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ばれ☆おど!㊶

 第41話 それぞれの思いを胸に


 それは、古くてボロボロになっている手帳だった。

 源二は言った。
「これは、私の父の遺品だ。ここには、あのサテンドールについて書かれている」

「え? 部長のお父さんは亡くなっていたんですか? 知らなかった」
「まあ、聞かれなければ、言うことはないからな」
「なんで、部長のお父さんが、サテンドールと関わっていたんですか?」

「聞きたいか?」

 ドカッ

「私も聞きたい!」
 その時、新聞部部長、金髪ツインテールのアイリが、突然ドアを開けて、入ってきた。
 後ろには長身の美少年、副部長の藤原大福丸が、控えている。

 源二はそれを見て、言った。
「部外者は立ち入り禁止だ! 出て行ってもらおう」
「源二ちゃん、そんな冷たいこといわないでさぁ」
 アイリは源二にすり寄る。片手にポップコーンを持ったままだが。
「ダメなものはダメだ」
 源二はかたくなに拒否する。

「ちょっと! 新聞部? 部長! 約束忘れた?」
 横から、綾香が口をはさんだ。

「約束? 何のことだ?」
「私を有名にしてくれるんでしょ? それなら、まずは校内からだよね? 新聞部とは仲良くしなきゃじゃないの?」
「むむ…………」

 アイリは思い出した。
「お、お前は! あの時の……」
「そうよ。よろしくね。新聞部さん」

 源二は苦虫をかみ殺したような表情で、声を絞り出した。
「い、いいだろう。取材を許可する。ただし、記事にするなら、我が部の安全に考慮していただきたい」
「心配には及ばないぞ。もちろん、そうする。我々の稼業では当然のことだ」

「わかった。では、話そう」
「そうこなくちゃ! 源二ちゃん」

 源二は語り始める――。
 小さな探偵事務所で探偵業を営む源二の父親、源二三五郎(ゲンジサンゴロウ)は迷い猫の依頼を受け、聞き込みを行っていた。ところが、その時に、同じようなケースの迷い猫が、地域全体で集中して起こっていることに気づく。それも、異常なほどだ。調べを進めていくうちに、その裏で糸を引いている巨大組織の痕跡を発見する。
 組織名〝サテンドール〟――三五郎は知ってはいけないものを知ることになる。だが、正義感の強い彼は、次第に組織の影を追うようになっていった。コツコツとその痕跡をたどり、証拠を集め、組織の全容を徐々に解明していったのである。だが、ある時、三五郎は忽然と姿を消す。


 源二は言った。
「この手記はわが父、三五郎が遺したものだ。私が、この動物愛護部を設立した動機が、ここにある。サテンドールと対抗するために、特殊な能力を持つ者を仲間に引き入れ、武器や道具を発明してきた……」

 カン太は手記を手に取ると言った。
「中を見てもいいですか?」
「もちろんだ」
「……」
 中身は色あせ、ところどころにシミや汚れがあり、インクの滲みがひどくて読みづらい部分も多い。

 問題は最後の部分だった。
 手記の最後にはこう記されている。
 ――今これを手に取り、読んでいる君に伝える。これが、人の手に渡るということは、私はすでにこの世にはいないだろう。もし、君がこれを読んで、私に賛同してくれるなら、この手記を頼りに私の後を継いでほしい。――源二三五郎より。


「この手記は、母から、中学を卒業した日に、父のものだと告げられ、渡されたものだ」
「……」
「私は父の遺志を継ぎ、サテンドールを追うために、この動物愛護部を設立した。だから、私怨だと言われても仕方ない」

 カン太は、答える。
「それは私怨じゃないと思います。だって、これは〝これを読んで賛同した人〟に向けられています。部長宛てにはなっていません」
「……」
「オレは、賛同します!」
「……」
「私も」
「私もよ」
 うるみと緑子も同じ気持ちだった。
「仕方ないなぁ。じゃあ、私もね」
 そう言って、綾香も入部早々に、賛同したのだった。


