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【「嗜む」のすすめ】編集の冒険に焦がれ本を嗜む

高井哲朗さん撮影

私達が密かに大切にしているものたち。

確かにあるのに。

指差すことができない。

それらは、目に見えるものばかりではなくて。

それらを、ひとつずつ読み解き。

それらを、丁寧に表わしていく。

そうして出来た言葉の集積を嗜む。




■テキスト

「[増補版]知の編集工学」(朝日文庫)松岡正剛(著)

本書刊行時の時代背景と執筆時の思い、そして、今回、増補した制作経緯を明かし、あらためて「知の編集工学」で問おうとしたメッセージを、以下の5つの視点で解説しています。

1.「世界」と「自己」をつなげる

2.さまざまな編集技法を駆使する

3.編集的世界観をもちつづける

4.世の中の価値観を相対的に編み直す

5.物語編集力を活用する

これらの視点の大元には、「生命に学ぶ」「歴史を展く」「文化と遊ぶ」という基本姿勢があることも、AI時代の今こそ見直すべきかもしれません。

■編集の冒険

松岡さんは、「編集工学」の意義に目覚めたのは、1980年代の思想状況にあって、次の3つの契機を挙げています。

①フランソワ・リオタール「知の組み替え」

「ポスト・モダンの条件 知・社会・言語ゲーム」(叢書言語の政治)ジャン フランソワ リオタール(著)小林康夫(訳)

リオタールのいう「転移」とは、編集なのではないかと思ったらしいです。

②エリッヒ・ヤンツ「自己組織化する宇宙」

「自己組織化する宇宙 自然・生命・社会の創発的パラダイム」エリッヒ ヤンツ(著)芹沢高志/内田美恵(訳)

生物が組織を形成するプロセスから、動くプロセスの複合体にひどく編集的な要素を感じたという。

「ある科学」から「なる科学」に興味を持ったとのことです。

③マーヴィン・ミンスキー「心の社会」

「心の社会」マーヴィン・ミンスキー(著)安西祐一郎(訳)

フレーム理論とは、フレームの自己記述性が自己のモデルとなって思考しています。

認知科学や人工知能研究が刺激となったといいます。

自分の中に、情報モデルを常に用意している「編集的自己」という意味です。

<参考資料>

そうこうしているうちに、司馬遼太郎「空海の風景」に不満が沸いて、

「空海の風景 (上巻)」(中公文庫)司馬遼太郎(著)

「空海の風景 (下巻)」(中公文庫)司馬遼太郎(著)

松岡さんは、「空海の夢」を書きました。

「空海の夢」松岡正剛(著)

空海「三教指帰に」道教、仏教、儒教の3つ巴の思想劇を見て、空海の読書力と文章力に感激すると同時に卓越した編集技術を感じたためです。

密教の曼荼羅とは、様々な仏教思想に宇宙論的秩序をでっち上げるいわば編集(構成力)に他ならないと考えたわけです。

視点を変えてみると、例えば、子供の読む絵本には、膨大な物語が、たった数ページに情報圧縮が行われ、また、物語がドラマ化される脚本も恐るべき情報圧縮という編集力が働いている事実に驚かされたことありませんでしたか。

つまり、文化は編集なんですね。

何かが保存され現実性を持って感銘を与えているのだと考えられます。

これを松岡さんは、

「編集的現実性」(エディトリアリティ)

と呼びました。

翻訳、文化の伝播には、このエディトリアリティの共用的な関係保存機能が必要です。

松岡さんは、編集工学の準備として、ボヤーとしながら、自分の注意の移ろいを記録するという訓練を課しました。

要するに、自分を不安定な自由編集状態にしておくことです。

言葉の連想ゲームにも似ているのですが、これは、イメージの移ろいです。

これを、

「自他並列的編集工学の進行」

というそうです。

こうした準備を経て、松岡さんは、1987年編集工学研究所(リーダー渋谷恭子)を立ち上げました。

その当時の集団は、3人からあっという間に7人になったそうです。

そして、最初の仕事は、1990年NTTの依頼になる「情報の歴史」でした。

「情報の歴史21 象形文字から仮想現実まで」松岡正剛(監修)編集工学研究所/イシス編集学校(編著)

編集工学研究所のスローガンは、「生命に学ぶ」ということで、

①「脳」という編集装置を知る

②「歴史」とリンクする

③「遊び文化」を重視したイベントを重視する

ことであるそうです。

編集工学研究所の仕事とは、次の編集素材の領域(マザーコード)にあるそうで、とても参考になりますね。

* 身体に関するー喜怒哀楽、快楽、感覚、生死感、身体障害

* 好みに関するー遊び、趣味、芸事、工藝、熱中の意識

* 直感・啓示に関するー宗教、ヴィジョン、夢、トランス状態

* 学習性に関するー行動訓練、知識の加工、経験科学、コンピュータ操作

* 表現に関するー芸術、美術、文藝、文章、映画、劇画

* ゲームに関するー競技型遊戯、スポーツ、TVゲーム、投資、宣伝

* 図像に関するー文字、文様、寓意、絵画、世界図、トーテム

* 物語に関するー神話、伝説、説話、口承文藝、語り、挿絵

* 歴史に関するー戦争、政治、社会的動向、事件、メディア

* 合理的再現に関するー科楽体系、医療、健康、器械主義的世界観

* 日常性に関するー雑談、礼儀、仁義、嫉妬、恋愛、憎悪、家族、友人知人

■7夜70冊目

2024年4月18日から、適宜、1夜10冊の本を選別して、その本達に肖り、倣うことで、知文(考えや事柄を他に知らせるための書面)を実践するための参考図書として、紹介させて頂きますね(^^)

