中年男性の趣味が喫茶店になった日

 「いらっしゃいませ」
早朝、客も疎らな時間、開店したばかりの喫茶店内は心地よい静寂に包まれており、食器やカップの重なる音、時たまコーヒーを注ぐ音やパン焼き機の完了サインが響いている。

 「お待たせしました。クロワッサンとホットコーヒーになります」
朝一のパンは焼立て。温めでも十分美味いのだが、どうしても焼立てにしか出せない味というのはあり、噛みしめた時のパリっとした質感と共に歯が生地に沈んでいく感触はえも言われぬものがある。特に冷え込んだ朝、ホットコーヒーが喉を下りていくと、肩の力が抜け・同時にカフェインの心地よい刺激が眠気半分の脳を揺り起こす。一人掛けソファーの背もたれに寄りかかると目を閉じると、思考が整地されていき一日の始まりを感じる。気持ちいい。

 暫くそうして整った所で、鞄から読みかけの本を取り出して、今日のインプットを始める。何かとても有意義な事をした気がして気分が良い…

 というのが今の日常になってしまったのだが、20代の頃は喫茶店というのは待ち合わせの時間潰しに入る程度で、殆ど使った事が無かった。何なら飯も食えないし夜も早く閉まるわで喫茶店と言うのは不便極まりなく、街中の喫茶店が全て24時間営業のファミレスにならないかと思っていた程であった。この頃はまさか将来の趣味が喫茶店になろうとは思いもよらない。

 きっかけはコロナの流行でテレワークが始まった頃、かつて通勤時間であった始業前の暇な時間を消化するのに朝活?として勉強を始めたのがきっかけだった。当時はずっと家に籠りきりで、何か一つでも家から出るきっかけが欲しくて、始めたのが喫茶店通いであった。なので喫茶店そのものがどうというよりも、専ら勉強の為に通っている内に、あれ、中々良いな…と思う様になり今に至るのである。

 朝は専らモーニングセットを頼むのだが、これはコーヒー(紅茶)一杯にトーストなどが付属するというもので大体500円。究極毎日通うと月15,000円になり、試験前などは朝晩通っていた時期もあるのだから、その倍を毎月投入していた。気が付けば最早喫茶店に幾らつぎ込んだのか見当もつかない。まぁ、良いんですけどね。

 地元以外でもキーコーヒーの看板が出ている店などを見つけるとついフラフラっと入ってしまう様になった。これは場所によるが結構軽食に力を入れている所もあり、サンドイッチどころかナポリタンやオムレツが出てきたりと、またこれが揃いも揃って美味いのだ。そういう喫茶店は手作りが基本なので、温めのレストランには出せない味がある。

 などと書いていると、また焼き立てパンを食べくなってきてしまった。これから喫茶店でモーニングしてきます。

 

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