 ◇ ◇ ◇


 動物愛護部の部室を後にした、
 アイリと大福丸。
 アイリが感極まって、瞳を輝かせながら言った。
「なあ、大福。あの部、なかなかイケてる部だと思うぞ」
「はい。部長。僕もそう思います。でも、わが新聞部も負けてはいません」
「お、おう。そうだな。命がけの取材も厭わず、潜入取材なんてプロ顔負けだしな。ガハハハッ……」
「部長。我が部は、部長の引継ぎはいつやるんですか?」
「おお、そうだった。でも、すでに副部長のお前が引き継ぐことが、暗黙の了解になっているしな。いまさら感も否めない」
「部長は卒業しても、また大学で新聞部に入るんですか?」
 大福丸の問いかけに、アイリはしばらく口を閉じたまま、何かを考えているようだった。
「………………」
 急に立ち止まる。
 そして、アイリは言った。
「大福がいない新聞部なんて、入らない」
「……部長。僕はまだあと1年ここに残らなければなりません。部長の後を追いかけて、その大学の新聞部に入りますから、待っていてください」
「……いやだ……いやだ! 大福、私は卒業したくない! ずっと、大福と一緒にいたい!」
 そう言ってアイリは泣きじゃくった。
 大福丸はアイリをやさしく抱き寄せ、こう言った。
「部長、泣かないでください。僕だって辛いんです。部長と離れ離れになるのが」
「……」
「部長。こんな時に、すいません。僕は部長のことを……ずっと……」
 アイリは甘えた声で、聞き返した。
「……ずっと? ずっとなあに?」
「……初めてお会いした時から、ずっと、ずっと好きでした」
 アイリは涙を浮かべながら大福丸を見上げた。
「大福。私も。私も大福が好きだ!」


 ◇ ◇ ◇


 もうすぐ桜の花が咲く予感がする季節。卒業の季節。別れの季節。
 幾度も季節はめぐり、同じことが永遠に繰り返されるのだろう。

 卒業式当日。
 何度も何度も練習し、リハーサルまではとても長いものだ。
 本番は校長の挨拶や来賓の祝辞などが加わり、さらに長い時間がかかるはずだった。
 しかし、実際の卒業式は、不思議と、あっという間に終わってしまう気がする。

 この時が、永遠に続けば……。もしも、時間を戻すことができたら……。この学園生活が終わらないでほしい。
 そんな卒業生たちの思いは虚しく、卒業式は順調に進行していった。
 在校生の送辞は、カン太のクラスの学級委員長である、千年麻里奈が務めた。
 彼女の送辞は、卒業生たちの胸を打ち、多くの涙を誘う。

 源二やアイリもその中の一人だった。

 麻里奈の滔々とした送辞の言葉が続く。
「…………常に私たち後輩の前を歩き、お手本となって下さった先輩方の背中は、私たちにかけがえのないものを残してくださいました…………先輩方が自分の夢のために日々試行錯誤し、努力してこられた姿を、私たちはずっと見てまいりました…………」

 そして、暖かい拍手とともに卒業式は終了した。
 終わってみれば、あっという間だった気がした。


 源二は、学園生活の最後になる、たくさんの思い出が染み付いた校門からの下校の時を迎えた。
 思い切って、一歩踏み出す。
 そして通過する。

 ………………。


「部長! 卒業おめでとうございます!」
 校門の外には、カン太、うるみ、緑子、シータを抱いた綾香が見送りに来ていた。

「おお、ユーたち、来てくれたのか!」

 カン太が、満面の笑顔で言う。
「もちろんですよ」

 源二は感極まって、目頭を押さえた。

 綾香がからかう。
「あ、もしかして泣かせちゃった?」

 源二は目をこすりながら言う。
「そんなわけ、わけはない。これはなあ、目にゴミが入ったのだ」

 綾香はにっこりと微笑んでとぼけた。
「ああ、そうですか」

 源二は腕で目を隠しながら、
「そうだ。勘違いしてもらっては困る」
 と言うと、カン太に抱きついてこう告げた。

「アカン。確かに、ユーに任せたぞ!」

 カン太は頼もしい表情で、力強く答えた。
「はい! わかりました」


 うるみと緑子は源二に頭を下げる。

「お疲れ様でした!」
 二人の美少女の声が重った。




(第六章おしまい)


ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです