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バーテンダー、落語を聴く

「バーテンダーは会話するのも仕事のうち」なんて昔ゃよく言われた話で、「間」や「まわし」に「生の言語表現」なんかを学ぶに落語を聴くのは打って付けと言われたもんです。
特に、あまり話が面白くない「会話下手」なバーテンダーにとっては(あたしのことです)。

「カクテル作ったり、それにまつわる知識だけじゃ仕事は成り立たない。話して楽しんでもらってナンボだぞ」

と、誰かに言われたのは覚えてます。誰に言われたかは忘れましたけど。
でもそこまで話芸の達者なバーテンダーについぞお会いしたことはない。と思いますね。
なによりそっちに秀でていると出てくるモノが心配になっちまう。
才能ってのは等分に行き渡ると経験上思えず、あっちが良いとこっちは悪いみたいなことになっていて「世の中よく出来てるもんだねェ」なんて毎度感心するんです、ええ。
だから「話し上手になりたい」なんて理由から落語を聴こうなんて思ったことはただの一度もございません。だってそっちに才能無いんですからね。袖と一緒で無いモンは振れないってヤツです。

でも聴きたいとは思っていましたよ。
きっかけはもうだいぶ前のドラマ、「タイガー&ドラゴン」。あれの特番でやった「五枚起請」が一番好き。
それまではホコリに塗れてカビ臭い、枯れた老人の趣味(恐ろしく失礼な話です)くらいにしか見えなかった落語が明快かつ洒脱に、面白く表現されていましたから。
日本の伝統芸能・文化は小難しくて閉鎖的、新参に古参が口煩いイメージが強くてどうも…って感じだったんです。
今だって歌舞伎はまだしも、能や狂言、雅楽に着物、なんなら和食にだってそんなイメージ持ってます。

おっと拗れた話はそこそこに、そんなこんなでようやっと落語を聴きかじるようになりました。
ま、YouTubeでなんですけどね。高座を生で聴きに行くにはもう少し時間がかかりそうです。
それでも大した進歩ですよ。手を出すのと出さないのとの合間にはけっこうな差がありますから。
はて、きっかけはどの噺だったか。
…たしか「目黒の秋刀魚」。なぜ聴こうと思ったかは思い出せないんですが。
でもまあ聴いてみて、同演目を他の噺家で聴いてみようと早々に聴き比べたら面白く感じられたのが良かったんでしょうな。
そこからポツポツと演目で聴いたり噺家違いで聴いたりしていると、こういうわけでございます。

で、けっこうカクテルとも通じるものがあると気づいた。
手本とされるものがあり、自分なりの解釈を加える。そして各人のそれに好き嫌いが出る。
「なんか忠実過ぎてつまんねぇな」とか「個性が出過ぎて疲れるなぁ」とか。
受け手にも自分なりの塩梅ってもんがありますわな。
だから自分がハマった人のものの大概は好意的に受け入れられるってもんです。もちろん、その逆もまた然り。

詰まるとこ、話芸の世界も我々バーテンダーの世界も最後は人に依る。
忠実過ぎちゃあ堅くて無個性、かと言って無鉄砲に自分を出し過ぎちまっちゃ色物扱い。出し入れをいい塩梅でやってやる。ココが肝心要なようです。
これ、言うは易く行うは難し。自分に質してみるとまあこれがなかなか。ま、そこらへん上手くやれてりゃ今ごろはもっと繁盛店になっているはずなんで上手いってことはないんですね、えぇ。

お後がよろしいようで…え?よろしくない?まあそれでもこれ以上話すこともありませんからね。ここらでお暇いたします。
つまらないお話、お読みいただきありがとうございました。

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