平和の祭典と言っているのだから、何かストーリーを伝えることで世界へ貢献したいんです。メッセージとして平和の空気を送ってあげるようなオリンピックが良いですよね。

一般社団法人トラディションジャパン 代表
矢作千鶴子

―――今回矢作さんにインタビューをお願いしたのは、「スポーツの力」を全く違った視点で掘り下げてみたいと思ったからなのですが、まずはどういった活動をされているのか教えて頂けますか?

 実は若いころはずっと陸上をしていて800m・1500mでは全日本インカレ優勝をしたんですが、スポーツの経歴からすれば、「着物」で日本文化を広めていく活動は全く異世界ですよね。私はこの活動を15年ほど前から始めています。日本の長い歴史・文化の中で日本の国風が出来上がったのは1000年前。1000年の間、着物が君臨していたということです。そんな日本人のビジュアル代表が着物なのに、現代の日本人はあんまり着ていない。それに疑問を持ったときに神が降りて始まりました。
 着物は直線のパーツだけで出来ていて、形が同一なのに生地・色柄を変え、帯などの組み合わせを変えるだけで、印象をガラッと変えることが出来る。そんな日本の代表的ビジュアルが深い美意識として伝えられていないのは残念ではないか!今の着物業界の進むべき道が間違っているのではないか?と、強く感じました。その後、着物の歴史を勉強し、着物を誇りある文化の代名詞に改善しようと、フランスやモンゴル、モロッコなどへ行ったりして、着物の深い美意識を国内外問わず、発信しながら今に至っています。

―――日本人女性の立居振舞いというのも着物と密接な関係がありますよね。

 そうですね、洋服に比べて動きづらいですからね(笑)。でも、その動きづらい中で凛とした振る舞いをするところに、日本人女性の歴史的な背景と美意識があると思っています。
 例えば戦国時代は男性が中心でしたが、家の奥で全部をしっかり握っていたのが女性。奥方様と言われるぐらいですからね。国際的なスタンダードで見られれば、女性が表に出ないことが
”虐げられている“と映るようですが、全く違うと思っています。虐げられているのではなく、着物を着て家を支え守っている凛とした姿は、日本に長く続いてきた文化、美意識だと思います。ただそれを言葉にして国際スタンダードに対峙してしまうと誤解を生むので、国内外のショーなどを通じて、着物が歩んだ歴史の中の美意識を感じて頂き、日本に対する新たな見方に繋がっていく一助になれたらと思っています。

着物文化は”綺麗なお姉さんが着て歩いて世界に発
信“なんて、そんなペランペランなものじゃなく、もっと哲学的なものであり深い美意識を発信すべきだ!という想いがもの凄く強いのです。

―――日本人の代表のビジュアルは着物だということに改めて気付かされたきっかけを教えていただけますか?

 2002年~2004年までカリフォルニアで暮らしていましたが、移住当初にある光景を見て感動したことがありました。それは日本人コミュニティーで300~400人ぐらいが盆踊りを踊る姿でした。日本からアメリカに苦労して渡った先祖たちを日本人の顔から離れた四世、五世、六世の人たちが決して綺麗でない着方でも誇らしく着物を纏って、踊っているんですよ。その姿には祖先に対するリスペクト感が漂って、それが私に飛び込んできちゃったんです。ずっと長い間苦労してきた先人たちの想いが彼らの着物姿に移っているような気がしたんです。元来、普段着だった日本の着物は、おばあちゃんがお母さんに教え、お母さんが子どもに教えと、四季折々の行事などと一緒に、日本人の誇りとして先人たちからの教えを自然への畏敬とともに伝えられていたんですよね。今みたいにお金を出して着せてもらうものではなかったと思います。
 資本主義にあって流行とかグローバルという言葉の中で日本の魂が淘汰されていくように、着付けがビジネスになり、大量に安い着物を作るために安い人件費の外国に生産をお願いしたりと、金儲けの手段になっている。着物離れが進み、日本人の「イズム」が希薄になってしまう。サンノゼで盆踊りを見ていた時、自分自身にまず喝が入ったんです。”私がやらなきゃ!“って、アスリート魂が燃えました。

―――それはもう使命だ!って思ったんですか?

