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【自主勉ノート】三字熟語(一字+一字+一字):雪月花

うさだだぬきさん撮影

二字熟語や四字熟語と比べると、少し、存在感が薄い、三字熟語です。

相沢亮さん撮影(月と都市風景:ピンクの空、ビーナスベルトに浮かぶ満月)

調べてみると、意外や意外、かっこよくて、美しい三字熟語があることに、気がつきます。

長瀬正太さん撮影(オオイヌノフグリのマクロ写真)

その中で、お気に入りの三字熟語を覚えておくと、表現力の幅が広がるかもしれませんよね(^^)

三字熟語の構成には、次のタイプがあります。(※1)

■「一字+二字」:一字の語の後ろに二字の語を加えた熟語

例:雨模様(雨+模様) 冬化粧(冬+化粧)

■「二字+一字」:二字の語の後ろに一字を加えた熟語

例:牡丹雪(牡丹+雪) 老婆心(老婆+心)

■「一字+一字+一字」:一字の語の集まりから構成される熟語

例:雪月花(雪+月+花) 真善美(真+善+美)

※1印:

例えば、美しい三字熟語のひとつである「雪月花」は、白居易の詩の一説にある言葉です。

とても風情ある美しい言葉なのがわかります。

「五歳優遊同過日 一朝消散似浮雲

 琴詩酒伴皆抛我 雪月花時最憶君」

意味:

「5年の日々を共に過ごしたが、浮雲のように離ればなれになってしまった。

琴や詩や酒の友は私から去ってしまった。

雪の朝、月の夜、花の時、最も君を憶う。」

白居易「寄殷協律」の一句であり、中国で始めて、「雪月花」を、題材にしたものとされています。

後に、和漢朗詠集や枕草子に取り上げられ、川端康成も、ノーベル文学賞受賞記念講演「美しい日本の私」で、

「美しい日本の私」(講談社現代新書)川端康成(著)エドワード.G・サイデンステッカ-(訳)

この原詩の語句と意味の一部変えて引用されていたのが、印象に残っています。

四季折々の美に巡り合う幸を得た時に、親しい友が切に思われ、この歓びを、共にしたいと願う。

つまり、美の感動が、懐かしい思いやりを、強く誘い出すのだと、川端康成は、説いていましたね。

一方、日本で、最初に、「雪月花」を、詠み込んだ歌は、こちら。

「雪の上に 照れる月夜《つくよ》に 梅の花 折りて贈らむ 愛《は》しき児もかも」
(大伴家持 『万葉集』 巻18-4134より)

意味:

「雪の上に月が輝く夜 梅の花を手折って贈るような愛する人がいて欲しいな」

雪の白、これを照らす月光、さらに、白梅と、全て、白一色の美につつまれた庭を眺めながら、美しい女性を心に思い描いており、まさに、幻想の世界です。

白楽天の雪月花は、四季の季節、季節の美しい時を、指しています。

しかしながら、この家持の歌は、眼前の一時の光景を詠っており、花は、共に、梅でした。

ご存じの方も多いと思いますが、花が、櫻とされるようになったのは、平安時代になってからのことです。

平安時代に、雪月花を愛でた歌が増えたのは、前述の白居易の漢詩の影響があるとのことですが、家持の和歌は、白居易が生まれる20年以上前、749(天平勝宝1)年12月に詠まれています。

平安期の日本人も、今と同じだったんですね。

国産の素晴らしさは、結構、見逃しやすいです(^^;

今と変わらずに、昔から、外来文化には、影響されやすかったのでしょうか(^^)

ここで、雪月花を用いた近・現代短歌や俳句などを、ご紹介しておきますね。

「志賀の浦梢にかよふ松風は氷に残るさざなみの声」

「暮れて行く形見に残る月にさへあらぬ光をそふる秋かな」

「露や花花や露なる秋くれば野原に咲きて風に散るらむ」
(藤原家隆(引用は塚本邦雄『雪月花』読売新聞社、1976年による。旧字は新字に置き換え。)より)

「雪月花いち時に見つ しろたへに死者には死者の未来ありけり」
(林和清『木に縁りて魚を求めよ』(引用は『現代短歌文庫 林和清歌集』より)

「亡き犬の匂ひ残れるうつそみのあはれといふは雪月花の外(ほか)」
(水原紫苑『快楽』より)

「雪月花一度にみする卯木哉」
(貞徳『崑山集』より)

「春は花 夏はほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり」
(松本章男『道元の和歌 - 春は花 夏ほととぎす』(中公新書)より)

道元禅師は、鎌倉時代初期の人で、中国から日本に初めて禅宗を伝え、日本の禅を確立した人ですね。

この和歌は、禅師のもので、当たり前の自然の風景を歌っています。

川端康成は、「美しい日本の私」の結びで、

「道元の四季の歌も本来の面目と題されておりますが、四季の美を歌ひながら実は強く禅に通じたものでせう」

と語っていました。

この「本来の面目」とは、

「生まれる前から自分の中に埋み込まれている純粋の人間性」(松原泰道)

を、言うそうです。

「冬雪さえて すずしかりけり」は、

「自分の心がすがすがしい」

という意味で、春も夏も秋、冬もすがすがしい。

一切が、大自然の心によって、移り変わっていく。

そこには、人間の固定した分別心、好き嫌いでものを判断してはならない。

「融通無碍の心」が、大切だと、仰っている様に感じます。

春は、花が咲き。

夏は、木陰で鳥が鳴く。

秋は、月が非常に美しい。

冬は、雪が冷たく清らかである。

この誰にでもわかる当たり前のことを、当たり前として、受け取るということ。

そこに、自然と人間が、一体になった世界がある、雪月花の世界に、通じている、ということなんでしょうね(^^)

白楽天は、

「時節々々の美しさと親しかった友への思い」を、

家持は、

「眼前の幻想的な光景」を、

道元は、

「哲学の奥深い真理」を、

それぞれ詠いながらも、雪月花に、美を見出したその心は、同じであると、言えるのでしょうね(^^)

そう言えば、酒嫌いの兼好法師(吉田兼好)が、徒然草175段で、以下の様に言っていたのも、面白いよね(^^♪

 「かくうとましと思ふものなれど、おのづから、捨て難き折もあるべし。
 
 月の夜、雪の朝、花の本にても、心長閑(のどか)に物語して、盃出したる、万の興を添ふるわざなり。
 
 つれづれなる日、思ひの外に友の入り来て、とり行ひたるも、心慰む。」 
 (吉田兼好『徒然草 第百七十五段 世には心得ぬ事の多きなり』より)

参考までに、「雪月花」以外に、三字が対等なもの、並列タイプの三字熟語は、以下の通りです。

大中小(だいちゅうしょう) → 大+中+小
上中下(じょうちゅうげ)→ 上+中+下
衣食住(いしょくじゅう) → 衣+食+住
松竹梅(しょうちくばい) → 松+竹+梅
和洋中(わようちゅう)→ 和+洋+中
真善美(しんぜんび) → 真+善+美
陸海空(りくかいくう) → 陸+海+空
心技体(しんぎたい) → 心+技+体
走攻守(そうこうしゅ) → 走+攻+守
天地人(てんちじん) → 天+地+人
朝昼晩(あさひるばん)→ 朝+昼+晩

最後に、お遊びで、もしも、こんな三字熟語があったら面白いんじゃない的な感覚から思い付きで創ってみました( *´艸`)

■消書悩 ⇒ 意味:悩みを書いている時間は、悩みを消すための時間でもある。

■直前紙 ⇒ 意味:紙とペンを前にすると、人は、少し素直になれる。

■決迷文 ⇒ 意味:決意や迷いを文字にすることで、人は、自分を励ましている。

■手書効 ⇒ 意味:手紙に書かれた一言が、お医者さんより、効くこともある。

■見歩色 ⇒ 意味:見たことのない景色は、一歩ふみ出した先にある。

■世笑変 ⇒ 意味:あなたが笑うと、世界は変わる。

■人傘人 ⇒ 意味:人は、人の傘になれる。

■美発界 ⇒ 意味:「発見」が、世界を美しくする。

■美唇目 ⇒ 意味:美しい唇のためには、親切な言葉を話すこと。美しい目のためには、他人の美点を探すこと。

■泥逃道 ⇒ 意味:容易ではないその道に、言い訳に逃げずに立ち向かう、泥臭いその姿こそが美しい。

【自主勉用ノート】
カレッジアニマル学習帳 自主学習ノート 5mm方眼

【参考図書】
「雪月花の心」(祥伝社新書 ヴィジュアル版)栗田勇(著)ロバート・ミンツァー(英文対訳)FUJITSU ユニバーシティ(企画)

「雪月花のことば辞典」(角川ソフィア文庫)宇田川眞人(編著)

「雪月花の俳句歳時記」大野雑草子(編)

「茶席の雪月花 室礼と道具の取り合わせ」白波瀬宗幸(著)

「雪月花 謎解き私小説」北村薫(著)

【おまけ】
「定家百首・雪月花(抄)」(講談社文芸文庫)塚本邦雄(著)

塚本さんの「鑑賞」に手助けされて、定家の百首の歌を読んでみると、ようやく定家の歌の凄みが、読むににつれて、やっと、その一端が分かってくるような世界です。

例えば、定家の非凡な恋歌である、この黒髪の一首等は、

「かきやりし その黒髪の すぢごとに うちふすほどは 面影ぞたつ」(※2)

※2印:
これは当時、流行した古歌の一節を引用してつくる「本歌取り」の歌です。
和泉式部の「黒髪の 乱れも知らず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋ひしき」(後拾遺和歌集)の一部を詠み込むかたちで創作されています。

屈指の作であると言われており、特に、その冷え冷えとした官能美は、比類がないと感じさせてくれます。

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