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最高の休日 9

この商業施設のスタバは1階にある。数回しか利用したことはないが、公園に面したテラス席が良かったので今回もここに座ろうと先に紙袋3つを置く。
昼前なのにレジには幾人か並び、店内もそれなりに埋まっていた。
「いらっしゃいませ」
真帆より10以上は若いとみられる店員が前に立つ。
「えっとスターバックスラテと、あ、ホットで…」
「はい。サイズはいかがなさいますか」
「えっと、1番小さい…」
「はい、1番小さいショートサイズですね」
結局、無難な飲み物を注文した。
「それと、これもいいですか」
レジ横にあるアーモンドフロランタンの袋を手にとる。少しお腹も空いたし、久々にアーモンドのお菓子が食べたくなった。アーモンドや木の実を使ったお菓子は元々好きだったが、長男の理人がアレルギー体質のため、もしもを考え家に置かない、真帆も食べることがなくなったのだ。

テラス席に戻り、席につく。ラテを一口のむ。思ったより熱い。こんなことも知らなかった。
公園の芝生では、まだ2歳ぐらいの男の子が小さな身体の前に大きなボールをもっていた。男の子はその母親と見られる女性に向かってボールを投げた。母親がひざまずきながらキャッチする。
あー、いつだったか、こんなことやってたな。あのレインボー柄のボールも見覚えがある。

アーモンドフロランタンの袋を開け、口にいれる。ポキっ。割りと固い。よい音がする。
グニャグニャ。最初の一口とは別に、噛むと噛み切れない部分もあるようだ。甘ったるいアーモンドとはちみつの味が口に広がる。
男の子が投げたボールが母親の横をすり抜けた。バウンドした後、カラフルな楕円がコロコロと真帆に近づいてくる。
間違いない、家にあったボールと同じだ、最後は奏人が公園に置いてきてしまったんだ、次の朝、探しにいっても見つけられなくて。

フロランタンをまた一口食べながら、あのときの奏人の泣き顔を思い出す。と同時に、喉の奥から何かがせり上がるような気持ち悪さを覚えた。
「うっ…」
口に手を当てる。気持ち悪い。でも吐きたいのに吐けない。そして何だか息苦しい。喉が痛くも感じ、痒くもある。
「大丈夫ですか?」
真帆の足元に転がったボールを取ろうとした母親が、息苦しそうに顔を歪める真帆をみて、声をかける。

大丈夫じゃないです…と、口にだしたいも何も答えられない。瞼が急激に重くなり目を開けるのも辛くなり、真帆はそのまま机に突っ伏してしまった。






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