みなさんにとっても、それぞれが恋い焦がれ、貪り、血肉とした夜があると思います。

どんな夜を持ち込んで、その中から、どんな夜を選んだのか。

そして、私達は、何に、肖り、倣おうととしているのか。

その様な稽古の稽古たる所以となり得る本に出会うことは、とても面白い夜を体験させてくれると、そう考えています。

さてと、今日は、どれを読もうかなんて。

武道や茶道の稽古のように装いを整えて。

振る舞いを変え。

居ずまいから見直して。

好きなことに没入する「読書の稽古」。

稽古の字義は、古に稽えること。

古典に還れという意味ではなくて、「古」そのものに学び、そのプロセスを習熟することを指す。

西平直著「世阿弥の稽古哲学」

自分と向き合う時間に浸る「ヒタ活」(^^)

さて、今宵のお稽古で、嗜む本のお品書きは・・・

【「嗜む」のすすめ】編集の冒険に焦がれ本を嗜む

「京七宝 並河靖之作品集―清水三年坂美術館コレクション」村田理如(著)

「HIROSHI NODA MASTERWORKS」野田弘志(著)

「イラストレーテッド 名作椅子大全」織田憲嗣(著)

「有斐閣判例六法Professional 令和6年版」佐伯仁志/大村敦志/道垣内弘人/荒木尚志(編)

「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】」池澤夏樹(編)

1-01「オン・ザ・ロード」ジャック・ケルアック 青山南訳
1-02「楽園への道」マリオ・バルガス=リョサ 田村さと子訳
1-03「存在の耐えられない軽さ」ミラン・クンデラ 西永良成訳
1-04「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」マルグリット・デュラス 田中倫郎・清水徹訳/フランソワーズ・サガン 朝吹登水子訳
1-05「巨匠とマルガリータ」ミハイル・ブルガーコフ 水野忠夫訳
1-06「暗夜/戦争の悲しみ」残雪 近藤直子訳/バオ・ニン 井川一久訳
1-07「ハワーズ・エンド」E・M・フォースター 吉田健一訳
1-08「アフリカの日々/やし酒飲み」イサク・ディネセン 横山貞子訳/エイモス・チュツオーラ 土屋哲訳
1-09「アブサロム、アブサロム! 」ウィリアム・フォークナー 篠田一士訳
1-10「アデン、アラビア/名誉の戦場」ポール・ニザン 小野正嗣訳/ジャン・ルオー 北代美和子訳
1-11「鉄の時代」J・M・クッツェー くぼたのぞみ訳
1-12「アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 」エルサ・モランテ 中山エツコ訳/ナタリア・ギンズブルグ 須賀敦子訳
2-01「灯台へ/サルガッソーの広い海」ヴァージニア・ウルフ 鴻巣友季子訳/ジーン・リース 小沢瑞穂訳
2-02「失踪者/カッサンドラ」フランツ・カフカ 池内紀訳/クリスタ・ヴォルフ 中込啓子訳
2-03「マイトレイ/軽蔑」ミルチャ・エリアーデ 住谷春也訳/アルべルト・モラヴィア 大久保昭男訳
2-04「アメリカの鳥 」メアリー・マッカーシー 中野恵津子訳
2-05「クーデタ」ジョン・アップダイク 池澤夏樹訳
2-06「庭、灰/見えない都市」ダニロ・キシュ 山崎佳代子訳/イタロ・カルヴィーノ 米川良夫訳
2-07「精霊たちの家」 イサベル・アジェンデ 木村榮一訳
2-08「パタゴニア/老いぼれグリンゴ」ブルース・チャトウィン 芹沢真理子訳/カルロス・フエンテス 安藤哲行訳
2-09「フライデーあるいは太平洋の冥界/黄金探索者」ミシェル・トゥルニエ 榊原晃三訳/J・M・G・ル・クレジオ 中地義和訳
2-10「賜物」ウラジーミル・ナボコフ 沼野充義訳
2-11「ヴァインランド」トマス・ピンチョン 佐藤良明訳
2-12「ブリキの太鼓 」ギュンター・グラス 池内紀訳
3-01「わたしは英国王に給仕した」ボフミル・フラバル 阿部賢一訳
3-02「黒檀」リシャルト・カプシチンスキ 工藤幸雄/阿部優子/武井摩利訳
3-03「ロード・ジム」ジョゼフ・コンラッド 柴田元幸訳
3-04「苦海浄土」石牟礼道子
3-05「短篇コレクション Ⅰ」コルタサル他
3-06「短篇コレクション Ⅱ」A・グリーン/G・トマージ・ディ・ランペドゥーサ他

「未完の建築家 フランク・ロイド・ライト」エイダ・ルイーズ ハクスタブル(著)三輪直美(訳)

「感性のバケモノになりたい 十文字美信 写真」十文字美信(著)

「完訳 ファーブル昆虫記 第1期1~5巻 10冊セット」ジャン=アンリ・ファーブル(著)見山博(イラスト),奥本大三郎(訳)

「はこははこ?」アントワネット ポーティス(著)中川ひろたか(訳)

「全集 日本の歴史 全巻セット」

■(参考記事)松岡正剛の千夜千冊

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