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数式上は一緒でも…


 -3+3=0

  0+3=3

 数学上、負の数をゼロに戻すことと、ゼロから正の数にすることは同じだ。「+3」で、数直線上を右に3つ進む。ところが、どうやら人間はこんな風にはできていないらしい。その人の状態次第では、「+3」が全く機能しないことになる。それは、「人間」という生き物の本質であるような気がする。

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 たとえば、仲間が週末のイベントに誘ってくれる。特に予定があるわけでもないので行ってみる。特に何を求めて参加するわけでなくとも、その場の空気に後押しされて楽しい気分になることは、よくあることだ。週末のそんなちょっとした遊びが、翌日からの仕事へのエネルギーになったりする。

 ところがこれ、失恋した直後だったりするとどうだろうか。もしかしたら、参加することで余計に淋しさを感じるのかもしれない。もちろんふつうに楽しめるかもしれないけれど。

 同じことをしているのに、自分の状態がちょうど真ん中(0)か、もしくは正(+)の状態なら純粋に楽しめることが、何らかの理由で浮かない気分(-)のとき、余計にそれを実感したり、かえってマイナスになることがある。それが人間だ。

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 どうやらそれは、「頑張る理由」にも必要らしい。「マイナスを避けたい理由」と「プラスを生みたい理由」は違うということだ。

 たとえばタバコや酒、ギャンブルなどに依存している人。

 それにどっぷり浸かってしまい、お金が無くなったり、トラブルになったりして、「もうやめたい」と思う。

 依存症からの回復には、様々な考え方と方法があるが、いずれにしても本当にやめられる人というのは「やめたい理由」のほかに「やめたあとにやりたいこと」がある場合が多い。前者の理由しかないものは、結局ただひたすら「我慢」することで止めようとするから、やめた途端頭の中はそれに支配され、あっという間に元に戻る。

 タバコも酒もギャンブルも、そして危険ドラッグを含む薬物も、その人にとっての「満たされない何か」を求めてそこのたどり着く場合がほとんどだ。だから、やめた途端に生まれる自分の中の空白を、きちんと埋める何かが必要なんだ。

 それは非行少年にも言える。犯罪や非行の害悪なんて、大抵はすぐ理解する。だけど、「かっこよく生きたい」「刺激的な人生を生きたい」という想いが非行につながっているとしたら、非行よりも刺激的な何かを提示してやらなきゃ「非行やめたい」の次の「こんな生き方をしたい」は生まれない。

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 人間は、マイナスをゼロに戻したい理由を見つけるのは得意だ。

 だけど、現状からさらに向上しようという理由を見つけるのはどうやら難しいらしい。

 かっこいい大人が減り続ければ、「こう在りたい」という想いを持てない子どもばかりが増えることになるということだと思う。

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