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マーゴことはじめ私史


むかしのディジュリドゥのイメージ

ぼくがディジュリドゥの演奏をスタートした1997年から2000年代初頭頃までは、日本ではイダキやマーゴという言葉さえほとんど誰も知りませんでした。でもその頃日本に伝わってきていたディジュリドゥのイメージ像はマーゴでした。

それもそのはず、ディジュリドゥを世界的に有名にしたのはマスターDavid Blanasiでした。Wugularr出身のマーゴ奏者の彼が世界を席巻し、ディジュリドゥを広めたこと。そしてアクセスの良さからもダーウィン周辺か、アーネム・ランドの西あるいは南の楽器が広く知られるようになったからです。

[David Blanasi - Didjeridu Master]1998年にリリースされたマーゴ奏者David Blanasiの金字塔的CD。当初は理解できなかったけれど、聞けば聞くほど深みのある演奏です。

ぼくが抱いていた当時のディジュリドゥのイメージは、マウスピースには大抵の場合は蜜蝋がついていてイダキよりも大きく、空洞が太く短いルックスで、今から考えるとそれってマーゴそのものでした。

ですのでぼくが最初に作った孟宗竹のディジュリドゥは内径5cm以上の空洞で、蜜蝋で内径3.5cmくらいの大きさにした太くて短い「E」くらいの楽器でした。この頃にはなんとなくディジュリドゥっていうのはこういうものだ、というイメージがあったんだと思います。

【Frankie Tango Lane】E++ ・114.7cm/2.7kg・3.4-3.6cm (w/ bees wax)/6.9-7.4cm
典型的なWugularrのマーゴという印象を受けるシェイプとサイズ感と音程です。

イダキの台頭

しかし、Yothu Yindi Foundation(YYF)の企画運営で2000年にスタートしたGarma Festivalをきっかけに北東アーネム・ランドのイダキが急激に注目されるようになりました。

それまではヨォルングのイダキを見たこともないし、彼らの演奏を聞いたこともありませんでした。2001年には前述のYYFから5枚のCDがリリースされます。その内の1枚が「DJALU - Djalu teaches and plays Yidaki」で、世界初のイダキソロ集のCDでした。

[Djalu teaches and plays Yidaki]2001年にGarma Festivalの会場で買ってすぐに走って行って、イダキマスターにサインしてもらったCDの裏ジャケット

それは2001年のGarma Festivalの会場ではじめてリリースされ、ぼくはそのCDを握りしめてイダキ・マスターのもとにいき、CDからバックジャケットを取り出してサインをしてもらった。

以降、コールとトゥーツがドローンの中に多彩に散りばめられたイダキが一気に世界的に広まりました。

[2019年のオーストラリアの1ドルコイン]ここに刻印されているのはGalpu氏族のトーテムの一つWititjが描かれたイダキ・マスターの作品です。イダキが国家的アイコンになるほどの知名度になったことを感じさせる。

ブッシュに姿を消したDavid Blanasi

時を同じくして、2001年の8月に南西アーネム・ランドのWugularr(Beswick)のブッシュでDavid Blanasiが行方不明になったというニュースが飛び交った。

ちょうどその頃Yirrkala方面に長期滞在していたぼくは、「アーネム・ハイウェイを歩くブラナシを見た」とか、「彼はファミリーからのハンバッグに耐えかねて姿を消した」といった噂がアボリジナルの人々の間で激しく飛び交うのを何度も聞いた。

2000年にほんの少しだけ彼に会うことはできたものの、マーゴを学ぶということはできずにいたぼくは、2002年には現地を訪れて彼に師事しようと思っていただけに、その悲報にはかなり驚かされました。


後継者Darryl Dikarrna

ソングマンDjoli Laiwanga(c.1930-1998)の亡き後、David Blanasiを中心にWhite Cockatoo Performing Groupが結成されました。そして2001年のDavid Blanasiの失踪後、彼の後継者としてDarryl Dikarrna Brownに白羽の矢が当たり、2006年に日本にもやってきました。

[White Cockatoo Performing Group]Darryl Dikarrna BrownのCD「Mago Masterclass」の裏ジャケットより

その時の大阪のワークショップを主催するために当時伝統奏法に並々ならぬ興味を示していた関西のディジュリドゥ奏者たちで作ったグループがLoopRootsでした。

[来日時のWhite Cockatooのメンバーのサイン]

Darrylはマーゴの教則CD「Darryl Dikarrna - Mago Masterclass」をリリースし、David Blanasiが灯したマーゴの炎は消えることなくDarrylに引き継がれ、それを再燃させていくパワーがありました。その後、Darrylも亡くなってしまいます。

マーゴのこれから

何度となくWugularrコミュニティに足を運び、Maningridaも2度訪れました。この20年ほどの間にマーゴを取り巻く環境は大きく変化してきたように感じます。これほど魅力があり、他にないドローンのみに特化したきらびやかなサウンドのマーゴ。

そして、まだまだぼくらが知らないことがいっぱいあるのもマーゴです。Djoli Laiwangaが作曲したBongolinj-bongolinjがあまりにも有名で、スポットライトが当たってきた反面、他にもたくさんあるKunborrk(グンボルク)ソングをぼくたちはほとんど知りません。

もっとマーゴのことを知りたい。そしてマーゴをもっと知ってもらいたい。願わくばそれが現地に伝わって、交流を深め、彼らから学びたい。そういう想いは20年の時をへてもまだぼくの中で変わらず燃え盛っています。

2023年、それがチーム・ザ・マーゴへとつながっていくことになりました。

【David Brian】C#/F#・136.5cm/2.4kg・3.1-3.5cm (w/ bees wax)/7.3-7.4cm
2023年に日本初登場のManingridaのDavid Brianのマーゴ。ぼくらが知っているマーゴのイメージをくつがえす大きいサイズにビッグマウスでローピッチ。イダキ的に鳴らしてもフィットする。


Avalon Spiralのマーゴストックリスト
https://www.avalonspiral.com/product-list/13

Earth Tubeのマーゴのストックリスト
http://www.earthtube.com/didjeridu/mago.shtml


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