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夜の四隅

名もない料理屋を出て
ベッドタウンのアップダウン

行きは下りが多かったから
これから上りが多いのだろう
当たり前のこと

緩い坂をこぎ続けて右にカーブすると
どこまで続くか分からない下り坂が出てきて
少し涼しくなっている風
切りすぎないように
ときどきブレーキかけながら

ここはどこの駅が近いのか
どこからも近くないのか

あたりは見ごたえのない団地
小さな居酒屋の集落がときどき現れて
現れて消え 現れては消えても
まだ下り坂が続いている

やっと坂を下りきった後の
小さな踏切を渡ろうとすると

やはり電車が来るので

遮断機が降ろされるのを眺めながら
甘んじて時間に捕まっていると
こんな小さな踏切にも電車が三本も通る

踏切が交互に点滅するから
風はまた温度を持ち始めている

見慣れた国道は夜8時半

車が走る音に乗せて
小学生たちの賑やかな声が聞こえてくる
向かい側の学童に明かりがついていて
大人たちはあとかたづけ

あと少しで帰らなくちゃいけない
そのときまで土曜日は永遠で
こんな時間に友達と会っている
誰にも咎められない彼らの背徳感には
名前はまだない
夜の四隅を引っ張り合いながら
子供たちの声 また高くなる

涼しい風が国道を転がす
このまま帰ると決めているから

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