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AIが小売業界を変える中、初期の勝ち組銘柄を紹介するAI Will Transform Retail. These Stocks Are Early Winners.技術が本格化すれば、小売業界の生産性は年間6600億ドル改善するとの試算も

話題はもっぱらAI

2022年のチャットGPTの立ち上げ以降、チャンドゥ・ネア氏は人工知能(AI)の話題から逃れられない。米住宅メンテナンス・修理用品チェーン店のロウズ<LOW>でデータ、分析、計算知能、およびロウズ・イノベーション・ラボ、マーケティング・テクノロジーの担当上級副社長を務めるネア氏は「誰もがAIを話題にする。どのフォーラムでも、ほぼ確実にこのトピックについて触れねばならない」と述べている。

AIに対する熱狂はアメリカのビジネスに浸透しており、小売業界も例外ではない。ロウズや米大手スーパーマーケットチェーンのウォルマート<WMT>のような大型店舗チェーンストアから、婦人服・インナーを販売するヴィクトリアズ・シークレット<VSCO>やファッションレンタルのレント・ザ・ランウェイ<RENT>のような専門店に至るまで、生産性と収益性の向上への期待から各社はAI投資を活発化させている。

生成AIは新しい何かをもたらす


多くの小売企業は、需要予測、サプライチェーン・ロジスティクス、オンライン・ショッピングのアルゴリズムに関して、何年も前から何らかの形でAIを活用してきた。しかし、従来のAIが特定のインプットに反応し、結果を予測するのに対し、生成AIは新しいものを提供する。高度な機械学習に基づき人間知能の模倣を進化させ、会話に参加したり、画像、テキスト、動画、音楽、コンピューターコードを作成したりできる。

米コンサルティング大手、マッキンゼーの試算によれば、生成AIの利用によって世界経済に年間2兆6000億~4兆4000億ドルのプラス効果が期待でき、小売り・消費財セクターでは、技術が本格化すれば年間4000億~6600億ドルの生産性向上が見込まれる。AIは、顧客サービス、マーケティング、商品設計から在庫管理、価格設定、サプライチェーン管理に至るまで、小売業者の業務プロセスの合理化を大幅に促進できる。米金融サービスのTDカウエンは、AIが小売企業の粗利益率を最大0.6%ポイント上昇させる一方、人件費を2~9%削減できると予測している。

生成AIの代表的な使用例はチャットボット

ロウズのネア氏のチームにとって、最初の課題は、何から始めるかを決めることだった。価値が高く、リスクが低く、徐々にテストを進められる複数のイニシアチブを中心に、チームはまとまった。その一つが「ロウズ・プロダクト・エキスポート」で、チャットGPTを搭載し、ロウズのマニュアル、操作手順書、製品パンフレットのデータベースに基づいて訓練されたチャットボット(自動会話プログラム)だ。顧客はこのチャットボットに、ホームインプルーブメントについてたずねたり、探している製品部品の写真を共有したりできる。するとチャットボットは、ロウズの製品やサービスへのリンクを紹介する。

チャットボットは、生成AIの使用例の中でも人気の高いものの一つになりそうで、実際に売上高の成長をけん引している。ヴィクトリアズ・シークレット、レント・ザ・ランウェイ、カナダのEコマース企業ショッピファイ<SHOP>、ウォルマートもAI搭載の検索機能を展開している。ウォルマートの経営陣は、AI検索バーがウォルマートのアプリにおける検索件数を「ますます顕著な」数に押し上げていると述べている。

顧客情報管理ソフトウエア大手のセールスフォース<CRM>のバイスプレジデント兼リテール部長、ロブ・ガーフ氏は、数年以内に、AI検索チャットボットが検索機能に完全に取って替わる可能性があると語る。

AI効果から増収が見込まれるが、小売業者は生成AIをマーケティングや顧客サービスといった労働集約的な業務に取り込み始めており、増益効果の方が大きいであろう。例えば、衣料品のラルフローレン<RL>は生成AIを活用して、マーケティング用のEメールやウエブサイト上の商品説明を作成している。

ある研究では、AI投資は小売業者の生産性と利益率の改善に効果があることが示唆されている。全米経済研究所とスタンフォード大学によるワーキングペーパーによれば、カスタマーサービス担当者にAIを利用させると生産性が約14%上昇したと報告されている。

シュティーフェル・シンクタンク・グループのデービッド・シック副会長は、AIを活用したマーケティング活動により広告キャンペーンの投資利益率を改善するのに役立つと予想する。シック氏は、オンライン広告に多額の費用をかけるEコマース企業は、AIの活用により利益率を最大0.57%ポイント改善できると主張する。

AIの勝ち組に投資する

ほとんどの小売業者はまだAIについて手探り段階であり、AIモデルを拡張させるのに必要なデータが十分に整備されていない。約1400の小売業者を対象にしたセールスフォースの調査では、データを効果的に活用し充実した顧客属性を整備していると答えた回答者はわずか17%にとどまる。しかし、時間がたてばそれも変わっていくだろう。

投資家はこの1年程度、AIソフトウエアメーカーの株式を買い上げてきた。シック氏の試算によれば、2022年11月にチャットGPT-3がリリースされてからの1年間で、メタ<META>(旧フェイスブック)や半導体大手エヌビディア<NDVA>、サイバーセキュリティーのパロアルトネットワークス<PANW>などがけん引役となり、AIへのエクスポージャーが最も大きなS&P500指数の15銘柄は他の指数構成銘柄を66%アウトパフォームしたという。

小売業者は数十億ドルを費やしてソフトウエアメーカーからテクノロジーを獲得することになるだろう。TDカウエンの試算では、生成AIソフトウエアへの総投資額は2022年の10億ドル未満から2027年までに800億ドル超へ拡大すると見込まれる。

AI採用競争の勝ち組になる小売株もあるだろう。アナリストは、データ収集で先行した企業に優位性があると見る。顧客ロイヤルティープログラムが充実した企業とEコマース事業が最も有利な立場にいる可能性が高い。

TDカウエンのアナリストは、スポーツ用品大手ナイキ<NKE>とスポーツウエアのルルレモン・アスレティカ<LULU>はメンバーシップの規模が大きいため、AIを迅速に拡張できると語る。UBSのアナリスト、ソール氏はラルフローレンも勝ち組候補だと指摘する。ラルフローレンは何年にもわたり、デジタル機能を強化してきており、好調な四半期決算にも表れている。

ウォルマートも有力な勝ち組候補だ。テクノロジーに精通したウォルマートはマイクロソフト<MSFT>と提携して独自のAIテクノロジーを開発し、アプリの新たな検索機能とともに幾つかの施策を打ち出してきた。ジェフリーズのアナリスト、コーリー・ターロウ氏は、AIと自動化によりウォルマートは2029年度までに追加的に約200億ドルの利払い・税引き前利益(EBIT)を生み出し得ると考えている。

ソール氏は「今のところ、まだAIの初期段階にあるため、それほど明らかでないが、いずれ、どの企業がAIを使いこなして優位性を築き、どの企業がそうでないのかがはっきりしてくるだろう」と述べる。

投資家もしっかりと見極めていく必要がある。

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。