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一話:始まりの日

おはよう

声が聞こえた

目を開くと、優しい笑顔が見えた

みと「よだれ垂れてる」

みき「えええー。うそーー」

急いで起き上がる私。

みと「うそだよw」

みき「はーー?」

抱き寄せられる

みと「今日もかわいいね」

外はまだ寒いのにみとの体温を感じられるから不思議と寒さを感じない

ずっとこのまま彼の温もりを感じられたらいいのに




私は金井美樹(カナイミキ)

今年でミソジ。そうついに30代になる。

私は5人家族の真ん中で、三つ上の姉と一個下の弟がいる。

姉の佳苗はパイロットだった当時の彼氏に、わざと出来婚した

お陰で今はめでたくパイロット夫人だ

昔から姉はハキハキしてて、これと決めた事はやり通さないと気がすまないタイプだった

死ぬほど勉強して会計士になった

男性が圧倒的に多い中で、よく頑張ったと思う

だから、子供が産まれて呆気なく専業主婦に落ち着いたのは意外だった

まぁ彼女の中での優先順位が子供になったということだろう

一個下の弟のみずきは独身貴族を謳歌してる

弁護士先生だから無理もない

ずっとずっと勉強して、弁護士になってからも仕事も雑用が多くて兎に角忙しそうだった

だけど、今はようやっと仕事が軌道に乗り始めたみたいで、超絶モテ期らし

まぁ弟の恋愛事情なんてまるで興味ないけど、友達から弟の友達を紹介しろとやたら言われる

まず私に彼氏がいないのに、なんで人に紹介しないといけないんだ

あ、私は今彼氏募集中だ

絶賛募集中!!

うちは父が皮膚科医で、母が看護師だったので、子供が3人いたわりにとても裕福な生活を我ながらさせてもらっていた気がする

私だけ資格を持たないただの会社員に落ち着いた

うちは親戚も医者だったり、弁護士だったり、何か手に職を持っている人たちに囲まれている

だからふつーの会社員になったのは、親戚の中でも私ぐらいだった

あ、まぁパイロットもある意味会社員ではあるが。

誰でもなれるわけではない

そう、会社員って誰でもなれるのだ

別に私だから、私にしか、できない仕事なんて何一つない

極端に言えばどの仕事もそうだけど、代わりの効きやすさでいえば圧倒的に資格を持たない我々のような仕事

今やAIさまやロボットさまに、簡単にそのポジションを奪われてしまいそうな、危うさすらある

うちの会社はまさに巨大なビックデータを使ってAIを開発している会社なんだけど、ビックデータの分析も、それなりの基礎知識をもったエンジニアじゃない限り簡単には出来ない

私は入社7年目なのに、まだその分析をさせてもらえるところにいない

私のいつもの日課といえば、いつもネクタイが曲がってる定年間際の吉田さんに「今日の運勢は?」と聞いて、メールをチェックして、予算の管理をして、社内備品の発注をして、在庫整理をして、分析ツールの開発依頼のスケジュール調整等々

兎に角、「雑務」だ

一言で業務を説明しろと言われたら「雑務」としか言いようがない

吉田「金井さん今日は山羊座は10位だったからね、黄色いものを身につけると運気上昇だって」

みき「10位かーなんかいっつも中途半端な順位なんですよねー。

ここんとこ全然1位にならないー」

吉田「まぁそういうときもあるさ」

みき「ありがとうございまーす。」

吉田さんはうちみたいなTHE IT会社ではかなり浮いているお爺ちゃんだけど、頭がクソよいお爺ちゃんなのだ

数学の博士号を持ってる実はものすごく凄い人

だけど、最近は毎朝私に運勢を教えてくれる人になりつつある

私は小さい頃アリの行列を見つけると必ずその行列の向かう先に行かないと気が済まなかった

だってそこには必ずお宝があるのだと教えてくれていたから

綺麗な一列の線を作って目的地までちょっとの隙間も開けずに進む

でも私たち人間も地球単位でモノを見れる神様みたいな存在が例えばいたとすると、私がみているアリとさほど変わらないのではないかと思えてくる

規則正しい生活を無意識のうちにしてしまっている

だけど、例えば寝坊していつもと違う電車に乗ったとしても、物語の主人公みたいに、タイプのイケメンに出会ったりしないし、いつも見かける太ったおじさんじゃなくて、初めて見る中年のおじさんになるぐらいの変化で、それはもはや誤差でしかない

私はなんていうか、産まれた時から「普通」だった

通知表はいつもオール3だったし、人よりも秀でて出来る事なんて無かったし、逆に出来なさすぎる事もなかった

勉強は圧倒的に兄弟の中で出来なかったけど、勉強以外のことはむしろ全部姉や弟に勝ってた

だけど、就いた職業で人間の価値を決めるのだとしたら、私はやっぱり「普通」なところにいる

一応肩書きはロボットエンジニアになるんだけど、さっきも言ったけど、エンジニアらしい仕事なんて1ミリもさせてもらえてないし、最近なんならあんな難しい分析ひなくてもお給料もらえるなら、これはこれでいいのかなとか思ったりもしてきた

圧倒的な男性比率で私は部署で唯一の女性だ

だから、割とみんな気をつかってくれるし、優しい

居心地は抜群によい

だけど、彼氏はいない

なんでだろう、、、誰か口説いてくれ

渡辺「あ、金井さん!ちょっと!」

みき「なんですかー?」

渡辺「お前絶対おれに呼ばれたときだけ、その顔と声だすよなw絶対舐めてるだろ?w」

みき「え、そんな事微塵もありませんよ!せんぱい」

渡辺久志は一個上の先輩で、女子の私に差別なくいい意味で遠慮なく、接してくれる唯一の人だ

渡辺「今期のプレゼンのテーマ決めたの?」

みき「まだです、、」

渡辺「おれはもう決めたし、手伝ってやってもいいぞ」

みき「.....え?もしかしてアイデアパクろうとしてます?」

渡辺「ば、バカ言ってんなよ!?」

みき「え、うそでしょ。図星じゃん、、、」

渡辺は嘘をつくと鼻息が荒くなる

漫画かっ!とツッコミたくなるぐらい分かりやすい男だ

渡辺「っていうのは冗談で、おれは2年前のお前の企画今年こそ取れると思うんだよ。いろいろあって出せなかったやつ」

みき「あーーー。あれですか。でもあれはまだというかこれからも安全性とかいろいろ確認しようがないことも多すぎて、夢物語でしかないですから」

渡辺「はじめはさ、全部夢物語から始まるんじゃないの?何かとんでもない飛躍的な何かを始めて目にする時はみんな夢なのか?って思うものじゃないの?」

どうした渡辺。

渡辺にしては説得力あるし、鼻息でてないし。

みき「ありがとうございます。じゃ共同提案で二人ですすめませんか?先輩のプレゼンスキルだけは認めてますし!」

渡辺「お前、やっぱり絶対バカにしてるよな?w」

ありがと。先輩。

純粋に嬉しかったです。

明日から二人で全社プレゼン企画についての準備が始まった