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#16:UAEの恐怖

「国籍は?」と聞くと「UAE」と答えた男がいた。名前も覚えていないけど、彼との一夜はそれはもう…強烈だった。UAE、アラブ首長国連邦。ドバイがある国だ。貿易の仕事で神戸に来ているというその男は仮にMとしよう。なぜなら中東系は「ムハンマド」「モハメド」という名前が極端に多いから。
神戸の旧居留地オリエンタルホテルに泊まっているという。背が低いインド系オーストラリア人が「踊ろ?」って部屋で言ったのと同じホテルだ。まぁ、特段高級なホテルというわけではないけど、私はあのホテルが好きだ。モダンだし場所も便利で、景色もよくて、朝ごはんがおいしいから。
バーで待ち合わせを指定され、5分前に到着するとカウンターに一人の外国人が座っていた。当たり前だけど、日本にいるときは例の「ドバイっぽい」民族衣装を着ているわけではない。あれ、セクシーで好きなんだけど。
ザ・中東という顔立ちではなく、欧米人ぽい雰囲気だった。背は190センチぐらいあったのではないだろうか。私は160センチほどなので身長差はなかなかのもの。ムスリムなのでお酒は飲まない。Mはライムの入ったコーラを飲んで、私もオレンジジュースを飲んでから部屋に移動する。
おそらく、女に慣れていないのだろう。普通にくつろぎだすM。パンツと靴下になった男の姿の8割がイケてないのは万国共通だ。

「シャワー入るね」と言うと「どうぞどうぞ」とにこやかに対応。バスローブで戻ってくるとMは何か海外のテレビを見て笑っていた。これ、どうやってセックスの雰囲気にもっていくつもりなんだろう?という好奇心しかない。髪を乾かして、私もリラックスモードになり「眠い」と言うと突然勢いよく覆いかぶさってきた。あ、こういうのは嫌いではない。と思いながらそのままサラっと1回目のセックスが終了。
2回目にさしかかろうとしたとき。Mのアラームが鳴った。
「ちょっと待って!!お祈りの時間だから!!」
あ…あぁ。そうね。お祈りね。と呆気にとられていると、スマホアプリを起動させて何やら部屋の中をウロウロしている。何してるんだろう。と思って見ていると方位磁針アプリ的なものがあるらしくメッカの方向を探していたというわけ。便利なものがあるんだな、と観察しつつ人がお祈りをしている横で裸で寝ているのも失礼かもしれない。と思って取り急ぎシーツをかぶって正座して待った。
アッラーの神との対話によって淫行する気分ではなくなったのか、結局2回目はナシになった。「おやすみ」と額にキスされたのでそのまま仕方なく眠りにつく。1回のセックスでは私は足りないのだ。

夜中にふと、Mが動く気配で目が覚めた。私が寝ぼけた状態で
「え。大丈夫?どしたの?」と聞くもスルーされる。
(聞こえなかったのかも)と思い、再びシーツに入った。もう一度夜中に目が覚めた。部屋に光が漏れている。半分体を起こして様子を見てみると、テレビを観てコーラを飲んで笑っているMがテレビの光に照らされていた。
「ねえ。大丈夫?眠れないの?」と聞くとまたスルー。イラっとしたので「ねえ。」とさっきよりも大きめの声で言ってみたけどまったく私の存在すら気付いていないかのようだった。よく見てみると青白い光に照らされた横顔と笑い顔が怖い。なんだかよく分からない妙な恐怖感を感じた。とにかく今は静かに朝を待つことにした。

そのまま私は眠れないまま荷物をまとめてメイクを簡単に済ませて何も言わずに部屋を出た。会社に直行してもよかったけど、時間がまだあったので一人でホテルで朝ごはんを堪能することだけは忘れなかった。気分はスッキリしなかったものの、フレッシュジュースを一杯飲んだら幾分マシになったし、焼きたてのパンはおいしかった。
あぁ、これを恋する男と一緒に楽しめたらどんなにいいだろう。

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