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四月物語

春。桜。はじまりの季節。

こんな状態でさえやはり四月は初々しさを感じる。
毎年、僕はこの月に必ずと言っていいほどライブラリから引っ張り出して観る作品がある。
岩井 俊二監督、松たか子主演の「四月物語」。

公開は1998だから23年前。もうずいぶんと昔ですな。
東京の大学に合格した松たか子演じる主人公・楡野 卯月が北海道の親下を離れて始める、ひとり暮らしの大学生活の日常を描いたもの。
共演者も良く(田辺 誠一はもちろん、故・加藤 和彦がナイスだった。劇中劇”生きていた信長”の江口 洋介や伊武 雅刀もまた良し)、卯月の心の機微や「始まりの空気感」をとても丁寧に撮っている。
−いちおう書いておくけど、別に松たか子のファンではない。
あの頃は岩井作品をずいぶん観ていたから、その流れで観たのだと思う。そのくせ”Undo”にも”Love Letter”にも手を出さなかった。いかにも僕らしい。

しかし、話題作となった”スワロウテイル”(1996)に比べると恐ろしく地味で大した起伏もなく、だからもちろん単館に近い上映(確か)で、観客も僕の観た回はまばらだったように記憶している。
観終わって感動も覚えなかったのに(それでも限定版のパンフは買ったのだからミーハーなものだ)、何がきっかけで、いつDVDを購入したのか、四月の恒例行事にしたのか記憶もない。いつの間にかこうなっていた。僕にとって本作は噛めば噛むほど味の出る”スルメ的映画”である。
実際、撮り方、会話の間や表情、動きまで含め、幾度となく繰り返し観て理解できることの多い作品で(単に僕の読解力が低いのかもしれない)、撮り手の愛情溢れる作品のように思える。
或いはそういうところに気づけば気づくだけ作品への僕の愛情が勝手にいや増しているだけの事かもしれないが。
まあそんなわけでこの作品を観るのは僕のごく私的な、四月恒例行事と化している。

それにしても大学生当時は「観たい」という理由だけで出席すべき講義にも出席せず観に行ったのだから、いま考えると自由気まま、呆れ返るくらいに良いご身分であった。
でも、ああいうことが今に繋がる滋養となっているのもまた事実で、そう考えると”学生の本分は学ぶことである”というのも、果たしてそれは専攻した学問だけを学ぶのでもない気がする。机や本に向かうだけが学びに在らず。
書を捨てよ、街に出よう。
若い時分の体験はその後の選択肢を増やす武器になるので好きなことはぜひやっておくのをオススメする。

…なんかとても年寄りくさい、しかも無責任な締めになってしまったな。


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