そこでの対話を経てコンテンツとしての勝ち筋を見つける余地もある、そう捉えることもできます。

私たちバルスとしては、そういった側面をデータ分析を通して切り取るという考えをもっていて、“データ分析はファンとの対話の一つ”として捉えています。

データ分析のお話しに入る前に、心構えのお話しをさせていただきます。
「データ分析をすれば、何かしら示唆が出るんでしょう?」という見方・気持ちで入ると、かなりの確率で大やけどをすることがあります。

伊藤:我々の捉え方として、データそのものには価値は無いと考えています。
まずもって重要なのはビジネスとして捉えた時の「課題・問題意識」であり、何が問題になっているのかをしっかり認識したうえで、

データの生成・収集→データの分析(情報化)→課題解決

この3つのステップを経ていくことです。
エンタメビジネスにおいては、事業課題を置いたうえで、そのために仮説を置き、データ分析をしていく。そうでないとかなりの確率で迷子になってしまうと思います。

また、「データの分析結果が答え」だと捉えるのは非常に危険です。データの分析結果はあくまで、課題解決の示唆や解釈の助けとなるものであって、データ結果を“どのように見るか?”というのがとても重要です。

ファンの資産価値をマネタイズ視点で分析する重要性

では、ここから本編の話をしていきます。
まず1つ目。ファンの資産価値を高めるためには、表層データだけでは足りない。マーケティングの観点でマネタイズまで含めた統合分析が重要になるというお話です。

VTuberの業界でお話をしていると、「このVTuberさんはチャンネル登録者数が何十万人もいて凄いですね」といった話題があがることがあります。

実はチャンネル登録者数だけをみていると、いま現在のファンの動きを追うことはできないと思っています。これはYouTuberの方にもいえるのですが、長く活動すればするほど登録者数は増えていくものであり、登録者のなかにはいまではYouTubeを見ていない方もいます。大事なのは、いま現在のファンがどれくらいアクティブなのか?というところです。

ですので、YouTubeチャンネル登録者数が多いかどうか?だけじゃなく、最近の同時接続数・チャット数・スーパーチャットの数や金額なども見比べることも大事になってきます。

伊藤:そこを踏まえて、VTuberビジネスの難しさについてお話しします。

ビジネスを簡単な数式で捉えると、「収益=単価×数」という式に辿り着きます。

VTuberのなかには、ファンの数自体(≒チャンネル登録者数)は少ないけども、コアかつアクティブなファンを抱えていてファン1人あたりの収益が高単価なタイプの方もいれば、逆に新規ファンをガンガン増やして平均単価は低いものの数多くのファンを抱えているタイプの方もいます。

このようにVTuberそれぞれで収益ドライバーの考え方が多岐にわたるため、ビジネスの組み立て方・オプションも非常に多岐にわたり、ビジネスを難しくさせています。

もう1つ、プラットフォームの分散・分断という点についてです。

これは弊社が統合エンタメプラットフォーム「SPWN」を立ち上げた際の問題意識にもつながってくるのですが、SNSや動画配信サイト、グッズを販売するECサイトも含めて、ファンを囲ってマネタイズできる場所・サイトが分散している状態で、しかもそれらが相互に連関している。つまり、ファンの動きや導線を設計する難易度が劇的にあがっているんです。

プラットフォームが分散している影響で、ユーザーのIDが横に紐づかない状況になりやすく、ファンやユーザーの動きそのものを追いかけ、データを計測することが非常に難しくなっています。これら要因が重なり、VTuberの勝ち筋を考えることが劇的に難しくなっていることに繋がっています。

こういった難しさに対して、マーケティングの観点で統合的に分析することが突破口になると考えています。

YouTubeなどのライブストリーミング以外の収益がますます伸びてきている中で、収益の組み立て方のオプションが多岐にわたる点と、プラットフォームが分散・分断している点、この2点を踏まえて考えると、「このタレントならではの稼ぎ方の正解」を生み出すためにマーケティング的な観点が重要になり、ファンのデータも統合的に分析していく必要性がでてきます。

マーケティングの観点による統合分析を通して生まれる示唆を基にして、マネタイズに繋がる「価値創造のメカニズム」を考え抜くこと、これがVTuberビジネスにおいて非常に重要になると思います。

