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【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「何物も私の心を喜ばせない」(パレスチナ)

「何物も私の心を喜ばせない」
 バスの中で旅人が言った。
「ラジオも、朝刊も、丘の上に見える砦も。なんだか泣きたい気分だ」

 運転手が言った。
「停留所に着くまでの辛抱だ。それから一人で好きなだけ泣けばいい」

 婦人が言った。
「私も。何物も私の心を喜ばせない。私はこの手で、息子を墓まで導いた。息子はそこを気に入り、そこで眠った。お別れの言葉もくれずに」

 大学生が言った。
「僕も。何物も僕の心を喜ばせない。僕は考古学を勉強している。だが、僕は何者か、その答えは石の上にない。僕は本当に僕なのか?」

兵士が言った。
「俺もだ。何物も俺の心を喜ばせない。俺はいつも、俺を包囲し追い詰める幽霊の影を、包囲し追い詰めている」

イラついた運転手は言った。
「ほら、終点まであと少しだ。降りる支度をしな」

すると、人々は叫んだ。
「私たちは終点のその先に行きたいんだ。だから止まらないでくれ、前に進み続けてくれ!」

しかし私は言った。
「私をここで降ろしてくれ。私も彼らと同じように、何物も私の心を喜ばせない。だが、私はもう旅に疲れた」


翻訳:ريحان السوغامي
画像:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Road_5066_A.JPG

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