見出し画像

ばれ☆おど!⑧


 第8話 空気が読めない奴は誰だ!?


 ゴールデンウイークの平和な連休は終わった。
 だが、それを惜しんでいる暇はない。

 放課後の動物愛護部の部室――。
 そう。ここには険悪な空気が満ちている。

 相変わらずというべきか、うるみと緑子は全く話をしない。
 緑子がうるみを敵視している。激しい火花を散らしているのは、緑子ひとり。うるみは冷たく受け流している。
 美少女同士の敵対の図。悪くない。……はずだ。

 バタン!

 そこにカン太が現れた。
「遅くなりました……ハア、ハア、ハア……」

 うるみと緑子は着替え中であった。
 ――別にカン太がタイミングを合わせた訳ではない。本当の偶然なのだ。いや、紛れもなく不可抗力だ。

 おっと、美少女のふたりは、お着替え中なのである。
 うるみの真珠のような白い肌、すらりとした手足。つややかな長い黒髪がはずむ。下着はまばゆい白。
 緑子のやや胸のふくらみのある抜群なスタイル。銀色のツインテールが揺れる。下着は幸せを呼ぶ薄いピンク。
 カン太は、当然だが、目が釘付けになっていた。

「アカン! ユーはここに何をしにきた! 変態行為は厳禁だと言ったはずだ」

 そのすぐ隣で、源二が愛銃〝アンサー〟の手入れをしている。シリコンオイルを使った本格的なメンテだ。
「ぐ、ぐうぜんですよ。……って部長だって見てるじゃないですか!」
「ほーう。では、ユーに違いを説明してやろう」
「違い?」

「ユーはじっとイヤらしい目つきで見ていたが、私は自然物を眺めるように見ている」

「そんなの、わかるわけないでしょ!」
「それなら、本人たちに聞いてみるがいい」
「…………」
「さあ」

「……わかりました! オレの負けです!」

 カン太は思う。
(うん。確かにあたま真っ白になって、目が離せなかった。でもそれは男子として、正常な反応だろ。逆に自然物を眺めるようにって、あなたは僧侶か何かですか?)


 コン、コン、コン


 その時である。部室のドアをノックする音がした。
「どうぞ」
 源二は中に入るよう促した。

 カシャ

 一人の女子生徒が入るなり、フリーズする。
 ――つまり、硬直状態になって、茫然自失、脳の働きが麻痺。まあ、そんなところだ。
 言うまでもないが、そうなるのが、正常な反応である。

 だって二人の女子が着替え中、その同じ部屋で男子が平然としているのだ。日常ではまず、お目にかかれない光景だろう。

「ようこそ! 動物愛護部へ! ユーは入部希望者かな?」
「…………」
「どうかされましたかな?」

「ええと、その、皆様ご兄弟か何か、かしら?」

「いや、違うが、なにか?」
「ええ? なんで? あの着替え中のお二人は恥ずかしくないの?」

「おそらく。自分の肉体に相当な自信を持っている、か、よほどの鈍感、か、全く異なる価値体系を持っているか、うむ、そんなところだろう、そのいずれかだ。ワハハハ」

「…………あ、まあ、そうですか……あの、依頼したいのですが」

「伺いましょう!」

「うちのネコちゃん探してください! 誘拐されました!」
「ん? 待って下さい。誘拐とは? 何か犯人から要求でも?」

「要求なんてありません。でも、うちのネコちゃんは絶対に家出する子じゃないんです」
「お気持ちはわかりますが、そう言われても我々としてはですね……」

 その時、トコトコとシータが歩み寄って来て、喋り出した。

「源二兄さま! ちょっと、よろしいでしょうか?」
「なんだね。シータよ」
「最近、ペットの誘拐事件が発生してる、というネット情報が多数みられます」
「なんだと! それは由々しき事態だ! ……ということは」
「そうです。源二兄さま。依頼者様のネコの失踪も、誘拐の可能性があります」
「なるほど。それならば、我々が動かなければならないな」

「……縫いぐるみが、喋った…………うそ、これ、腹話術、だよね」

 依頼者の女子生徒は、シータが人間のように話していることに驚愕している。
「ユーが驚くのも無理はない。このシータは人工知能を備え、人の言葉を理解し、話すことはもちろん、推論、分析、演算などの思考能力は我々を遥かに上回っているのだ」

「え、えっ!? ここは動物愛護部じゃないの?」

「そうだが、なにか?」
「……ふつう、こういうのって、物理部とか、コンピューター部でしょ?」
「いや、発明は我が部には欠かせないスキルなのだ」
「スキルって、誰の?」
「フフフ……。私のだ」
「え?!」
「コホン。んんっ。〝孤高のマッドドクター〟という通り名、聞いたことがあろう」

「あ、あなたが、あの噂の……」

「そうだ。私の発明品は武器だけではない」
「すごい! すごいです! 感激です!」(もちろん社交辞令である)

「フ、ファ、ハハハハハ。サインが欲しいのなら今なら無料だぞ」

「…………」

「さあ、遠慮はいらんぞ!」

「…………」

 女子生徒は再フリーズした。

 カン太は思う。
(誰かこの人、止めてくれ)

 そして、カン太は勇気をだして言い出した。
「部長! そろそろ要件を詳しく聞きたいです!」
 源二はじろりとカン太に一瞥をくれると、言い放つ。

「ユーは空気を読むということができないのか?」

 カン太は思う。
(いやいや、読めてないのは、あんただよ)

「……仕方ない。それでは要件の方をお伺いしよう。まずはお名前から」
「はい。私は2-Cの杉山千夏です。よろしくお願いします」

「ふむ。では誘拐された詳しい経緯を伺おう」

「あ、はい。ええと、うちのネコちゃんはノンと言いますが、ノンはいつも夕方四時には家に帰っきてご飯を食べるんです。三日前のことでした。その日は帰って来なかったんです。私は心配で夜中まで町中を探しました。でも、ノンはどこにもいませんでした。どこかに連れ去られたとしか考えられません!」

「なるほど。わかりました。……シータよ。ネット上の噂から、何かヒントになるデータはないか?」
「はい。源二兄さま。では、ここ一か月の事件が発生している場所を地図上にマーキングしたファイルを、PCに送ります」
「うむ。たのむ」

 うるみがシータから送信されたファイルを開くと、PCの画面に雀ケ谷市の地図上に事件の発生現場が、日時と共にマーキングされた画像が映し出された」
その画面を全員が覗き込む。

 カン太は少々ドヤ顔で指摘した。
「部長! この旧市役所庁舎の付近を中心として誘拐が多発してますね」
「よく気づいたな。褒美として犯人のしっぽをつかむまで、張り込みをするという栄誉をユーに与えよう」

「え? また俺ですか?」
「そうか。口答えするのか?」

「張り込み。とても嬉しいです!」

「よろしい。では、これを使いたまえ」
そういうと源二は小型のモデルガン(のように見える)をカン太に渡した。

「この銃の弾丸は、非常に特殊だ。標的にくっつく。そして、超小型発信機が埋め込まれている」
「…………」
「誘拐犯を見つけたら、気づかれないように、相手に打ち込め」
「……わかりました」

「我が発明品、標的追尾銃〝チェイサー〟の威力に惚れるなよ。ハハハ…」



(つづく)

画像1


ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです