見出し画像

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その8)


黒田明臣さん撮影

ゼロは無いことを意味しているが、数字であるのと同様に、思想が無いということも、思想の一つである。

世界の主流は、有思想であるが、無思想が劣っているわけではない。

有思想にせよ、無思想にせよ、いずれかの概念世界に属するものであり、それらを支えているのは、感覚世界である。

感覚世界とは、現実の世界、身体であり、脳である。

「自分はいつも同じ自分である」

という意識は、感覚世界から見れば思い込みであり、感覚世界を排除して、それを追求していけば、最後には、

「自分は正義であり、間違っているのは他者」

という判断におちいりやすい。

科学の実験と同じように、ある程度まで考えたら、実際にやってみて、感覚世界における「現実」の反応を確かめていくということが、概念世界の構築についても必要だろう。

プログラムのロジックを考えたら、実際に、その一部のコードを書いてみるとか、いいアイデアを思いついたら、プロトタイプを作ってみるなどと同じことだ。

養老孟司さんは、脳科学の視点から、日本人の無宗教・無思想・無哲学に対して、無思想とは、どのような事態であるのかに関して、以下の様に述べていた。

■自分というものの二重性

「意識」としての自分と「身体」としての自分。

「わたし」は確固と存在しているわけではない。

「自分という主体」があると考えだしたのは、ここ数百年の「西欧近代的自我」に過ぎないのではないか。

■「意識」の特徴

それは、「同じ」という「強い機能=はたらき」である。

寝て目が覚める。

すると、「同じ自分」に戻ると「意識」する働きがある。

毎日、目を覚ますたびに、「わたしは一体誰なんだろうか?」とは思わない。

常に、「同じ自分」に戻る。

■「感覚の世界」と「概念の世界」

「感覚」の世界は、「違い」によって作られる。

「概念」の世界は、「同じ」によって作られる。

そこを結びつけているのが、「言葉」である。

わたしが、「ネコ(猫)」と言うとする。

あなたも、「概念」として「同じ」ネコ(猫)を想像する。

しかし、目の前にあって触れる「感覚」の世界としての「ネコ(猫)」は、全て「違う」。

そんな「同じ」と「違う」を結びつけるものが、「ネコ(猫)」という「言葉」であるという。

■意識(秩序)と無意識(無秩序)

両者は、補完関係にある。

意識とは、秩序活動である。

意識と無意識は、相互に補完関係にあり、秩序と無秩序は、相互に補完関係にある。

■科学とは?

科学とは、「違い」を表す「感覚」世界を基礎として、「同じ」世界を見なおす作業に過ぎない。

以上を踏まえた上で、現実とは何かについて仮定してみると、以下の等式が考えられるが、

現実≒その人の出力≒行動に影響を与えるもの

この等式だと、現実は、

「人によって異なる」

ことになる。

それが、

「唯一客観的な現実のみがある」

ことを信じる現代人にとって、通用しにくいことは、はじめから分かっている。

思想も、世間も、それが、その人の行動に影響する以上は、その人にとっては、現実であると規定できるのではないか。

そこでは、世間に対立すると見なされている両者の間に、実は違いがないのだと考えられる。

但し、思想と現実を、同じように、脳の機能とみなし、

「だから同じだろ」

と言う考えを認めない考え方の方が、おそらく世界中で、きわめて、一般的であろう。

それは、単に、脳の存在を、未だに認めたくないということに尽きるのではないかと思惑もない。

その脳を媒介にして、

■人の考えは、無意識だと、習慣にしたがって行われる。

■でも、意識すれば、考えを変えていくことは可能である。

■現実とは、世間のことである。

■その世間も、また、ある思想である。

■双方共、人が見聞きし、考えたものである。

■つまり、脳の解釈によるものである。

であれば、これらは相互に補完的であり、そこで、

「作品の考察とは何か?」

と問われた場合について考えてみると、

■いかようにも解釈できる、それが良い作品の条件

だと思うので、以下の点を考慮して、

■その作品の全体的なテーマ性、思想性。

■各シーンにおける登場人物の立ち位置や目線、台詞の言い回し。

■平面から立体へと視点を変えて、色彩なども含めた細かい違和感に気づき。

■気づきに対して、どのような意味が込められているか。

■何故、その言葉やシーンが必要なのかを考えること。

その様な観点から詩情を読んでみると、もしかしたら、詩情に込められた

「色は空に異ならず、空は色に異ならず。色即是空、空即是色」

が読み解けるかもしれないかも、ね(^^)

世の中、一見、便利そうなものにも、頻繁に活用することで、支払う代償が大きいツールが数多く存在しており、気づいた時には、依存して、辞められなくなっているから注意してね。

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その8)

「四万十に 光の粒をまきながら 川面をなでる 風の手のひら」
(俵万智『かぜのてのひら』より)

「子ども抱へし ボート難民の リアルなる渚を 思ふ冬の入口」
(馬場あき子『馬場あき子全歌集』より)

「自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏」
(鈴木晴香『夜にあやまってくれ』より)

「手套(てぶくろ)にさしいれてをりDebussyの半音に触れて生(なま)のままのゆび」
(河野美砂子『無言歌』より)

「初夏の空がどの写真にも写り込みどこかが必ず靑、海のよう」
(立花開『ひかりを渡る舟』より)

「人のかたち解かれるときにあおあおとわが魂は深呼吸せん」
(松村由利子『大女伝説』より)

「人生を やってることには なってるが あまりそういう 感じではない」
(工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』より)

「生きるとは 死へ向かうこと  薄明は 部屋を青へと 染め上げていく」
(伊波真人『ナイトフライト』より)

「生きるとはなにか死ぬとは ハンドソープがわが手に吐きし白きたましい」
(北辻一展『無限遠点』より)

「前に出す脚が地面につくまへの、ふるはせながら人ら歩めり」
(山下翔『温泉』より)

【関連記事】
<短歌>
【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その1)
https://note.com/bax36410/n/nf8e5e47f578a

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その2)
https://note.com/bax36410/n/n353e5be2445e

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その3)
https://note.com/bax36410/n/nbb5a13ca8405

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その4)
https://note.com/bax36410/n/n0090664bcf33

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その5)
https://note.com/bax36410/n/n9c0ff103b72c

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その6)
https://note.com/bax36410/n/n066b0410eafa

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その7)
https://note.com/bax36410/n/n43fdb643550c

<俳句>
【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その1)
https://note.com/bax36410/n/n5c97e0bdf258

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その2)
https://note.com/bax36410/n/n0a3e48a832f3

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その3)
https://note.com/bax36410/n/nbb3cde472999

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その4)
https://note.com/bax36410/n/n9392f27683df

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その5)
https://note.com/bax36410/n/n57dcb79b2c3b

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その6)
https://note.com/bax36410/n/n94bfae427e3e

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その7)
https://note.com/bax36410/n/n03ae4a228fb0

この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?