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ばれ☆おど!⑤



 第二章『暗闇からの執行人』


 第5話 ぬいぐるみ型ロボット〝シータ〟

 翌日、四月二十八日。ゴールデンウイークの始まり、行楽シーズンの始まり、高速道路の渋滞の始まり、そして、カン太の新たな人生の始まりの日となった。

「部長、正式に入部します。これからも動物愛護活動をやらせてください、お願いします!」

「おー、ついに目覚めてくれたか。その心意気、しかと受け止めた。あらためてユーの入部を歓迎する!」
「吾川カン太です、今後ともよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む」
「吾川先輩、歓迎します。よろしくお願いします」
 妖精を思わせる美少女、うるみはやさしく微笑み、挨拶を返した。
 バラ色のときめきオーラが放たれる。

「アガワ、カンタ……そうだ! いいニックネームを思いついたぞ! 略して『アカン』にしよう、……おい、アカン! 単独行動はアカン!」
「…………」
「…………」

「どうした、ふたりとも、黙っていてはアカン!」
「…………」
「…………」

「コホン、それでは本日の部活動を始める。アカンよ、ユーには紹介がまだだったが、我が動物愛護部には部員がもうひとりいるのだ。今から紹介しよう」

 そう言うと、源二はロッカーから、縫いぐるみらしきものを取り出す。そして何かの取っ手のようなものを縫いぐるみの背中に差し込むと、回し出した。

 しばらくすると縫いぐるみの目が一瞬光り、手足がゆっくりと動き出す。
 源二はその縫いぐるみに向かって話しかけた。
「ハロー! シータ」

「……………………シータ、再起動しました。ただいまデータロード中……インターネット接続完了……自動アップデート確認、ウイルスチェック完了…………おはようございます。源二兄様」
「シータ、早速だが我が部に新しい部員が入ったので紹介しよう、吾川カン太君、ニックネームはアカンと先ほど決まった。よろしく頼む。コホン」

 愛くるしい縫いぐるみが、羽の生えた靴を履いて、ヨタヨタと歩いてくる。
 そして、人間のように喋り始めた。
 ――まるっきり人間と変わらない。それは、まるで生きているみたいだった。
「吾川様ですね。シータと申します。よろしくお願いします」

「あ、あ、あそう。よ、よろしく、お願いします」

「どうだ、驚いたか! シータも我が発明品の一つなのだよ。彼女はなんと人工知能を備えていて人間のように学習することによって、どんどんお利口さんになっていくのだ。しかも、インターネットに接続されていて、その情報を常に蓄積しているのだ。すでにアカン、ユーよりも利口になっているぞ! 世界中の言葉を理解し、話すことができるのだ」

「……つまり、ロボットとスマホを合体させたような感じですか?」

「まあ、強いて言えばそうだ、アカンよ。電波の届くところでは、離れていてもスマホで彼女と会話できるし、彼女をスマホ代わりに使うこともできるのだ」

「凄いですね! 頼もしい仲間ですね」

「そんなに褒められると、シータは恥ずかしいです。でも、ありがとうございます」

「……、あ、いえいえ、ところで部長、最初にシータの背中になにか差し込んで回してましたよね。あれは何ですか?」

「うーむ、そこに気づくとは……。いいだろう。教えてやろう。シータはゼンマイ仕掛けなのだ。あれはゼンマイのネジを巻いていたのだ」

「え?! だって人工知能まで備えていて、ゼンマイって?」

「アカンよ、ユーはエコというものを知らないのか? 地球にやさしい発明こそ現代科学の最先端なのだ。太陽電池も候補のひとつだったが、天候に影響される。やはりゼンマイ仕掛けがベストだ」

「でも、途中で止まっちゃうでしょ?」

「どんな動力でも永久に使えるものはない。このゼンマイは特殊なのだ。ハイパーゼンマイと言ってな……」


 ガシャーン!


 そのとき突然、部室の窓ガラスが割れた――。

 カン太、うるみ、源二はいっせいに振り向く。

 ポッカリと穴が空いた部室の窓ガラスの周りにはガラスの破片が飛び散っているが、石とか野球のボールとか、その原因となるものは床には落ちてない。
 だが、部室全体を探すと窓ガラスとちょうど反対側の壁にアーチェリーの矢らしきものが刺さっていた。

 その矢には紙でできたものが巻き付けて結んである。どうやら、矢文のようだ。源二が矢を引き抜き、矢文を開く。

「なんだ? 手紙のようだな……!! フフフ、無謀な要求だな」

「部長、なんて書いてあるんですか?」
 うるみが囁くように問いかけた。

「アカンに我が動物愛護部を退部しろという要求だ! けしからん!」

 カン太はその手紙を奪いすばやく目を通した。


 警告する! 
 貴部の吾川カン太氏を即刻退部させることを要求する
 もし、要求を呑めないなら、その時は報復措置をとる
 期限は1週間。5月5日の日没とする



(つづく)

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