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カジノ1

 ここのところ、noteに投稿することから離れていた。仕事が忙しいとか、精神的に切羽詰まってたとかいうわけではなくで、ここ数週間あまり、カジノに夢中だったのだ。

最初は、スーパーにビールを買いに行くような軽い気持ちだった。100USDを握りしめて自宅から徒歩圏内にある五つ星ホテルの地下へと向かったのは、確か世間が週末を迎え、街が色めき立つ土曜日の夜だった。

受付でパスポートを提示し、ものの数分でメンバーズカードが完成。恐る恐る階段を下って行くと、そこは薄暗い光に照らされた紳士の遊び場。地下の大遊技場。日本人マネージャーがゲームの案内をしてくれる。気が付いたら、僕はルーレットの席に座っていた。他にルールの分かるゲームがなかったのだ。

僕が座った台は、全部で15、6席ほど。ディーラーが球を弾くタイプではなくてコンピューター制御のマシンだった。中央にルーレット台があり、それを囲むように円型に席が並ぶ。その半分近くが埋まっていて、メンバーは韓国人8割、中国人2割といったところか。

恐る恐る100USDをマシンに挿入する。ミニマムベットは数字ならば1USD、当たれば36倍。赤黒、偶数奇数は10USD、当たれば2倍。36ある数字のうち、1-12、13-24、25-36なら5USD、当たれば3倍だ。単純極まりないこのゲームには、その実、様々な賭け方があるようで、しかし僕がこの時点で把握していたのは上記の3種のみ。数字単体を当てるのは1/37(1-36+0)の確率で極めて低い。僕が狙いをつけたのは、赤黒どちらかと1-12、13-24、25-36のどれか一つに同時にベットすることだ。

ベット総額は15USD。赤黒のみ当たれば+5USD。1-12、13-24、25-36のどれか一つにベットしたものが当たればプラマイ0。両方当たれば+20USDだ。我ながらリスクの少ない戦術に思えた。

黒と赤に仕切られた盤の上部にあるウィールの上を白い球が勢い良く回転していく。速度はゆるやかに減速し、やがて数字の記された盤の中に収まる。そう、必ずどこかに収まる。これは完成されたゲームなのだ。

僕たちの人生に似ているな、と思った。ある程度完成された枠組みの中で、成功するためにもがき、より良い収まりどころを求める僕たちの人生に。

今宵、僕はこのルーレットの完成されたルールの中で、より良い収まりどころを求め勝負する。

2時間程座っていただろうか。一回一回の勝負はよく覚えていないけれど、その夜ルーレットの台を離れ、地上に向かう階段を上る僕の右ポケットには、220USDが入っていた。+120USD。悪くない。むしろこの国で120USDあれば、贅沢と呼ばれる行為に身を沈めることもできる。今宵、僕は何でもできる。そう錯覚するには十分すぎる結果だった。

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