VTuberとしての勝ち筋をみつけるためにどのように考え抜いていくか

伊藤:VTuberとしての勝ち筋をみつけるために、どうやって考え抜くのか?
ここからより深掘りしていきたいと思います。

これはVTuberビジネスに限った話ではないのですが、ファンの資産価値をどのようにあげていくか?が非常に重要な視点となってきます。

“ファンの資産価値”=ファン数×LTV(Life Time Value)

簡単にですが、こういった式に置き換えることができると思います。
“ファンの資産価値”を高める戦略は、タレントさんの特性や事務所の意向によって様々で、正直正解はありません。「自分(VTuber自身)にはどれが合っているのか?」といったところから正解を導いていく形になります。

ここでマーケティングファネルを出してみましょう。マーケティングファネルとは、ユーザーが購買するまでに至る行動過程を、段階的に分けたフレームワークのことです。こういったフローでライト層からコア層までを捉えると、ファンへの理解が深まるのではないかなと思います。

伊藤:最初は見つけて知ってもらうという“発見”があり、YouTubeやXなどのアカウントを登録したりフォローするまでが“関係構築”、ここまでが認知獲得をテーマにしたレイヤーとなっています。

その後、継続的に動画や配信を見てもらう“習慣化”になり、このあたりは濃淡の話にもなりますが、“推し化”、“沼化”というフェーズがあるかなと捉えています。この3つに関しては熱量最大化がテーマとなったレイヤーでもあります。

このファネルとデータ分析を考えると、「認知獲得」「熱量最大化」の2つのレイヤーで考え方や捉え方はまったく異なるかと思います。

「認知獲得」レイヤーはSNSやYouTubeチャンネルのデータ分析が中心となり、「熱量最大化」レイヤーは媒体やツールを跨いでのファン行動分析が中心となります。

「認知獲得」レイヤーに関しては、見るべきKPIはあまりブレないかなと思います。数字を愚直に見ながら、施策をとにかく打っていくことが重要です。

「熱量最大化」レイヤーに関しては、タレントさんの特性に合わせて仮説を立てて、それをどう検証していくか?という考え方で分析が必要になります。

個々のタレントさんによって優先度は変わってくるとは思うものの、いずれにせよ「熱量最大化」は非常に重要なテーマになると考えています。

その理由は3つ、現状のVTuberビジネスを取り巻く環境が原因にあげられます。

①2023年現在、VTuberだけでも2万人以上が存在するとされ、競争激化しているなかで、新規ファンの獲得コスト・難易度は上がる一方にある(認知獲得競争の激化)

②コアファンまで育つ導線が作られない状態で新規ファンの獲得に注力しても、ファンが定着しないためにLTVが挙がらず、持続的な価値創造モデルにならない(穴の開いたバケツ状態)

③コアファンが増えないと、主な収入源を配信プラットフォームの広告収益のみに頼らざるを得ず、配信プラットフォ-ムの意向によって収益性が左右されるため、事業リスクが大きくなる。

こういった環境を鑑みれば、持続的なビジネスを構築するためにもどのように「熱量最大化」していくかがキーになってきます。

伊藤:ではどのように「熱量最大化」をしていくか。それには、コアファンの実態をより深く理解する必要があり、“YouTube外の行動データ”まで追いかけていくことが必要になると考えています。

さきほどお話しした習慣化・推し化・沼化といったレイヤーでは、YouTube外での購買活動・施策と非常に密接に繋がっていて、結果的にはYouTube外でのマネタイズ施策の実績が、もっとも分かりやすい指標となってくる。
ファンのエンゲージメントを定量的に図ることは非常に難しいため、コアファンの動向・実態を掴むためにも、あらゆるマネタイズ施策を試した方が良い。

例えば「ファンクラブを開設しよう」「常設グッズを作ろう」といった施策を、単にマネタイズや収益源として施策を打ち出すのではなく、コアファンの動きを知るためのデータポイントとして施策を打ち出す。そういった事も必要ではないかと我々は考えています。

「熱量最大化」に汎用的なセオリーは無い!

