上白石さんと白石さん。それから初恋のこと

タイトルにある上白石さんは萌音さんではなく萌歌さんのことで、白石さんは麻衣さんではなく聖さんのことだ。ここまで言えば、本格的なaikoファンの皆さんは、これから僕が何の話をしようとしているか分かると思う。

そう、キリン午後の紅茶「落ち着け、恋心。」だ。

aikoの曲は何度もCMタイアップ曲になっているけれど、カバー曲としてCMに使われたのは、記憶にある限り、この午後の紅茶のCMしかない。

南阿蘇の清流に素足を入れながらカブトムシを歌う上白石さん。彼女は井之脇海演じる野球部の男子に恋をしている。そこに、白石聖さんが加わってデュエットになる。そして、ランニング中の井之脇君が二人の前を通り過ぎ、白石聖さんがぽつりと「私も好きだから」という。驚きと焦りを隠せない上白石さん。思春期にこんな恋愛をしたら、それこそ生涯忘れることはないだろうな、と思えるとても素敵なCMだ。

上白石さんは、このあと2019年に『FM802×TSUTAYA ACCESS!』のスペシャル・ユニット「Radio Darlings」でaikoと共演してメロンソーダを歌っている。Radio Darlingsのメロンソーダはほんとに素晴らしいので、機会があれば別記事を書きたいけれど、上白石さんについていえば、2番のAメロを歌っているところが個人的にはとても好きだ。白石聖さんも、ドラマで阿部真央さんや赤い公園をカバーしている歌唱力のある俳優さんなので、またいつかaikoを歌ってほしいと思っている。

ところで、このCMに関するインタビュー記事に、上白石さんがaikoを好きになったきっかけは、中学1年生のときに「初恋」のシングルを買ってもらったことだと書いてあった。

実は、僕が初めて買ったシングルも初恋だ。カブトムシやボーイフレンドの頃にaikoを知った僕にとって、初恋はaikoのファンになってから初めての新作だった。なけなしのお小遣いを握りしめてCD屋に行って、リリース日に予約しておいた初回限定盤の初恋を手に入れたとき、大げさではなく人生の階段を一段登った気がした。

胸をつく想いは絶えず絶えず絶えず
あたしはこれからも
きっとあなたに焦がれる
初恋(作詞 AIKO)

中学の音楽の授業で、期末の実技テストがリコーダー独奏だったことがあった。選曲は自由。多分、先生の意図としては、教科書の中から自分の実力にあった吹きやすいものを選んでくれ、ということだったんだと思う。でも、僕の胸をつくaikoに対する想いは絶えることはなかった。中学生特有の向こう見ずさに任せて初恋のピアノ譜を買い、そこから先生の伴奏用のピアノパートと僕のリコーダーパートの楽譜に起こした。手書きの楽譜を渡された先生は少し困惑していたけど、自由選曲といった手前、認めてくれた。

でも、いざ練習を始めてとても後悔した。

初恋はA majorだから、もともと♯が3つ付く調だ。それに、aikoの音楽を知っている人にはご存じの通り、aikoは音遣いがおしゃれだ。それはつまり、♯とか♭がやたらたくさん出てくるということだ。残念ながら、中学の音楽の教科書には、アルトリコーダーの「ド♯」や「ソ♯」の運指は乗っていない。どうやって♯が付いた音の運指を調べたかは、もう思い出せない。けれど本番では、同級生たちの「よくやるよ」という視線に体を熱くしながら、不器用な指使いでリコーダーを触りつつも、何とか演奏したことを覚えている。

不器用なりにわざと指に触れたとき
小さなあたしの体は熱くなる
初恋(作詞 AIKO)

指が触れたささいな出来事にまどわされたり、不器用にわざと指に触れて体を熱くしたりできるのは、人生の中でもほんの短い期間だけだ。その短い間にaikoの初恋に出会えたとすれば、それは幸運以外の何物でもない。それと、aikoファンにとってもう一つ幸運なことがあるとすれば、2000年生まれの上白石さんが、リリースから10年以上経った後にもかかわらず、初恋を通してaikoに出会ったことだろう。もしその出会いがなければ、美しい南阿蘇の山の中でカブトムシが歌われることはなかったかもしれないから。

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