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山の幸(秋)

 食レポシリーズ第3弾。実家の周囲で採れた山の幸の記録をまとめました。今回は実りの秋です。

銀杏

 皆さんお馴染みイチョウの胚です。イチョウは裸子植物なので、木の実に見える形状の独特の臭気を発する黄色く直径2cmあまりのあの粒が丸々種子です。中学生は理科のテストに出るので覚えておきましょう。
 また、株ごとに雌雄があるので、銀杏の成らない木もあります。採取して食べるつもりの人は覚えておきましょう。

 胚の固い殻ごと炒って、ヒビが入った物を剥いていきます。剥いた後は塩を振って食べるも良し、茶碗蒸しに入れるも良し、煮物に添えるも良し。食事のグレードが上がる気がします。
 ただ、食べ過ぎると中毒を起こします。体重の少ない人ほど体内濃度が高まりやすい(これは体内に入れる全ての物に言えます)ので注意して下さい。最悪死にます。

 秋の定番チェストナッツです。鋭い棘を備えたイガに包まれているので、採取時は注意しましょう。

 採取の流れは2通りあります。
 1つは農家で行われる商品流通パターン。熟す少し前のタイミングで、枝に成っているイガ栗を採取した後、しばらく寝かせて熟成させる流れです。栗の実はでんぷん質を多く含むので、少し寝かせるとでんぷんの一部が分解されて糖に変わり、甘みが増します。これにより流通した先で食べ頃を迎えるわけですね。同様のことがでんぷん質の食糧においては言えるので、芋やカボチャなども収穫から少し日を置いた方が美味しくなります。この手法は、高い位置に成る実を採らねばならない手間がありますが、虫に食われた実から地面に落ちていくので選別を省くことができます。
 もう1つはお爺ちゃんお婆ちゃんがやる栗拾いパターン。地面に落ちたイガを剥いて栗を拾っていく流れです。こちらは採取は容易ですが、落ちた栗の中で食べられるものの割合は3~7割ほど。訪れたタイミングで波がある上、食べられないものを選別する手間があります。食べられないものは、虫食い・病気・成長不良・腐敗が進行してるなど。慣れると見た目でそれとなく分かるようになります。イガは土がついてるけど中の実はやたらキレイだったら虫食い率高めだとか、そんな感じで。最終的には採取後に自宅で水に漬けて洗いながら浮く(虫食いで中が空な)物を除くなどして選定します。

 選んだ後は好きに食べてください。私は栗おこわが好きです。アレルギーのせいでほとんど食べられませんが、大好きです。あとは茶碗蒸しに入れるとごちそうです。青森では定番らしく、試したらハマりました。最後に渋皮煮。The和スイーツです。根気が要りますが幸せの味。

甘柿

 柿には大きく分けて2種類あります。枝に成った段階で甘いものと、渋味が強く食べるのに工夫が要るものです。前者を甘柿、後者を渋柿と呼んでいます。
 甘柿はカボチャのような、球体が平たく変形したような形をしており、熟すと柔らかくドロドロになっていきます。色も濃い朱になっていき、それだけを見れば目立つのですが、遠目からは紅葉に混じって見えにくくなります。

 甘柿は糖度が高く、特に種の周囲はゼリー状になり、蜂蜜の巣蜜を食べているような気になります。食感は固めのウィダーinゼリーか、振って飲む缶またはペットボトルのゼリー飲料が近いです。柿の実の青臭さはかぶりつく際に強く感じますが、食べ終わりにはそれが後味のスッキリさになるのでくどくなく、アッサリした食べ応えを与えてくれます。匂いに敏感な方は一口目で受け付けなくなる場合がありますので、その場合は渋柿をお試しください。
 このタイプは枝からもぐのが柔らかさゆえ難しいので、枝を折って採取し、その場で皮を剥いて食べてしまいます。美味い。
 ただ、その味ゆえに野鳥にものすごく狙われます。「美味しそう!」と思って採ったら裏側を鳥についばまれていた、とかザラです。野鳥との対決に加え柔らかさゆえに輸送が難しいので、市場に出回りにくいのも特徴でしょうか。機会があったら食べてみてください。

渋柿

 渋柿は甘柿に比べスマートで、かつて花弁の付いていた先端部が尖るもしくは細るような形状をしています。実が締まって固さがあり、表面はすべすべで、色は緑、黄、橙、朱と熟すにしたがって濃くなっていきます。橙~朱色になれば食べられる可能性がありますが、あまりオススメしません。

 渋柿はその名の通り渋いです。熟し切っていない実を食べると口の中がショボショボします。ですので野生動物もあまり食べません。これにより安定して収穫が可能です。
 収穫してもそのままでは食べられないので、ここから手間をかけて渋味を除いていきます。この手間は大きく分けて2通り、フルーツとして食す用と、食材として加工するものがあります。

 フルーツとして食す場合、ぬるま湯に漬けて熟成を促す・焼酎に漬けるなどが伝統的ですが、ヘタに焼酎など高濃度のアルコール水溶液を塗るのも効果的です。熟成を促す場合、最長で数週間の時間を要すことがありましたが、糖度が増して渋味が抜けます。アルコールを用いる場合は、渋味の主成分である有機物タンニンを抜くので短時間で渋味を除けます(糖度は増さない)。一長一短ですが、合わせ技にするなり目利きを磨いて舵取りするなりで対応してください。なおスーパーに並んでいるものは大半がこれらの処理が済んでいます。
 こうした手間は必要ですが、その後軽く冷やして皮とヘタを除いて食べるとこれが美味い!匂いが微弱で、それもほのかな甘い香りで癖がありません。歯応えがしっかりしており、噛んだ際にはシャキッと良い音が鳴ります。野菜スティックの大根くらいのシャキシャキ加減です。フルーツではリンゴを超えます。そこから爽やかな甘みが充満し、飲み込んだ後にほのかに香りが残ります。デザートとして非常に優秀なのです。

