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#141 蟹鋏Ⅰ

 一週間があっという間だ。
 今年はながしろばんりを始めて30年になる。プロデビュー、というのではない。名前を使い始めてから30年だ。これは忘れもしない1994年10月11日、ふと「いいな」と思ったのである。以来、名乗っている。
 当時は絵を描いては中学校の学年通信のトップに使ってもらっていた。ところが、当時は絵のうまい女子というのがたくさんいて(一番最初のスラムダンクのBLの最盛期だ)、打ちのめされた――かというとそうでもなかった。当時のお手本は『ディスコミュニケーション』であり唐沢なをきだったから。あきらかに違う路線である自覚はあった。シンプルな線でシニカルやエロが出来るのが憧れで、よく真似をしたもんであった。
 一方男子はドラゴンボールを真似して絵を描いていた。ちょうどこの記事を書いているタイミングで鳥山明さんが亡くなったからびっくりしたぜ。

 デビュー、ってなんなんであろうか。自分の作ったもので金が貰えた、となると2000年あたりだし、雑誌に原稿が載った……載ったのかなぁ?「載せてやるから書け」と云われてハアハアしながら載ったかもしれない原稿があり(掘り起こせば家のどっかにある)、匿名でナニしたアレもあり、本人名義の本、となると2011年『高校演劇論。』まで時代がくだる。とまれ、そのへんはハッキリさせないほうがいいのだが(お察しください)、個体のながしろとしての活動は1994年からであったと云える。意味もなく歴だけは長い。1996年からほそぼそやってる月刊カレンダーも28年になる。すごいなー。人生の半分以上カレンダー作ってやがる。

 なんにせよ、なんらか作ってきたのであった。行く春や馬齢を重ねて蟹挟アニバーサリー。ナンダカワカンナイ。

 ここまで書いていて、ぢゃあ30周年だからなにをしようか、というと特に思いつかなかった。小説作品のベスト盤を作る話もあったが、これもやる気を失っていた。なぜか? 作者としての旨味がない、と読者としての自分が判断したからだ。
 考えてみれば、はじめて小学生のときに描いた漫画というのは「ドラゴンクエスト」だ「ファイナルファンタジー」の影響で……影響ではあるのだが、できる範囲で、他人の仕事を手元に再現してみたいということにしかモチベーションがないからだ。あ、これ面白そう、やってみよー、で30年続けてきたのである。独自の創意工夫があったか? 答えはNoだ。でも、なんだかここまで来ちゃったんだよな。文芸学科にいたときには教員に「お前は小説家にはなれぬ」と断言されたことがあるが、見抜かれていたのだろうな。
 「創作をもって社会に関わりを持つ」というよりも、「この前行ったレストランでこの料理が美味しかったから、自分でも再現してみよう」みたいな欲だけで創作をしている。そういう30年だったし、「あ、これやってみよう」を掘り出し続けないと、なーんにもしなくなってしまう。
 上記のドラゴンクエストにしても、鳥山明の絵が好きで、とかではなくて、「何らかの職業があって、モンスターを倒すと経験値が得られて、特殊なアイテムを持つとあたらしい能力が発動する」みたいな部分を鉛筆と自由帳で(コマ割って)やってたんだなぁ、とふと思い出した。いまだに世態人情なんぞどーでもいいのかもしれない。

……という人間が、30周年という節目になにかしたらええのだろうか。
 という問題を提示して、多分次回に続く。


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