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自己探究や他者探究に特化した学びという意味ではこれ以上のものはない - 修道中学校・修道高等学校【体験者インタビューVol.5】

【体験者インタビューVol.5】

こんにちは、ベネッセアートサイト直島 エデュケーション担当の大黒です。

ベネッセアートサイト直島でのプログラム体験者の声をお届けするインタビュー企画・第5回となる今回は、「修道中学校・修道高等学校」の野上知宏先生にお話を伺いました。

■プロフィール

野上 知宏

学校法人 修道学園
修道中学校 修道高等学校 教員 

ベネッセアートサイト直島では、2022年よりベネッセホールディングスと共にスタートした中高生向けの対話を活用した作品鑑賞の効果に関するオンライン授業の実証研究に先立ち、2021年度に修道中学校の生徒数名を対象にトライアル授業を実施。
その結果に基づき、2022年度は修道高等学校の1年生288名を対象に、ベネッセアートサイト直島の作品を対話型鑑賞を用いて鑑賞することで非認知能力がいかに変容するか、その結果どのような行動変化が起こるか実証研究を行った。
2023年11月11日には「ベネッセアートサイト直島 対話型鑑賞フォーラム Vol.1」にて、実際に実証実験に協力いただいた生徒と共に実証結果や対話型鑑賞の効果について発表していただいた。


大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムを体験しようと思ったきっかけや目的を教えてください

野上:もう2年前になりますかね。本校が中高6年制ですから、当時の中学3年生の生徒が何名かお世話になりました。対話を用いた作品鑑賞の効果に関する実証実験のお話をいただいて、なぜ作品鑑賞と生徒たちの批判的な思考力などの変容が結び付くのか、というところに興味を持ちました。個人的には、教員が生徒を観察する中で感覚的に感じている非認知能力の変容を数値化できたらいいなと期待して、トライアル授業をお願いしました。

オンラインで対話型鑑賞をしていただいて、参加した生徒の様子を見る中で、本校で対話型鑑賞を導入していく上でもっと深く学びたいと思い、直島に行かせていただきました。福武財団の藤原さんがファシリテーターとして、オンラインで生徒にしていたように対話型鑑賞をしてくださって。初めは生徒の気持ちになって参加しようと思っていたのですが、実際に体験してみるといつの間にか私自身が作品とどう向き合うべきかということに関心が向きまして。今後、対話型鑑賞を通して生徒の変容を追跡する中で、自分がファシリテーターになったらこういうことがしたい、こういう変容が出るかもしれない、と興味がわいてきました。私自身も直島に行って得られることは吸収したいと思っていました。

大黒:2022年度はオンラインで高校1年生を対象に対話型鑑賞を用いた非認知能力の変容をみる実証実験がスタートしましたね。このプログラムの前後で、生徒に見られた変化があれば教えてください

野上:我々教員が普段生徒と接している中では見たことのない表情が見られた。これが大きいと思います。私は数学の授業をしていますが、生徒の表情から集中しているな、難しそうだな、とかそういう表情はよく見ています。しかし、それ以外の驚いた表情といいますか、驚きの中に笑顔が入ったような表情が見られたんです。生徒同士の話し合いの中で、他の人の意見を聞いた時に「こういう考え方しているのか!」という驚きの表情が見られた。これは普段の授業の中では見られなかったと思います。やっぱり同世代で話をして、そこから気付きを得る時の表情は違いますね。人を見る目が変わる瞬間の表情じゃないかと思います。

作品をよく観察して、気になったところや印象を深堀りするプロセスは、美術鑑賞の枠を超えて、物事を見つめる機会を与えてもらっているのではないかと思います。勉強じゃない視点で物事を見る機会ってあまりないと思うんです。正解のないものと対峙することが生徒にとってほどよい刺激になっていて、そこから話が弾んでいくというか。それがすごくいいですよね。

2023年11月11日に開催された「対話型鑑賞フォーラム Vol.1」にて自己の変化を発表する生徒

野上:我々教員は、生徒達への学習効果を期待して、目的や課題に沿って授業や試験をしていますが、対話型鑑賞のプログラムは生徒たちがすごくのんびりした雰囲気で参加していました。授業を受けたりテストを受けたりする時とは違う空気感だったのが一番良かったんじゃないかなと私は思いますね。


大黒:プログラムの前後で野上先生ご自身に何か変化はありましたか?

