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対策

  目次

 謎のキャッチコピーをほざきつつ、ふと視線が横にそれる。

「あ」

 よくわかんない触手腐肉の群れが、山を下りて森の中へと分け入っていくところであった。

「ちょーちょーちょーマズいでしょうこれおい!!!! そこの!!!! そこの敵前逃亡触手くんたち!!!! 止まりたまえ!!!! いや確かに美少女に絡みつけとはアタクシ言いましたけれどもお前、お前らの粘液って正直服だけ溶かしてくれるわけでも媚薬成分が含まれてるわけでもないクソの役にも立たないただひたすら汚いだけのシロモノであることだっすィ? てめーらみてーな生ゴミどもをエルフ娘たちに接触させようものならこの場をまかされた烈火くんの立場っつーんですか? 威厳っつーんですか? そういう感じのアレが地に落ちちゃう系男子であるわけだっすィ? オイ!!!! ちょっと!!!! 無視して森に入ろうとするんじゃあないッ!!!! 待てコラァアアアアアアアアアアァァァァァァッッ!!!! さっきから話を聞く脳みそがねえのかテメェらああああああああああああッッ!!!! ……あ、なさそうだな!!!! なるほど納得!!!! ためしてガッテン!!!!」

 慌てて後を追いだす!!!!
 一瞬天才ビームで周囲一帯を焼き払おうかと思ったが、いや、まぁその、ねえ? さすがにそうゆうの、アタシ良くないと思うの。地球環境保全とか超大事。俺天才だからそうゆうのわかる。ゴミとかめっちゃ分別して出してる。そうしないと近所のおばはんに怒られるからだが。
 そういうわけで、爆速で森の中を駆けずり回るハメになった烈火であった。

 ●

「――縦深防御を提案するであります」

 栗色の髪の少年は、生真面目に柳眉を引き締めながらそう言った。

「じゅうしん、ぼうぎょ……?」

 リーネはやや首を傾げた。

「敵戦力を自国内にあえて引き入れ、有利なフィールドで包囲殲滅を期する戦闘教条であります」
「なっ、アンデッドをみすみす王国内に招き入れるというのですか!?」
「樹精鹿騎兵によって、敵の歩兵部隊を大きく迂回しつつスケルトンオークの弓だけ破壊するプランも考えたでありますが、樹精鹿くんたちは森から出ると精霊力を呼吸できなくなって活動に支障をきたすであります。まず現実的ではないかと」
「それはそうだが……」

 思わずケリオスと顔を合わせた。
 すでにちらほらと火のついたしめ縄も出始めている頃だ。決断するなら早い方がいいのは確かだった。
 しかし、どうしても心理的抵抗というものは拭い難い。

「ソーチャンどのから、禁厭法の性質は詳しく教授されているであります。この結界は、いわゆる「障壁」、のようなものを作り出す術式ではなく、結界内部に新たなる法を充満させるものであります。しめ縄は効果範囲を明確にするための目印に過ぎず、一部が破られても全体としての区分が明確なままならば、効果の減衰は一部地域にとどまるはずであります。この性質を利用して、禁厭法の効果範囲内での迎撃こそが、犠牲者を出さずに敵を殲滅できる唯一のプランであると小官は愚考するであります。強引にこの場を死守し続けると、平民の皆さんにまで被害が及ぶ危険性が高いであります」
「ぬぅ……」

 それを言われては是非もない。

「では、迎撃地点はどこにしますか?」
「いえ、その必要はないであります。敵の全軍が森の境界を通過した後で、しめ縄をまき直し、ソーチャンどのに再び儀式を執り行ってもらえれば――」
〈あいや待たれよフィンくん。それは難しいかもしれぬ。〉

 〈スローサ〉くんから、総十郎の声が聞こえてきた。

「ソーチャンどの。どうしてでありますか?」
〈禁厭法は六人の術者が結界の外縁に等間隔でいる必要があるが、小生現在動くことができぬ。〉
「何か異変でも?」
王都上空にギデオンどのがいるのを確認した。〉
「へっ!?」

 思わず、総毛だった。三方向からの侵攻すら囮に過ぎず、本命は真上からの強襲か。

〈アンデッド化した飛竜に騎乗し、人面の鳥のごとき魔物どもを引き連れておる。〈遠視〉の術式を使わねば点にしか見えぬほどの超高高度だ。小生もあの高さには至れぬ。さりとて無視するなど危険すぎる。こゝで相手の出方を警戒するよりほかにあるまい。〉
「そんな……」
〈縦深防御プラン自体は有効であると思う。しめ縄の焼失に伴い浄化効果は減じたものの、なくなったわけではないゆえに。〉
「了解しました。こちらで敵勢力の撃滅を期するであります」
〈うむ、健闘を祈る。しかし無理はいかんぞ。危ないと思ったらすぐに教えてほしい。〉
「……はい。頼りにしてるでありますっ!」
〈うむ。〉

 通信は終わる。
 少年はリーネとケリオスに向き直る。

「では、まずは平民の皆さんに、ここから二番目の〈聖樹の門ウェイポイント〉まで下がってもらいましょう。そこを迎撃ポイントに定めるでありますっ!」
「心得た」
「はいっ!」
「それから――しめ縄の残りが、まだたくさん残っていたでありますよね?」
「ええ、余裕をもってずいぶん多く作りましたから」
「全部ここで使いましょう」
「え?」

【続く】

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