 最初は”なんでこんなに一生懸命やってるんだろう。なんでこんなに目くじらを立てて勉強してるんだろう“って思っていました。でも勉強したことを出版したときに、着物の反物は47都道府県に産地があること、ほぼ形は変えずに織の技術や染の技術に特化して、それが陶器の絵付け、刀の装飾ともに深い繋がりがあることなど、学べば学ぶほど先人が築き上げた着物の魅力に惹き込まれていきました。
 刀は日常生活には無くなってしまったけど、着物はまだ日常に生きている。”綺麗なお姉さんが振袖で世界を歩いて発信“なんて、そんな上っ面なペランペランなものじゃないんです。もっともっと哲学的なものであり美意識であり、まさに着物を通じた「道」というものが私の目の前に開けちゃいました。これを世界に、若い人々に感じてもらいたい!教えなくちゃ!そんな想いが凄く溢れました。いつかは海外でと続けてきて、今やっと開けた「道」を歩いているところです。

グローバル社会になってくると「間」を詰めないといけない場面が多いですよね。でも日本人は、互いに存在する「間」を理解し大切にする文化がある。我々が後世に残すべき素晴らしい財産だと思っています。

―――昨年10月にフランスのパリで着物セミナーを開催されたとき、現地の人の反応にすごく感動されたとお聞きしました。

 そうなんです。「ジャポニズム」が興ったのは19世紀のパリからなんですね。それまでは宗教画や写実的なもの、光の描写など色使いも含めて細かいディテールの印象派中心でした。そんな頃、パリの美術大学で日本の浮世絵展が開催され、それを観たボナールなどのナビ派の画家たちが驚愕するわけです。それまでになかった平面的な表現と色使いに新たな美意識が開花したんですよね。パリで日本に対する想いを”日本びいき“と称して大変なブームも起こったんですよ。
 当時の画家たちの絵には着物を描いているものが多いんですが、集めてみると女性は着物を着ていないんですよ。いわゆるガウンのように羽織ってポーズをしている。それは日本人のように着たいが、”着ることが出来ないから“なんです。
 そこで、実際に着てもらったら「第2のジャポニズム」が起きるのではないかと考えたんです。日本から着物40枚ぐらいを段ボールで6箱分くらい送りましたよ。今特許申請中の画期的な方法を発明しましたが、簡単綺麗に着ることの出来る着物を送ったのです。着せてあげるのではなくて、フランス人に自分で着てもらうことが目的でした。
 すごい成果でした!約1時間で彼ら自身で帯まで締めて、全部着ることが出来たんですよ。その後、着物を着たままのフランス人男女30人が外に出て、ルーブル美術館の前をゾロゾロと歩く。道ゆく人は何事かと思いますよね(笑)。
 勿論、着物を着る以外にも所作も教えました。「男女の傘のさし方や持ち方」、「写真を撮られる際の視線の外し方」、「距離の置き方」そして「歩き方」を教えました。日本人は距離を置くことで相手に自由を与え、考える時間を与える。なぜ袖が長いのかというと、袖をおさえて物を取るので距離が出来る、時間が出来る。「間の美」が日本の美意識なんだと。
”写真を撮るときにはちょっと伏し目がちにして、姿勢を正して手は重ねて足は揃えてください“、”傘は、女性の場合なるべく体から離さないで体近くでさしてください。男性は体から離してさしてください“と教えました。マスキュランな感じとフェミニンな感じは生まれついての区別ですから、着物の場合はそれを意識するのだと。
 そうすると、日本人になりたいという思いが徐々に沸いて、街ゆくフランス人に歩きながら”どうだ俺は日本人に見えるだろう?“と、話しかけていました。その光景を見たときに、日本人の文化がリスペクトされているんだなと感じました。「日本人に見えるだろう?」って素敵な言葉だと思いませんか?ここまできて、やって良かったなと心から思いました。

―――「間」というのは、まさに日本の武道にも通ずるお話ですよね。

 そう思います。空気を読むと良く言われますね。英語では「リーディング エアー」みたいな?でも違うんだと(笑)。空気を読むというのは「間を知っている」ということですよね。日本の文化の確立は、ひらがなが入ってからだと言われています。和歌、短歌、百人一首が生まれたのはひらがなが誕生してですよね。
 例えば俳句だと五・七・五ですが、五(間)・七(間)・五と、「間」がものすごく大事で、「間」がなかったら味わいがありませんよね。少ない言葉数と数の間に深く、想いや意識を漂わせ察知させるようになったんですよね。
 ただ、武道もそうだと思うのですが、グローバルになってくると「間」を詰めないといけない場面が多いですよね。昔のように
”やぁやぁ我こそは“って言ってるあいだにバーンと打たれますからね(笑)。でも日本は、お互いに「間」を知っているという文化があります。そこが根本の良さというか。我々が後世に残すべき財産ですよね。

