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オーストリアワインは進化する

フレッド・ロイマーのワインを飲むといつでも、よくわからないなあと思う。

ロイマーさんのワインはシンプルでスタイリッシュなボトルに入った、とてもオーストリアらしい美しさのあるワインだ。本拠地のカンプタールと少し離れたウィーンの近くの産地グンポルツキルフェンにも畑を持ち、オーガニックとビオディナミで栽培を行っている。彼はヴァン・ナチュールが個人的に好きだと言うが、とはいえ彼のワインはよくある「自然な」ワインに見られる濁りやオフフレーヴァーはなく、極めてクリーンな、オーストリアらしい破綻のなさが魅力だ。

その破綻のなさは、昨今世界のどこにでも、雨後の筍のように増えたオレンジワインについても一貫している。「アハトゥン」は、オーストリアでもいち早くオレンジワインに挑戦したロイマーさんのオレンジワインのシリーズ。当初は試行錯誤が伺えたが、今ではどのワインも見事に磨かれた美しさがある。

クラシックなスタイルのグリューナー・フェルトリーナーやリースリングにしろ、アハトゥンにしろ、一貫した品質の高さと美意識を感じる。遠くから見るとまるで畑に四角い穴が空いたのかと見間違えるような印象的なワイナリーのように、彼のワインはシンプルに研ぎ澄まされている。

そんなロイマーさん(ちなみに超ダンディなオジサンだ。多分世界のワイン生産者でイケメンランキングを作ったら軽く10指に入るだろう。閑話休題。)と何度かお会いして話をしたことがあるが、いつもどことなく捉え所がない気がしてしまう。とにかくビオディナミについての話を熱を込めて喋るのだ。

ワインは欠点がなくパーフェクト。だけど話は畑のことばかり。近代建築のようなワインはどこか人を寄せつけないような気がしてきて、畑の話を熱心にするロイマーさんとどこかギャップを感じてもいた。

そもそもオーストリアワイン自体が、欠点のない美しいワインだとも言える。1985年のジエチレングリコール事件から立ち直る過程で、オーストリアワインはそれまでの低品質低価格なワインから高品質高付加価値なものへと大きく舵を切った。クリーンであることは、少なくとも当時高品質であることの最低条件であっただろう。オペラやクラシック音楽にも比べられる美しいオーストリアワインは、1985年からほんの20年かそこいらで世界に認められることとなった。

その文脈に対抗する形で出てきたのが、いわゆるヴァン・ナチュールである。欠点をなくすことはともすれば画一化とも繋がる。そうではなく、それぞれの産地や生産者をもっと反映したワインを!欠点なんてなんのその、らしさがあればいいじゃない、と言うと流石に乱暴に過ぎるが、オーストリアでも大きなムーヴメントとなっている。

先日オンラインで話していてはたと気がついた。なんのことはない。フレッド・ロイマーは通常のクラシックワインと、ナチュールのアハトゥン、という二面性を持った生産者だ、とずっとなんとなく思ってきたけれど、それは違うんじゃないか。クラシックの文脈の中にずっとあって、そこから新しい可能性を探っているのがフレッド・ロイマーなのではないか。クリーンで美しいけれどそこに留まらず、ナチュールの良さも取り入れてその先の可能性を追求しているのではないか。

そう思ったのは、ひとつは彼の単一畑のシリーズで2017年からノンフィルターに変えているという話を聞いたこと、そしてもうひとつは、新しくリリースされたこのオレンジワインによる。

グリュクリッヒは、オーストリアの昔ながらのワインを意識して造られたという。複数品種、そして複数ヴィンテージのブレンドは昔はよく行われていた醸造方法だそうで、それを取り入れつつ、カジュアルに楽しんでもらうことも狙ったキュヴェだそうだ。

ロイマーさんはこのワインでも裏切らない。復古的なコンセプト、オレンジワイン、低価格ながら、一貫した揺らがない美しさがある。素晴らしく完成度の高いオレンジワイン。ロイマーさんのワインは、そろそろ次のステップに踏み出しつつあるのかもしれない。クラシックの中に顔を覗かせるであろう新たな可能性を見つけるために、久しぶりにいろいろ飲んでみたいと思う。

生産者:Fred Loimer

ワイン:Gluegglich NV (左のボトル。右のpet nat mit Achtungも素晴らしいので機会があれば是非)

インポーター:日本グランドシャンパーニュ

価格:¥2,300

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