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読書備忘録

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2019年9月の記事一覧

スウェーデン発大型歴史ミステリー

スウェーデンで2017年9月に刊行されたニクラス・ナット・オ・ダーグの作家デビュー作品を読みました。 1793年、秋。湖で発見された男の死体は四肢と両眼、舌と歯を奪われ、美しい金髪だけが残っていた。フランス革命から4年。前年に国王グスタフ3世が暗殺されたここスウェーデンにも、その風は吹きつつあった。無意味な戦争、貧困や病にあえぐ民衆の不満と怒りはマグマのように煮えたぎり、王室と警察は反逆や暴動を恐れ疑心暗鬼となっていた。そんな中で見つかった無残な死体。警視庁から依頼を受けた

連作短編の良さを楽しむ

最近はTV番組にも出演している直木賞作家道尾秀介氏の最新作を読みました。 騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。 「ここ分かった!?」と読み終えたら感想戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。(Amazon内容紹介より) 第1章「弓投げの崖を見てはいけない」 自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。第2章その話を聞かせてはいけない」 友達のいない少年が

常に血縁や家族の意識があること

第161回芥川賞候補となった古川真人氏の作品を読みました。 見えないからこそ見えてくるもの…老女タツコは自らの空想に怯えていたことを笑い飛ばして生きる。実力派新人の芥川賞候補作品。 (「BOOK」データベースより) 単行本化により、芥川候補となった表題作「ラッコの家」と、「窓」という中篇が収められています。 まず「ラッコの家」は福岡弁というのでしょうか、会話の文章と説明文章に方言が混じって出てくるので、とても読みにくいと感じました。 「窓」は2018年に新潮で発表され

「複合力」で知的生産性を高める

テレビ等でも活躍中の明治大学齋藤孝教授がKADOKAWAから出版された本を読みました。 インプット×アウトプットのサイクルをどうまわすかが勝負!習慣化の仕組みを作って、「脳を開放」せよ。「行動の組み合わせ」で生産性は無限に高まる!単純作業すら「知的な瞬間」に変える驚きの思考。(「BOOK」データベースより) 読書、説明、雑談、勉強、創作などの行動を同時に行うことで、生産性を高めるという考えに基づいて提案されるのが、「複合的な習慣」を身に付けることです。 まず「複合力」を

丁寧に日常を生きること

平成15年11月に新潮社から刊行され、平成19年8月に文庫化された堀江敏幸氏の短編集を、連休中に読み終えました。 小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小

いつも彼らはどこかに

平成25年5月に新潮社から刊行され、平成28年1月に文庫化された小川洋子氏の作品を読みました。 たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。―動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。(「BOOK」データベースより

中国発世界に広がるSF小説第一部

劉 慈欣氏の中国でベストセラーのSF小説を読み終えました。 物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠

大事なのは覚悟だ

2019年7月に発表された東野圭吾氏の作品を読みました。 「死んだ人のことなんか知らない。 あたしは、誰かの代わりに生まれてきたんじゃない」 ある殺人事件で絡み合う、容疑者そして若き刑事の苦悩。 どうしたら、本当の家族になれるのだろうか。 閑静な住宅街で小さな喫茶店を営む女性が殺された。 捜査線上に浮上した常連客だったひとりの男性。 災害で二人の子供を失った彼は、深い悩みを抱えていた。 容疑者たちの複雑な運命に、若き刑事が挑む。(Amazon内容紹介より) 加賀恭一郎シリ

ものがたりを作り出すとは

大島真寿美氏が第161回直木賞を受賞した作品を読み終えました。 江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。 大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章(のちの半二)。 末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、竹本座に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。 父からもらった近松門左衛門の硯に導かれるように物書きの世界に入ったが、 弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった……。「妹背山婦女庭訓」や「本

リンゴの木の神さま

ミクシー創業者 笠原健治氏のお父様、京都工芸繊維大学名誉教授笠原正雄氏の自身の記憶を織り交ぜながら作られた物語2編を収めた作品を読みました。 「子供たちが大切に育てていたリンゴが盗まれた?!」盗んだのは誰? 信州の美しい街のリンゴ並木と不思議なホテルを舞台にした子供たちの冒険、表題作の『リンゴの木の神さま』。 「セミだって、ミミズだって、モグラだって、カラスだって、みんな自分たちの時間を一生懸命、楽しく生きている!」大きな木で繰り広げられるセミの子供たちや動物たちの交流物

伊坂幸太郎氏が描くパラレルワールド

伊坂幸太郎氏の書き下ろし長編小説を読み終えました。 製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けと、エンターテインメントの王道を貫いたストーリー(「BOOK」データベースより) 主人公は、製菓会社の会社員、その製菓会社の商品にクレームをつ