ぼくはだれだったのか ♯1

ぼくには、ばかみたいだ、と思うくせがある。

まるで馬鹿かのようなくせを持っているという意味ではない。ぼくは、ことあるごとに、ああ、ばかみたいだ、思ってしまうのだ。

それはどういうふうだろう?

例えば朝起きたときに。あるいは美味しい食べ物を目の前に涎が出てくるのを感じたとき。暑さや寒さに戸惑いながら帰り道を急ぐとき。そんなときにぼくはいつも、ばかみたいだ、と思う。

特にばかみたいだと思うのは、トイレに入ったとき。自分で飲み込んだ水分を、大慌てで所定の場所に運搬する。ここまでおかしくてばかみたいなことは他にないんじゃないかな。それでいつもトイレでつぶやくんだ。

ばかみたいだ。

それはどういうふうだろう?

楽しい気分ではないよね。みんなもきっと左上か右下を向いて、去年の誕生日のことや明日の満員電車のことを思い浮かべながら、ばかみたいだって思うことはあるんじゃないかな。

残念なことだけど、きみもぼくも馬鹿ではなかった。

そしてぼくがだれだったのかという問題を持ち出して、静かな部屋をあんまりきれいじゃないタイピングの音で充満させて、いつものようにぼくはばかみたいだと思う。

それはどういうふうだろう?

これからゆっくりぼくがだれだったのかを考えていく。考えていかなければならない。

ああ、ばかみたいだ。



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