見出し画像

クレイス&ラズリ(相変わらずうっせーなこいつら……)

  目次

「……その心は?」
「まず、やり口から考えて、敵の首脳陣には高度な軍事学を修めた人物が間違いなくいると考えられます。真っ先に機動力を殺し、分断し、包囲する。ただの暴徒の集団ではあり得ない、非常に鮮やかな作戦行動であります」
「た、たしかに。オークどもの慢性的な侵攻から一万年の長きにわたり森を守り続けてきた我々を、わずか半月で詰みにまでもっていった手腕は大したものですが……それならば事態はより深刻になっただけなのでは?」
「いえ、だからこそ、であります。既存の力では傷一つ付けられないはずの〈虫〉を、一撃で粉砕できる超戦力がオブスキュア側に付いた――その事実は敵首脳陣にすでに伝わっているであります。〈虫〉で転移門を無効化し、オークたちに包囲させる戦略をこのまま続けた場合、いくつかの都市は壊滅させられるにせよ、順番に〈虫〉を破壊されてゆき、最終的には敗北する――その事実を、敵将が理解できないとは思えないであります」
「なるほど。ゆえに〈虫〉とオォクどもを一か所に集め、一度に我々にぶつけるという方策に切り替えるしかないわけであるか。」

 戦力は、兵数の自乗に比例する。
 数が多い方が有利なのではない。数が多い方が圧倒的に有利なのだ。
 ゆえに、異界の英雄たちに各個撃破されるのを待つばかりの戦略は、放棄するしかないのである。

「で、では、すでに各都市の〈虫〉は取り除かれているのですねっ?」
「もちろん断言はできないでありますが、敵将の優秀さを見るに、その判断を下さない理由はちょっと小官には思いつかないであります」
「よ、よかった……」

 リーネは目の端に涙を浮かべた。
 シャーリィが寄ってきて、ひしっと抱きつく。
 美しい主従は、しばし寄り添って安堵を分かち合った。

「あー、よくわかんねえけどつまりこの超天才のおかげってことだな!!!!!! オラ讃えろやテメェらあああああ!!!!!!」
「あゝ、すごいすごい。」
「ほんとにすごいでありますっ! レッカどのは救世主でありますっ! とっても強くてかっこいい、英雄の中の英雄でありますっ!」
「え、あ、お、おう……わ、わかってんじゃねえか」
「小官はレッカどのをすっごく尊敬しているでありますっ! その勇猛さと慈悲の深さには感服するばかりでありますっ!」
「あー……うん、ま、まぁな……」
「ははぁ、おぬし、実は誉められることに慣れておらんな?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? 何言っちゃってんのこのロリコン!! なわけねーだろ!! おめー元の世界じゃおめー黒神烈火っつったらもう神扱いですからねマジで!!!! 俺が一声かければ見渡す限りの女どもがこぞって黄色い悲鳴を上げて股を開きますからねガチで!!!!」
「さすがはレッカどのでありますっ! 統率能力も超一流でありますね!」
「……う、うん、そう、なんだよ……うん……」
「フィンくん、そろ/\かわいそうなのでやめてあげなさい。」
「???」

 ともかく、出発することになった。

「リーネどの、よろしくお願いしますっ!」
「ふふ、はい。こちらこそ。さぁ、手を」

 先にラズリに騎乗したリーネが、手を差し伸べてくる。その女性らしく繊細な白い手を、フィンは取った。
 軽々と引っ張り上げられ、女騎士の前に腰をおろす。彼女はとても力持ちだ。自分と同じように、異相圧縮された筋肉でも持っているのだろうか?
 さておき――

「おわっとと……」
「? 大丈夫ですかフィンどの?」

 腰を落ち着けた途端、頭頂部から後頭部にかけて、おっぱいがのしかかってきた。
 けっこう、というかかなり重い。このサイズでありながら、中にみっちりと身が詰まって張りつめた圧倒的質量感が、フィンの首を自然と前に傾けた。

「だ、大丈夫であります。問題ないであります」
「そうですか? ではソーチャンどの、出発しましょう!」
「うむ、行くとしよう。殿下、しっかり掴まっていたゞきたい。」

 かくして、旅が始まった。

 ●

「しかしなんだな、黒神よ、おぬしもう少し静かに走れんものか? まるで機関銃であるぞ。」
「あ゛あ゛ん!? テメーこの超天才にだけ徒歩強要しといて今度はうるせえだぁ? いい性格してんなテメーコラァ!!!!」
「だからやかましいと言うに。おぬしの流派、泰斗魔狼拳と言ったか。無音の歩法などは伝わっておらんのか?」
「ねーよんなもん! 駆け寄ってブッ飛ばすだけだ!」
「あゝ、実にぴったりの流派であるな。」
「テメーそりゃどういう意味で言ってんだコラァー!!」
「フィンどのは、暇なときはどう過ごされているのですか?」
「あまり暇というのはないでありますが……本を読んで勉強しているであります」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ? ちょっと待てガキィ!!! おベンキョー!? お前正気か!? 頭打ったのか!?」
「ええ……なにかまずいでありますか?」
「なにもまずくないですよっ! あの男の言うことはだいたい間違っているので気にしてはいけません」
「うむ、立派なことである。どのようなことを学んでおる?」
「えっと、えっと、歴史の本とかよく読むであります」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ? しかも保健体育じゃねーのかよ!! マジ頭おかしいなおまでべっ!!!!!!!!」

 鞘に収まった刀と、ハルバードの柄が同時に唸りを上げ、烈火の顎を吹っ飛ばした。

「祖先の足跡を学ぶのは大切なことです。フィンどのはきっと将来立派な殿方になられますよ」
「あまりぴんとこないであります……リーネどのは、余暇はどうされているのでありますか?」
「わ、わたしですか? そうですね、殿下と一緒にお昼寝したり、湖で泳いだり、獣たちと戯れたり、うーん、それから平民たちに交じって狩猟に興じたりもしますね。あとは詩作と、幽骨陶芸と、最近はちょっとお酒なんかも嗜むようになりました……あ、そうだ、満月の夜は樹上庭園に出て月光浴などもいいですね。魔力がきゅっと高まって、なんだか変な気分になって楽しいですよ。詩作が妙にはかどります」
「た、多趣味でありますね」
「そうですか? わたしなどは堅物の不調法者で通っているくらいですよ。他の者たちは暇をつぶす方法を探し求める毎日と言っても過言ではないのです」
「参考までに伺うが、一般的なエルフの一日の労働時間はいかほどであるか?」
「ろうどう? うーん、線引きが難しいですが、平民たちが日々の糧を得るために狩猟採集にいそしむ時間ならば、午前中には終わってしまいます。午後まで働いている者はほとんどいませんね。貴族であれば、国政の合議や武術の鍛錬がありますので、もう少し拘束時間は長いですが、それでも昼下がりには終わります」
「ずいぶん優雅な暮らしぶりであるな。」
「ううむ、見解の相違と言う奴ですね。エルフからすると、朝から晩まで働いている人族の暮らしぶりはかなり大変に思えます。彼らは一体なぜ自然の恵みに頼らずに糧を自作しようとするのでしょう?」
「で、あるか。考えさせられるな……」

【続く】

こちらもオススメ!

私設賞開催中!


小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。