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松は守られた~小さな政治~

まさか自分の経歴に「議員」なんて入るとは思ってもみませんでした。

きっかけは、地域のボランティアサークルです。
30人くらいだったでしょうか、活動していたのは。
活動していると、どうしても「地方自治体」やら「条例」やら
無関係ではいられなくなりました。

ねぇ、変わるんですって
ええ?困ったわねぇー

で、済むことが多かったのですが

ねぇ、私たちが使っている会館、老朽化で取り壊しですって!
え?代わりにどこに行けばいいの?
それがないんですって。
困るじゃない、どうしよう。

市役所と折衝しなければなりませんでした。
なんとなく私が折衝係となり、
離れた場所の公民館を使うことになりました。

こんなこと、またあると困るわねぇー
市議会議員さんにツテがあると、お願いしやすいみたいよ。
知らないわねぇ。いないわよ、議員の知り合いなんて。
もうすぐ市議会選挙ねぇ。

ねぇ、あなた立候補したら?

え?!私が議員?ギイン?
立候補ってお金がかかるんでしょ?

大丈夫、カンパする!
応援するから!
お願い!私たちの代表になって!

押し流されて、選挙。
絶対無理だと思いながらも仲間の応援を背に頑張ったら

当選しました。驚いたわ。

最初は、「市議会」ってのが何がなんだかわからなくて。
やっと飲み込めたころに、それは起こりました。

「請願書」!

私のところに来たのです。
私が元いたボランティア団体は、「松ケ浜公民館」を借りていたのですが、
周辺は農地でした。
「請願書」を持ってきたのは農家の方たちでした。

ちょっと土汚れがついて、汗で少しよれた署名用紙に、
2000名を超える署名がありました。
代表の方たちとは、松ケ浜公民館でお話を聞きました。

「防砂林の松林の保護について」

驚いたのは、代表のほとんどが70~80代だったことです。

センセイ、松を伐ってはなんねぇ
海岸道路ができたとき、松林を半分にしたべ
あれでおれんとこの畑はダメになっただ
今は宅地で家が建ってる
砂が飛んだらここらの農家、つぶれちまうだよ

えと、待ってください、要件はどういうことですか?

だから、下水処理場だぁよ
処理場ができたら松林なくなるって話でねぇか

(あ、その話なのね)

センセイー、あの松は、あの松は、八亀さんが命をかけて守っただよ!
んだ
夜通し鍬持って松を伐るやつおっぱらっただ
鬼みてえだったもんな、八亀さんは
んなことね!やさしい人だぁ
サクさん、八亀さんに惚れてたもんな
ふられたんだべ?
農家の八男じゃ嫁コもらえね、って
八男じゃねぇよ、八番目だから八亀
三男じゃなかったか?
いや、又兵衛んとこは女ばっかで長男だったかもしんね、
ちがうべ、長男なら嫁コもらうでよ
次男じゃなかったか?

ちょっと待ってください、「八亀さん」ですか?どなた?

八亀さんはもう死んだだよ
戦争が終わったら燃料がなくてよ
「松泥棒」が防砂林を伐ってよ
八亀さんはでかい男でよ
よそもん、夜通しおっぱらっただ
今の若えもんは、知らねえ
これ以上松を伐ってはなんね!

そんな調子で聞き取りには時間がかかりましたが、要点をまとめると、

今、県が行っている「松ケ浜下水処理場建設」は
計画通りだと防砂林を全て伐ってしまう
防砂林がなくなると農地がダメになる
農地がなくなったら農家は廃業だ
「請願書」を市議会に出して欲しい

それが1998年のことでした。

「紹介議員」として夢中で話しました。
質疑応答を経て、
下水処理場は二層構造にできないのか、という話になり、
技術的に可能と結論が出て、

防砂林の松林は保全されました。

私が市議会議員としてやった「一番大きな出来事」です。
ありがとうと手を握ってくれたあの人もこの人も亡くなって
去年、サクさんが104歳で亡くなり
請願書の代表は誰もいなくなりました。

市議会の議事録の片隅に残っている、
それはそれは小さな案件。でも

松は残っています。おそらく千年後も。

もしもまた松林を伐採しようと人間が考えたとき
守ってくれる人が現れるのを祈りながら

私は、議員になって良かったと思っています。

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