では実際のところ、どういう風にデータを分析・検証しているか?が気になると思うので、とあるVTuberグループについてのお話をしようと思います。

彼らは活動5年目を迎えるVTuberグループで、動画投稿を中心にした音楽活動に力をいれており、さまざまなMVを投稿してきました。一方でそれ以外にも、ゲストを呼んだバラエティ動画も制作し投稿することも続けてきており、毎年ライブイベントを実施、歌唱メインのライブを続けてきました。

そんなタレントさんですが、YouTubeの月別ユニーク視聴者数は年々右肩上がりをつづけている一方で、ライブイベントの集客・参加数がここ数年横ばいになっていました。

伊藤:ここから、分析の目的・テーマは「認知獲得後に有料イベントへどのように繋げるか?」を掲げ、考えていくことになりました。

新規参加者・リピート率を見てみると、新規参加率が下がっており、年々リピート率が上がっている。性別構成をみてみると、年々男性ファン層が下がってきていました。

しかし、YouTube上のアナリティクスを見てみると、視聴者層は男性視聴者のほうが多いことも分かってきた。ここでいくつか仮説が立てられるわけですが、1つの仮説として、音楽MVとバラエティ動画の2つを投稿していくなかで、「音楽ライブ」という有料イベントの形式が自分たちのターゲット層に合ってないのではないか?という仮説があがってきました。

実際にアナリティクスを見てみると、音楽系MVよりもバラエティ動画のほうが男性比率が高く、資金余力のある25歳~34歳の年齢層がより多いとデータにも表れていました。

ここで考えたのは、「音楽中心のライブイベントではなく、バラエティに振り切ったイベントを実施すれば、チケット購入に余力のある男性ファンが取り込めるのではないか?」ということです。

そこで実際にバラエティ系のイベントを実施しました。大事なのは、特別な内容を仕込むのではなく、あくまで普段制作しているバラエティ動画の延長線上にあるような内容で、イベント施策を打ったことです。

結果として、新規参加者も増え、年齢構成も男性が盛り返したことがデータとして浮かび上がってきました。これは見方によっては、先ほどの仮説が正しかったのではないか?と捉えられます。

ですが、実際に仮説が正しいかはこの時点では分かりません。重要なのは、こういった仮説検証を細かく積み重ねていく中で、タレント特性に合ったマネタイズの勝ち筋を見つけていくことにあります。

その後5周年を迎えたタイミングで、ふたたび音楽イベントに打って出ました。結果としては、バラエティ系イベントで獲得した新規ファンのうち、約3割の方々がこちらのイベントにも足を運びました。

このように、データを見ながら仮説を立てて検証、マネタイズの結果をみて振り返っていく。これが我々バルスでのアプローチ方法となっています。

今回は非常に簡単なケーススタディとして話題にあげましたが、実際にはより深くドリルダウンした詳細なデータ分析をおこなっています。

本日お話しした内容、VTuberとデータ分析の特性・関係性について振り返りますと、

  • VTuberの特性上、データ分析は「勝ち筋」を見つけるための非常に有効な手段である

  • ファンの資産価値を高めるためには、表層データだけではなく、マーケティングの観点でマネタイズまで含めた統合分析をする

  • “ファンの資産価値”を最大化するためにマーケティングファネルで仮説設定と分析設計を行う

  • 「熱量最大化」をデータに基づく仮説検証で解決、そのためにもマネタイズに繋がる施策はすべて取り組む

  • 「熱量最大化」に汎用的なセオリーは無い!タレント特性を踏まえて仮説を立て続ける

この5つのポイントが、VTuberビジネスを事業として続けていくうえでおさえるべきポイントだと考えられます。

弊社SPWNというサービスでは、このようにデータ観点での仮説構築・示唆抽出・仮説検証のご支援を提供しております。
VTuberに限らず、これからのエンタメを考える皆さんに是非ご利用頂ければと思っております。

本日は、誠にありがとうございました。


【登壇者紹介】

株式会社矢野経済研究所 X-business研究室 土井輝美

上智大学法学部卒。2020年矢野経済研究所入社。
2022年よりオタク市場など産業横断的に熱量の高い分野を調査するxビジネスチームに異動。主な調査対象はVTuber・同人誌・インディーゲーム市場。
発刊実績としては、『2023年 VTuber市場の徹底研究 ~消費者調査編編』、『2023年 VTuber市場の徹底研究 ~市場調査編』。その他、2022年9月発刊「2022 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究 ~市場分析編~」に寄稿。


バルス株式会社 執行役員 伊藤慎之介

東京大学工学部卒。在学時に、統計学・金融工学と人工知能を掛け合わせた領域でデータサイエンスを専攻。卒業後、経営コンサルティングファームCDIに参画。2018年にAI・ビッグデータを中心としたデジタルテクノロジー分野専門組織 CDI Technology & Design Labを立ち上げ、代表を務める。2022年にバルスへ参画。バルスではコンテンツ・IPに向けてデータに基づく新たなマネタイズ施策の企画立案・提案を行う。


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※この記事は2023年10月時点の情報です。