 食材として加工する場合、と言っていますが、要は干し柿です。作り方は地域や家庭で多少違いますが、理屈は同じ。干して渋味と水分を飛ばし、日持ちの良さと甘さを増幅させるのです。干し柿の表面にある白い粉末は、柿の糖分が結晶化したものなんですよ。
 干した後ではほとんど匂いはしません。前述の通り表面には白い粉のような糖の結晶が付着していますが、その内の果肉はうっすらと透き通り、赤みがかったべっこう飴のような色合いをしています。形も固さも干す際の状態で変わりますが、おおむねジャーキーのような歯応えです。噛めば噛むほど素朴な甘みが染み出すので、渋いお茶とよく合います

茱萸

 グミ。お菓子のあのグミと関係性はありませんが、見た目や食感は似ている部分があります。夏の終わりから実を付けますが、我が家のグミは渋味を持ち、きちんと熟すまで待たないと口の中がゴワゴワのシワシワになってしまうので注意が必要でした。
 サイズや形状はサクランボに似ています。長径1.5cmほどの赤い楕円形をした実で、薄い皮に包まれ、熟すとぷよぷよと柔らかくなります。目立つのですが食べ頃を迎えた物から野鳥が攫って行くので、彼らとの勝負に勝たなければあり付けません。

 味は酸味と甘味を併せ持ちます。上記の理由によって渋味を含むことが多々あります。甘味が強くないので、製菓材料にはあまり向きませんが、酸味による爽やかな後味のおかげでするすると食べ進められます。水などで軽く冷やしておやつやデザートとして食べました。
 歯応えは、初めお菓子のグミに似ています。弾力があり、歯の上で変形していくのが分かります。皮を噛み切ると果汁の豊かな果肉が溢れます。蜜柑や皮ごと食べた際のブドウに近いでしょうか。果汁は若干の青臭さと甘い香りで、果肉は甘酸っぱいです。飲み込むと酸味がわずかに残り、次の一口を求めます。

 やせた土地でも育つ上、樹高が3mほどまでの植物なので、植えて育ててみるのも良いかも知れませんね。

胡桃

 製菓材料として定番のクルミです。クルミの木は高いので、落ちた物を採取することが多いです。直径2~3cmほどの桃のような形をした実が初秋に落ち、晩秋にはその実が腐り落ちます。そうして露わになった種子を拾うのです。この種子の殻がクルミの鬼皮で、くるみ割り人形で割るアレです。これを割ると中の高脂質の胚乳が手に入り、人はこれを食します。
 実が腐り落ちた後に種子を探すので、森の中では熟練していないと採取が困難です。また殻を割るのにも技術が要るので、やってみようと思ってすぐにはなかなか難しい食糧ですね。私も1人でやれるまで3年ほどかかりました。それももう昔のことなので、またやろうと思ったら修行のし直しが必要ですね。

 殻を割ると独特の香りがします。可食部の脂質が揮発しているのです。そのままでも食べられますが、軽く炒ると香ばしさが増して美味です。大量に拾い、大量に割り、炒った物を瓶に入れて保管し、冬の間にちまちま食べます。香ばしく油分もあるので、赤ワインやブランデーが合います。細かくしてパンに混ぜたりお菓子に使うのもアリですね。

 最後に変わり種をひとつ。ブナの実です。日本では白神山地の原生林などで有名なあのブナ。その実です。
 ブナは樹高が大変高くなるので、実が成り、熟れ、割れて地面に落ちてきたのを拾うのが一般的です。状態としてはイガごと落ちて来ない栗をイメージしてもらえれば。なおサイズは栗より小さく、見付けるのは難しいです。
 採取するブナの実は、やせたどんぐりに似ています。形状は三角柱~三角錐といった形で、底面には花托と繋がっていた証のざらつきがあり、それ以外の部分はすべすべした茶褐色の固い殻に覆われています。底面と逆の頂点部分は尖っており、円筒~円錐形のどんぐりの側面をならして平らな面にした、というような形です。大きさは長辺が1~1.5cm、幅5~7mm、厚さ3mm程度です。とても小さいです。

 ブナの実はどんぐり系の実の中でずば抜けて美味です。糖質・脂質が豊かで、甘みを感じるほどです。やや粉っぽくはありますが、どんぐり系によくある渋味や苦味が全くありません。パクパクいけます。小さい上に見付けにくいのでお腹を満たすのにはあまり向かないのですが……

 余談ですが、以下のことがブナの実の採取をより難しくしています。
 まず、ブナの木が一般人にとって希少です。ブナは根から毒素を出し周囲の植物の育成を阻害するので、人工林に用いるにはデメリットが大きいのです。これにより、人が管理する森にわざわざ導入されないため、山奥などの商業利用が盛んでない森まで出向かないと出会いにくい樹木なのです。
 次に、野生動物にとってブナの実が食料として優秀過ぎます。栗やクルミのような厄介な殻が無く、栄養豊富で、美味い。ですので虫からリスからイノシシ、熊まで皆食べます。これにより人間が採取する前に野生動物に食べられてしまっていることが多いのです。
 最後に、実を付けるサイクルの存在です。ブナは数年に1度、多くの実を付けますが、それ以外の年にはほとんど実を付けません。実を食べる動物が近くにいないタイミングを作り、そこで一斉に種を撒いて生存を図ろうという戦略ですね。ですのでほとんどの年ではブナの実の母数が少ないのです。
 こんな厄介な性質を持つので、珍味と言ってよいのかも知れませんね。

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