野上:対話型鑑賞のプログラムをどの時期に設定すれば良いかということは常に意識していました。生徒たちに化学変化を与えるようなプログラムですから、どの時期に組み込むと個人の変容が見られるか、集団の高まりが期待できるか、よく考えていました。2021年度のトライアル授業に参加した中学3年生の様子を見て、感覚的に高校1年生の1~3月に実施するのがいいなと思っていました。うちは男子校で、男子校ならではの生徒の成長曲線があると思っていて。中学3年生から高校1年生の前半は比較的外に対する関心が高まる時期だと思うんですよね。自分が興味関心を持っているものに対してすごく純粋にアタックしていく時期。そこから今度はギュっと矢印が内向きになる時期がくる。このタイミングに対話型鑑賞のプログラムを重ねたいと思いました。中高6年間の中だるみの時期。私はこの中だるみの時期は非常にプラスに捉えています。この時期こそしっかり色々なことに目を向けるべきで、その中で様々なまなざしが育まれていくと思っています。プログラムの実施時期について、初めは手探りでしたが、結果として高校1年生の最後の時期に実施できたのはよかった。


大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムで「こんなことがしてみたい」ということがあれば教えてください!

野上:直島は自然と文化が融合した素晴らしい場所だと思いますので、もっと世界へ発信できるように我々も微力ながら良さを生徒たちに伝えるような取り組みをしたいなと考えています。実際に行ってみるのが一番ですが、なかなか難しい。私が現地に行って何かしたいというよりは、自然や文化の素晴らしさを外に向けて発信していきたいなと思っています。

先日、他校の先生に探究学習の取り組みについてお話する中で対話型鑑賞のプログラムを紹介すると、とても興味を示してくださって。私も様々な場所を訪問する中で対話型鑑賞に関する話はしていきたいと思っています。話してみると、皆さん「すごくいい」と言ってくださいますね。


大黒:野上先生は3月に対話型鑑賞ファシリテーター認定プログラムにも参加されるご予定ですよね。実際にファシリテーターの認定を取得したら、どんなことに挑戦したいですか?

野上:少し時間があるときに「今日は対話型鑑賞やるか!」と、探究学習の授業の時間を使ってやりたいなと思っています。たまには勉強から離れて生徒たちと関わる時間を作る、それってとても大きな財産になると思っていて。数学の教員である私が対話型鑑賞のファシリテーター認定を取得したって聞いたら生徒たちは「え?なんで取得したの?」って思うはず。「いや、面白いから取得したんだ」っていう会話がそこから始まるでしょう。生徒たちは「何か面白いことに繋がるんじゃないか?」という直観的な感覚が非常に高い。生徒自身の嗅覚で面白いことをキャッチできるような向き合い方というか、姿勢でいたいなとは思います。

野上:あとは、今後も対話型鑑賞の実証研究対象校としての繋がりが途絶えないのであれば、私もファシリテーターとして研究のサポートができればいいなと思っています。ただ、生徒の非認知能力の変容を見るとなると、やはり全く知らない人がファシリテーションをするなど、普段とは少し違う環境での体験が大切になると思うので、外部の学校に出向いてファシリテーションをする機会があればいいなとも思います。


藤原:ベネッセアートサイト直島のプログラムは、美術以外の科目の先生に興味を持っていただくことが多いですが、野上先生から見て美術以外の分野における対話型鑑賞の活用や魅力があれば教えてください

野上:教員の力がまさに対話型鑑賞のファシリテーションに表れると思っています。授業の進行方法や、生徒とのコミュニケーションの基盤など、基礎の部分でファシリテーター役としての力量がそのまま教員の力量と見なせるぐらい、ファシリテーター役っていうのはものすごく教員力を見るものになると思います。

探究学習という括りで考えると、個々での探究活動に焦点を当てた個別型、集団に対してプログラム化して協働的な学びやグループ学習に繋げる集団型などありますが、自己探究や他者探究に特化した学びという意味ではこれ以上のものはないという気がしています。自己や他者との関係を探究することも、探究学習の位置づけの一つだと思っています。


おわりに

今回は「修道中学校・修道高等学校」の野上知宏先生へのインタビューをお届けしました。ご協力ありがとうございました!

対話型鑑賞の実証実験に関するレポートこちらからご覧いただけます↓


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