 じゃあどうやって残します?って思ったときに、使命感であろうものがフッと湧いてきたんです。サンノゼの盆踊りで太鼓に合わせて首に巻いた手ぬぐいをかざしたり、拍子木を叩いたりして踊る姿を見たときに、先人の想いが脈々と異国でも繋がっているんだなと。盆踊りの太鼓の「間」を聞きながら、先人を鎮魂するという意味で自分たちも一緒に踊る。そういうのも含めて日本の受け継がれてきた文化を大事にすることは、特定の宗教を持たずとも、グローバルスタンダードの世の中だからこそ、文化には平和に近いものがあると直感したんですよね。それは武道にも宿っていると思います。

資本主義の中では利潤追求という考え方がスタンダードですけど、資本主義目線ではなく、ストーリー目線で考えられるようなオリンピックにして欲しいなと思うんです。

―――2020年の東京オリンピックが日本の伝統文化を伝えていくひとつの手段にならないかというところに着目されて、現在活動されているとお聞きし、それも一つの「スポーツの力」だと思い、今回インタビューをさせて頂くことになりました。その考えに行き着いた経緯をお聞かせください。

 スポーツの力で世界中の人に日本の素晴らしい文化を知ってもらいたいんです。
 人って初対面のときに顔を見るじゃないですか。顔って人生というストーリーが作り上げて来たものなので、そのビジュアルはものすごく大事ですよね。どんな人生だったんだろうって、顔でわかるんです。
 そういう意味で、東京オリンピックの際、空港でおもてなしをする女性スタッフさんのユニホームとして「小袖」を提案しています。東京オリンピックを観るために海外の方々が空港に降り立ち、一番最初に日本のストーリーを知ってもらうことが出来る「顔」としての着物です。
 着るのに何時間もかかるような何万円以上する振袖ではなく、日本の文化を何百年も伝承してきた先人の皆様の為に尽くしますというような意味を込めて、派手ではないけども「紋」をしっかり付けて凛としている着物姿を見たときに、日本の持っている素晴らしい文化、柔道や空手道にもあるような「道」というものが伝わるんじゃないかと思うんです。
 子どもにも語れますよね。オリンピックで着物のお姉さんが付けているのはなんですか?と聞かれたら”ワッペンじゃないよ、シールじゃないよ。「紋」って言うのよ。字が読めない人もみんな紋でどこの誰さんか分かるようにしたんだよ。かっこいいでしょ、ルイヴィトンは「紋」をモチーフにしてモノグラムにしたんだよ。フランス人はそれだけ日本人をリスペクトしてるんだよ“みたいな。そしたら僕らも頑張るよ!ってなりますよね。

 資本主義の中では売れる売れないという考え方がスタンダードですけど、オリンピックはそんな資本主義目線ではなく、ストーリー目線で考えられるような祭典にして欲しいなと思うんです。他の国が見たらどう思うのだろうかって。平和の祭典と言っているのだから、着物のストーリーを伝えることで世界へ貢献したいんです。メッセージとして平和の空気を送ってあげるようなオリンピックが良いですよね。現状だと、日本人はテクノロジーなど今のことしかアピールしていない。

 先人たちが積み上げてきた文化というストーリーを語れるような「おもてなしの祭典」。それこそ真のグローバルであり、地球上における多様性として日本から発信する意味を持つのだと思います。
 東京で次にオリンピックが開催されるときは勿論、私は生きていません。アメリカのサンノゼで盆踊りを観たときのような感動と先人たちが喜んでくれるような発信をしたいという思いで来ましたので、それを見届けることをしたいんですよね。自分が考えたから偉いでしょという気持ちは微塵もないんです。空を見て手を合わせて”頑張ります“という想いで動けば、先人の皆様が喜んでくれるかなっていう気持ちです。

矢作千鶴子 やはぎちづこ
1975・76年全日本インカレ陸上800m・1500mで優勝。1979年から女子高校で体育教師として13年勤務。1986年に結婚。2002年子ども5人を連れて渡米。2008年【きものウエスタン】をはじめとする着物の良さを伝えるラインナップを世界に発信。2009年東京・中目黒にShopをOPEN。「Made in Japanの誇りがCool」の考えを元に、文化伝統の継承を目的に立ち上げた一般社団法人トラディションジャパンの代表理事。

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