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#3 このおじ様、メッシー君になってくれるかな

11月初め、私はいきなり新聞社の支局長となり、出版会社での取材や広告営業で忙しく走り回っていた。夏からずいぶん時間が経っているが、彼と2回目の再会をした。カフェで待ち合わせたが、食事時間だった事もあり、彼は「僕のお気に入りの寿司屋に行かない?」と誘った。

貧乏暮らしが続いていた私にとって寿司とは夢のような食事。「ええ、寿司?」と聞いた私に、「僕におごらせてね」と言った。「やったー!寿司が食べれる」と私は浮かれ足だったが、冷静を装った。彼は聞き上手な人だった。いろんなインテリジェンスな質問をしてくる。食べ物についてもグルメのようで、「お金持ちそう」という印象を抱いた。


そのディナーのお礼に、情報雑誌の記者として太鼓イベントの取材がバークレーであったので、彼を誘った。その夜もディナーに行った。私は、その頃貧乏底無しだったので、「もしかして、このおじ様、私のメッシー君になってくれないかな」と思った。
それから私達は度々会った。ある日、とてもゴージャスなディナーに誘われ、そこで突然、「ねえ、僕の彼女にならない?」と聞かれた。私は(彼に)彼女が居る事を知っていたので、「え、何言ってるの?あなた、彼女いるじゃん」と即断ったが、内心はとてもうれしかった。その夜のディナーの時の彼の笑顔や私のエスコートの仕方がとても心地よく、「これからもずっと会っていたい」と思った。


私は多忙を極めていたが、相変わらず貧乏で惨めな暮らしをしていた。仕事は寝る暇もなく、“コミッションオンリー”という制約に、4ヶ月以上も給料が支払われず、1日一食$1の生活がしばらく続いた、そんな時、彼とのディナーは惨めな日常から脱却でき、違う世界観が味わえ、私にとって貴重なものだった。「このままメッシー君をキープしたい」と思っていた。


11月25日、サンクスギビングデー、初めて彼の家に行った。ほとんどの家庭が家族とにぎやかに過ごすこの日に、彼の家はひっそりと静まり返っていた。中年独身男の寂しい雰囲気が漂っていた。家具も家も古めかしくて、シンプルで女気もなかった。


12月になり、町がクリスマスムードで盛り上がっていた頃、人々は“クリスマスショッピング”に明け暮れていた。ベイエリアはシリコンバレーのドットコムバブルが弾けた直後だったが、まだ景気が良かった。レストランもショップもとてもにぎわっていた。

そんな時、彼が私に、「買い物に付き合って欲しい」といった。私はふたつ返事で、彼の(彼女への)プレゼントのアドバイスなどをした。結局彼はおしゃれなブティックで、品が良く高級なセーター($250)をプレゼントとして買った。その時定員が、「誰へのプレゼント?」と言った。私が横に居たので、当然私が彼女で誰かにプレゼントと思ったのか、「妹さんへ?」と言った。彼がいつものスマイルで、「to my girl friend」
と言った時、初めて強い嫉妬を感じた。

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